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OCTAGON  作者: 海内裏


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第一話:十人のサムライ

「刃筋が数ミリ寝ているぞ! それじゃあAI判定はライトを灯してくれない!今週末の練習試合まで気を抜くな!」

春の体育館に、星ヶ丘高校サムライ部部長、3年生の五代イツヨの声が響く。もう一人の3年生である副部長の今井イマイがタブレットを片手に頷いているが、彼ら3年生2人は、実は創部から2年間で「公式戦の一回戦すら一度も勝ったことがない」万年予選落ちの先輩たちだった。彼らの役割は、もはやルールと基礎練習を後輩に教えることだけになっていた。

「おい、間合いに入るな! 距離を取れ!」

仮想オクタゴンの床で声を荒らげているのは、2年生の男子部員2人だ。手永テナガ九十歩クジュウブの2年生コンビは、BUSHIDOの激しい肉体接触を極端に嫌い、規定内ギリギリの長さを持つ『長刀(リーチ型)』を選択していた。しかし、最新テクノロジーのカーボン製木刀を全く使いこなせておらず、いまだに公式試合のステージにすら立たせてもらえない。

3年男子2名、2年男子2名。星ヶ丘高校サムライ部の上級生男子は、はっきり言って弱小だった。だが、この部活には世界を狙える「本物」が一人だけいる。

「長刀に頼って足が止まったら、BUSHIDOでは即死だよ」

冷徹な声とともに、2年生唯一の女子部員であり、星ヶ丘の絶対的エース——亘理羽美ワタリ ウミがステージに上がった。

今年入部した1年生は5名(男子2、女子3)。なんと全員が中学時代の「元剣道部」という、本来なら大豊作のルーキーたちだった。彼らは「高校から始めた」という亘理羽美を見上げ、少し侮るような目を向けていた。伝統ある剣道の経験値なら、自分たちの方が上だ、と。

「誰からでもいいよ。一本先取のサドンデス、かかってきて」

亘理羽美は腰の「鞘」に学校支給の型落ち木刀を収め、すっと自然体で立った。BUSHIDOで使う刀は安全性に優れた超軽量素材でありながら、日本刀の「反り」「刃筋」を視認できる美しいデザイン、これを使うからこそ、肉体の体格差を超越できる。彼女の美しい佇まいには、すでに独特の凄みが漂っていた。

「じゃあ、僕からいきます」

1年の男子部員が、剣道仕込みの鋭い踏み込みで面を繰り出す。——その瞬間だった。世界が静止したかと思うほどの速度で、亘理羽美の身体が沈み込む。

シャキィィィン!!

鼓膜を震わせる美しい電子音。羽美の代名詞、腰の鞘から一瞬で刀を引き抜き、AIが求める完璧な角度とスピードで一撃を叩き込む、究極の「抜刀アクション」。

1年生の防具が、チェリーレッドのLEDで激しく発光した。力任せの平打ちを無効化するセンサーが、完璧な気剣体の一致を感知した証だった。

【有効打突:角度90度・スピードSS。一本】

「え……?」1年の男子部員は、自分が打たれたことすら気付けなかった。残る4人の1年生も、完全に凍りついている。剣道の全日本クラスの突きすら凌駕する、現代のテクノロジーの結晶。亘理羽美の抜刀の前では、彼らは指一本動かすことすらできなかった。

「驚くことはないよ。私も高校からこれを始めたの」

亘理羽美はパチン、と木刀を鞘に収め、期待に目を輝かせる1年生たちに微笑みかけた。

「BUSHIDOは剣道とは違う。力任せの平打ちはAIに無効化される。だけど、この『抜刀』の技術さえ身につければ、どんな大男だって一瞬で沈められる。みんなにも、私の抜刀を教えるね」

しかし、その指導は想像以上に難航することになる。剣道部としての高いプライドが、逆にBUSHIDOの新しいルールに適応する上での分厚い壁として、彼らの前に立ちはだかる。

その週末、星ヶ丘高校サムライ部は、練習試合のために高山高校を訪れていた。

「BUSHIDO FIGHT練習試合、星ヶ丘高校対市立高山高校。5対5の勝ち抜き戦、始め!」

ブザーの音とともに、LED照明が、高山高校の道場に設置された仮想オクタゴンを照らし出した。星ヶ丘高校の作戦はシンプルだった。絶対的エースである2年の亘理羽美を先鋒に据え、一気に勝負を決める。

「シャキィィィン!」

試合開始の直後、羽美の神速 の 抜刀が炸裂した。高山高校の先鋒、次鋒、そして中堅。彼らは彼女の居合いの前に刃を交えることすらできず、防具を赤く光らせて沈んでいった。――サイバー防具による電子判定(AI)、センサーとAIが「正しい刃筋・角度・スピード」で捉えた打突のみを有効判定。打突時に発光するLEDを内蔵し、有効打を可視化する。――3人抜き。やはり羽美の実力は本物だった。しかし、4人目。高山高校の副将として現れた1年生の前に、異変が起きる。

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