第十四話:四日間の景色
『第八試合、始め!』電子音声がアリーナに鳴り響く中、星ヶ丘高校の副将、三年生の今井は、追い詰められていた。
インターハイ県予選団体戦の一回戦。追試によって主力の3人を欠いたこの初戦を、残された代行者たちで耐え抜き、ここで負けてしまえば星ヶ丘の夏はすべて終わる。
(ここで負けてたまるか……!)
今井の脳裏に、この過酷なトーナメントの先にある「景色」が鮮烈に浮かんでいた。今日の予選一回戦を泥臭くても突破すれば、明日の二回戦になればニ人が戻ってくる。三日目の準々決勝、準決勝。そして最終日四日目の決勝戦。かつては型落ちのサイバー防具しかなく、部員も足りなかった弱小サムライ部にとって、全国へ繋がるその決勝の舞台は、もう決して夢の景色ではなかった。すぐそこに、手を伸ばせば届く現実として存在しているのだ。
(だが、ここで勝たなくては……!)
全身を震わせながら小嶋の前に立つ。試合が始まり小嶋がポイントを取りながら距離を詰める。その時、今井は小嶋の視界から完全に消える。ベンチからは丸見えだ。今井は、小嶋の放った鋭い一振りを避けるため、文字通りその場に泥臭くしゃがんだのだ。
「なにをしてるんだ?」誰もがそう思った瞬間。四つん這いに近い姿勢のまま、今井は飛び跳ねるように突きを繰り出す。伝統的な剣道の理合にも、洗練されたプロの技術にも存在しない、およそ剣術とは思えないその戦法。
しかし、その捨て身の凶刃は、小嶋のサイバー防具の胸元にあるメインセンサーのど真ん中を完全に捉え、劇的な「一本」をもぎ取る。変幻自在のムチの刃で、小嶋が完全に制圧していたはずのオクタゴン。その冷徹な支配の手から、今井は自らの泥臭い執念でかろうじて逃れたのだ。この瞬間、星ヶ丘高校サムライ部の「一回戦突破」が確定した。
「……っしゃあ!」今井は床に転がり、面を外して激しく息を荒らげながら、天井のライトを見上げて吠えた。
「すげえ……今井先輩、マジで一回戦突破をもぎ取った……!」ベンチの一年生たちが、狂喜乱舞して飛び跳ねる。手永もまた、才能の壁を気迫でこじ開けた先輩の背中を見つめ、胸の奥の火を激しく燃え上がらせていた。かろうじて、次に望みをつなぐ。主力を欠いた代行者たちの闘いは、大金星という最高の形で幕を閉じた。星ヶ丘高校サムライ部の夏は、まだ、終わらない。
アリーナでの大熱戦から数時間後。誰もいない星ヶ丘高校の体育館では、追試を終えた羽美、高知、萌香の3人が、溜まった鬱憤を晴らすように激しく竹刀を交わしていた。そこへ、一足先に一回戦の会場から引き上げてきた一年生の帆南が、息を切らせて体育館へと駆け込んできた。
「みんな……! 一回戦の、結果が……っ」ハァハァと肩を上下させる帆南の言葉は、最後まで続かなかった。だが、言葉を聞くまでもなく、その紅潮した肌と、弾けるような満面の笑みが、すでに星ヶ丘の勝利を何よりも雄弁に物語っていた。
「一回戦、突破……!」
遅れて体育館の扉を開け、ゾロゾロと入ってきた上級生たち。その中心にいる副将の今井は、およそ剣術とは思えない「しゃがみ跳び突き」で劇的な一本をもぎ取った主役であるにもかかわらず、三年生としての気恥ずかしさからか、面を小脇に抱えて終始俯き、耳まで真っ赤に染めている。
対照的に、大将の五代部長は「見たか! これがうちの副将の底力よ!」と、まるで自分の手柄であるかのように胸を張り、大声で自慢し倒していた。




