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OCTAGON  作者: 海内裏


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第十二話:無意識の刃

『第五試合、始め!』電子音声の合図と同時に、星ヶ丘高校の九十歩は地を蹴った。試合開始から、九十歩は攻撃の手を一切休めない。朝練の成果もあり、長い長刀(リーチ型)を構えながらも、彼は激しく、鋭く刀を振り続けた。

しかし、対峙する八巻の副将・樋村の守りの壁は、想像以上に厚かった。太原の泥臭い連撃をすべて弾き返したその鉄壁の防御技術は、九十歩の猛攻をも冷徹にいなし、長刀の間合いを完璧に見極めてくる。

――BUSHIDO FIGHTの公式ルールは、3ラウンド制(各ラウンド3分)。従来の剣道とは異なり、有効打突をポイント(ダメージ)としてシステムに加算し、10点減点方式のゲージを削り合うことで判定勝ちを明確化するプロ基準の格闘武道――

樋村はそのルールを熟知し、確実に九十歩の体力を削りにきていた。

(……硬い。攻めあぐねているうちに、時間がなくなっていく)九十歩の額を大粒の汗が伝う。

(まだ完全にものにできてない。だけど……あの技を試すか……?)

巴から授かった長刀の秘技『振り返し』のイメージが脳裏をよぎる。手の内の握りに究極の緩急を求められる変幻自在の連続技。しかし、実戦で失敗すれば、懐に潜り込まれて一瞬で終わる。

決心がつききらぬまま、試合は最終第3ラウンドへと突入した。両者ともに肩を激しく上下させ、息が上がっている。疲労の極致。九十歩の手の感覚がじわじわと鈍り、木刀を握る指先から余計な力がすうっと抜けていった。

その瞬間を勝機と見た樋村が、大きな体躯を揺らして鋭く一歩を踏み込んできた。重い一撃が九十歩の面を狙って振り下ろされる。

(あ、——)九十歩の思考が白く染まった。

しかし、気がついたときには、試合終了のブザーが鳴り響いていた。シャキィィィン!!「そこまで! 有効打突!」

アリーナの大型モニターに映し出されたのは、樋村の防具のライトが消え、九十歩の勝利を示すチェリーレッドのシグナルだった。自分がどう動いたのか、どうやって刀を振るったのか、九十歩自身には全く記憶がなかった。

「九十歩! お前、マジで凄かったぞ!」オクタゴンを降りてベンチへ戻ると、二年生の手永紺が興奮した様子で九十歩の肩を揺さぶった。

「手永……俺、何をしたんだ?」呆然と問い返す九十歩に、手永が熱を込めて説明する。

「力が完全に抜けて、完璧な自然体だったんだよ! 樋村の面を警戒して九十歩が側面を打ったとき、相手は当然それを刀で防ぎにきた。だけど、九十歩は防御の刀に激しく振り落として、樋村の手の動きを完全に止めたんだ。そこからだよ。止まった樋村の脇から肩へ向かって、信じられない速度で刀を斜めに振り上げて、つづけざまに脳天へ振り下ろしたんだ!」手の内の緩急を極め、刃を上下左右に変幻自在に反転させる連続実戦技。それこそが巴の言っていた『振り返し』そのものだった。

「……まるで映画のワンシーンを聞かされてるみたいだ」九十歩は自分の両手を見つめ、小さく呟いた。

脱力したことで、身体が勝手に巴の理合を再現したのだ。だが、星ヶ丘が勝利の余韻に浸る時間は与えられなかった。息が整わない九十歩の前に、相手チームの大将が次のオクタゴンへと上がってくる。迎える、第六試合。

「……え?」九十歩だけでなく、ベンチの帆南たちからも意外そうな声が漏れた。現れた大将の小嶋こじまは、細く長い手足を持ち、背の高い女子選手。持つ刀が短く感じるほどだ。

しかし試合が始まると一変、その細く長い腕と一体化したその刀は、まるでムチのように九十歩の視界の外側から狙ってくる。まるで太刀筋が見えない。『振り返し』を放った反動で、もう抗う体力も残ってない九十歩は、一ラウンドで十ポイントを取られ負ける。「そこまで……っ」

九十歩の膝からガクガクと力が抜ける。手永の腕に包み込まれるようにして、九十歩はその場に倒れ込んだ。「すまない、手永……」

「謝るな。お前が繋いでくれたんだ」

第五試合での九十歩の無意識の覚醒を受け、第六試合の敗北から、星ヶ丘の命運は第七試合を戦う手永紺へと託される。

日本チャンピオンの伯父の背中を追い、巴との朝練でインファイトの恐怖を克服せんとする男が、大将・小嶋の待つオクタゴンへと向かう。

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