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OCTAGON  作者: 海内裏


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第十六話:不穏なる新星

『予選二回戦、始め!』

アナウンスがアリーナに響く中、星ヶ丘高校サムライ部の面々は、オクタゴンの向こう側に立つ不気味な敵勢を睨みつけていた。

二回戦の対戦相手は、県立 葦中あしなか高校。あの二刀流の宇津志を擁する高山高校を、一回戦でノーマークから引き摺り下ろし勝ち上がってきた。高知の補習強制出席と手永の出場辞退を受け、星ヶ丘が組んだ布陣は以下の通り。先鋒、萌香。次鋒、九十歩。中堅、手永。副将、太原。大将、羽美。

「……おい、桐生コーチ。なんか顔色悪くねえか?」

副部長の今井が監督席を盗み見て、小さく呟いた。いつもなら不敵に顎を撫でているはずの桐生陣が、心なしか異様に大人しく、どこか魂の抜けたような顔でパイプ椅子に深く腰掛けているのだ。昨晩、実家の妹・荻香から浴びせられ続けた、過去の怨念混じりの終わりのない小言ループのダメージが、深く彼の精神を削り取っていたことを、部員たちは誰も知らなかった。

そんな指揮官の様子を横目に、サポートの帆南がタブレットのデータをスクロールする。

「去年までのデータだと、葦中高校は毎年一回戦負けの弱小校だったはずなんです。だけど……今年のオーダー、全員が『一年生』で統一されてます」

データオタクの帆南の言葉通り、オクタゴンへ上がってきた葦中の先鋒は、まだあどけなさの残る一年生だった。だが、その構えを見た瞬間、太原あいりは息を呑んだ。

「……え? 短刀の、二刀流……?」

相手が両手に携えているのは、BUSHIDO FIGHTの規定内ギリギリまで切り詰められた、二本の極端に短いカーボン木刀だった。

(どうやって戦えばいいの!?)

前回の試合で大将・小嶋が見せた変則的なスタイルとはまた違う、完全に近接格闘インファイトへ特化させた異常な兵装。しかし、その太原の肩を無言で押し退け、ギチギチと凄まじい音を立てて木刀の柄を絞りながらオクタゴンへと上がっていく影があった。先鋒、小平萌香。

「……アタマにきた。マジで、許さない」

面金の奥の瞳が、完全に据わっていた。萌香は、一学期中間テストの追試にギリギリで合格したものの、そのために大好きな刀を振るう時間を奪われ、脳みそを文字の羅列ですり潰されたことへのイライラが、今まさに頂点に達していたのだ。完全に八つ当たりだった。

『第一試合、始め!』

「——ッ!」太原が息を呑む。

相手の身体が陽炎のようにブレた。一気に、爆発的な速度で間合いを詰められる。それは伝統的な剣道のステップではなく、低く地を這うような、まるで忍者のような変幻自在のフットワークだった。

短い刃が死角から次々と繰り出される。完璧な気剣体の一致による一本(即死判定)こそなかったものの、3ラウンド制の10点減点方式のゲージが、一瞬の隙にガリガリと削り取られていく。相手が萌香の懐へと滑り込もうとしたその時。

「うおおおあああっ!!」

獣のような咆哮とともに、萌香は一歩も退かずに、ただひたすらに狂暴なまでの連打を縦横無尽に叩き込んだ。相手の短刀が肉薄するよりも速く、野生の直感のままに振り下ろされる超高速の面、小手、胴。完璧な刃筋など知るかと言わんばかりの圧倒的な手数と暴力的なスピードが、葦中の先鋒を正面から完全に圧殺していく。ガツン! ガガガツン!! シャキィィィン!!「有効打突!」「有効打突!」電子音がアリーナに連打される。

あまりの猛攻に驚愕した相手が防戦一方になったところへ、萌香の怒りの一振りが、相手のメインセンサーへと強烈に叩き込まれた。

シャキィィィン!!!!「そこまで! 一本!!」

気がつけば、葦中の先鋒は、サイバー防具をチェリーレッドに激しく発光させながら、オクタゴンの床へと仰向けにひっくり返っていた。完璧なKO勝ち。

ベンチでそれを見ていた太原が、ハッと息を呑んで気がついた。

「……そうか。私、あの奇妙なスタイルに驚いて、自分から萎縮しちゃってたんだ。相手の動きは速かったけど、基礎の実力そのものは、そこまで伴ってなかったんだ……!」

今の萌香には、相手の構えも、変則的な二刀流の理合も、何一つとして目に入っていなかった。

奇策に惑わされず、いつも通りに自分の刃をぶつければ十分に通用する相手だったのだ。萌香の理不尽なまでの怒りが、葦中の化けの皮を一枚剥ぎ取ってみせた。しかし、オクタゴンの中心に立つ小平萌香の肩は、未だに激しく上下していた。

「次! 早く来てよ! 全然スッキリしない!」

追試のストレスという名の燃料は、まだまだ大量に残っている。続いて上がってくる葦中高校の二人目を睨みつけながら、星ヶ丘の暴走特急・萌香は、ギラギラと狂暴に輝く瞳で次の獲物を待ち構えるのだった。

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