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OCTAGON  作者: 海内裏


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第十九話:牙を隠した歩み寄り

『第四試合、始め!』電子音声がアリーナに響き、葦中高校の中堅がオクタゴンへと上がってきた。その手に握られているのは、先鋒の短刀二刀流でも、二人目の薙刀でもない。三人目にしてようやく現れた『一刀・ノーマル型』の標準的なカーボン木刀だった。

(実力派か……)九十歩は面金の奥で小さく息を吐き、少し間合いを取った。奇策のメッキが剥がれ落ちた葦中において、あえてこのタイミングで王道のノーマル型を投入してくるということは、奇襲に頼らない真の強者である可能性が高い。慎重に相手の構えを見据える。

しかし、相手はそんな九十歩の警戒を嘲笑うかのように、一気に、直線的に間合いを詰めてきた。九十歩は即座に対応しようとするが、どうしても次の手が読めない。対峙している相手の、刀を持つ手に全く力が入っていないのだ。脱力しきった不気味な構え。刃先が揺れ、どこに打ってくるのかが完全に分からない。不用意に動けば一瞬で隙を突かれる。九十歩は冷静に、ひたすらに間合いを取り続けた。一歩、また一歩とオクタゴンの床を滑らせ、相手の変幻自在なプレッシャーから距離を置こうとする。だが、脱力した相手の足取りは鋭く、九十歩は次第にオクタゴンの壁際へと追い込まれ、詰められていく。その緊迫した距離のなかで、突如、相手の足が鋭く伸びてきた。

(足払いだ)九十歩は即座に気づいた。軸足を刈り取り、オクタゴンの床へ引きずり込むテイクダウンの戦術。これに関しては、部室の仮想オクタゴンで高知を相手に、それこそ嫌というほどやられてきた。しかも、目の前の中堅が繰り出してきた足払いの軌道は、高知の凶暴な足払いに比べればあまりにも「浅い」。誰よりも争いごとが苦手で、和を重んじる少年。強くなって誰かを叩き伏せるような人間にはなりたくないと願った、アユトの優しき本質が、その極限の刹那に動いた。

九十歩は相手の浅い突進を柳のようにいなし、そっと、相手の体に余計な負担がないように最小限の力で触れ、ポイントだけを奪い去った。シャキィィィン!!!!「そこまで! 有効打突!」タイムアップのブザーが鳴り響く。九十歩は傷つける恐怖を乗り越え、相手を痛めつけることなく、ただ静かに、確実に勝利を手にした。

その後の展開は、拍子抜けするほどに早かった。続いて上がってきた葦中高校の副将と大将は、ただの二刀流と長刀を構えるだけで、先ほどまでの不気味な連携は見る影もなかった。どうやら、彼らの特異な戦術は完全にネタ切れのようだった。奇襲の本質を見抜いた星ヶ丘の敵ではなく、九十歩は危なげなくその刃を退けていく。電子音が鳴り響き、試合終了が告げられた。気づけば、九十歩は一人で「四人抜き」をやってのけていた。

星ヶ丘高校サムライ部の圧倒的な二回戦突破。湧き上がるベンチの歓声を遠くに聞きながら、九十歩は面を外し、流れる汗を拭った。ふと、自分の心の拠り所である、あの黒髪のポニーテールの少女の顔が頭をよぎる。

(ともえもインターハイ予選、順調だろうか)

弓道部の彼女なら、今頃きっと凛とした佇まいで、すべての的を射抜いているに違いない。

(いや……心配するだけ無駄か、あいつは強いもんな……笑)

自分をサムライ部へと導いてくれた、あの誇らしげでガキ大将のような笑顔を思い浮かべ、九十歩は小さく自嘲気味に微笑むのだった。

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