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魔憑きだった霊

読んで頂き、ありがとうございます。

励みになります。

翌日。




ミクマの発案で、朝と晩の任務がない時は、皆で食事をとることが決まりとなっていた。

だが、昨晩も今朝も、紗蘭の姿は無かった。


「紗蘭ちゃん、まだダメそうかな?」


心配そうな声を上げるミクマに、皐月が首を横に振る。


「完っ全に引きずってますねぇ。まあ、初めてでアレはキツいと思いますけど」

「実戦は初めてじゃないだろうけど、まあ、彼女の転生先的にはあんなことにはなりにくい所だったからね……」


ミクマの気がかりな言葉に、それまで無言を貫いていた詩音が顔を上げた。


「どういうことです?」

「あれ、詩音ちゃんには言ってなかったっけ。彼女の転生先、とある王道RPGの世界だったんだよ。CERO指定はAかBくらい、グロテスクとは無縁、努力と奇跡で何でもなんとかなっちゃう、ね」

「ああ、だから……」


潰された人なんて見たのは、きっとアレが初めてだったんだろう。エフェクトで何とでもなる、綺麗事で作られた世界。血は多少出ても、内臓までは……いや、食事中に考えることではない。

この数年ですっかり慣れきった自分を、少なからず恨めしく感じる。

きっと、聖女の奇跡で死者だって蘇生できるし、願いだって奇跡で叶う。そういうおとぎ話のような世界だったのだろう。現実もそうなら、どれだけ良かったか。


「……」


ともすれば。


「皐月はその王道RPGの世界の住人じゃないのか」

「ん?そうだけど……」

「なんであんたは耐性が?」


詩音の問いに、皐月は「あー……」と目を逸らしながら頬を掻く。


「汚い部分はボクら精霊がなんとか綺麗に見せちゃうから……その過程でボクらは見ちゃうんだよね、グロテスクな部分」

「ファンタジーだねぇ」


けらけらとミクマが笑うが、あまり笑い事でもないだろう。


「……よくそんな状態でスカウトしましたね、ミクマ様」

「まあまあ。伸びしろってことで。そこは先輩が助けてあげて」


一つ勘弁してあげてよ、とウインクするミクマ。


「仕事が増えた……」


詩音は大きくため息をついた。






鳴さん。

ゴーレムの人。


「……助けられたのに」


声が、かすれる。


「私がちゃんとやれてたら……鳴さんも……あの人も……」


言葉が続かない。

任務から帰投してすぐ、風呂にも入らず、布団にくるまって枕を濡らした。

夕飯も朝ごはんも食べる気がせず、すっぽかしてしまった。


もう、帰りたいなぁ。


あの世界になら帰れるかな。皐月と、勇者たちと冒険した、あの世界。

そこなら、あんな凄惨な光景を見ることもない。私の魔力で、みんな助けられる。


「なんでこんなキツいこと、承諾しちゃったんだろ」


ふと。

コンコン、と障子の囲をノックする音がした。


「……入っていいか」


詩音の声だった。


「…………」


紗蘭は一言も発しなかった。


「……辞めてもいいんだぞ」


障子の前で、詩音がそう言った。

驚いて、紗蘭はがばっと布団から起き上がる。

そして、扉1枚挟んだポニーテールの影を見た。


「事情はミクマ様から伺った。きついなら、転生先の世界に帰せると、ミクマ様も仰っている」


それは、願ってもいない甘言だった。

またあんなの見ちゃったら……。


頷きかけた時だった。


「私も、何度も思った。帰りたいって。ミクマ様も、いつでも帰って良いと仰った」


耳を疑った。あんなに淡々と戦っていた詩音が、まさかと思った。


「それに、もう少し上手くやれてたら。助けられたかも。そう思ったことだってある」


冷たい口調のまま、続ける。


「だが、それで助かったことは、無かった」


残酷な現実だった。

紗蘭は、俯くことしかできない。


「玉乃井」


紗蘭は顔を上げない。


「なんでここに来ようと思った。これからどうしたい。……全部、聞くから」


不器用なりの、先輩の優しさだった。

ふと、紗蘭は思った。


(私は、世界の役に立ちたかった。でも、このままじゃ駄目……なら、帰るしか……)


でも。

自分が帰ったら?

皐月はどうする?

詩音はまた一人で、あんな化け物と戦うのか?

まだ世界には沢山助かりたい人がいるはずなのに?


立ち上がることは出来なかったが、そのままぽつり、ぽつりと今の気持ちを、障子の先の先輩に吐き出した。


みんなを助けたくて、退魔師になったこと。

でも、みんな助かるなんて、驕りだったのかも、と。

それでも、まだ諦めきれない、と。

帰るか否か、迷っていること。


「……じゃあ」


それまで聞き手に徹していた詩音が、ふいに呟く。


「今、何したい」


今は…………。

くぅ、とお腹が鳴った。


「……ご飯………たべたいです」

「……空腹は判断を鈍らせるからな」





結局、一人で朝餉をとった紗蘭は「もう少しだけ頑張ってみる」と言い残し、訓練に向かった。


「詩音ちゃんって、一見冷たそうだけど……ちゃんと優しいんだねぇ」


訓練場に向かう紗蘭を見送った後、背後から声をかけてきたのは、それまで傍観を貫いていた皐月だった。


「……何」


詩音が訝しげに尋ねると、皐月は肩をすくめる。


「もっと突き放すかと思ってたよ。『向いてない。帰れ』とか言っちゃうのかな〜って」


詩音は一瞬だけ視線を逸らす。


「最初は帰らせる気だった」

「でも、励ました。つまり、まだ期待してるってことでしょ?」

「……」


図星だった。

皐月は少しだけ真面目な顔になる。


「紗蘭ちゃん、折れてはいないよ。あれは」

「分かってる」


即答だった。


「……危険な状態ではあるけどな」


詩音はそう言って、踵を返す。


「どこ行くのさ?」

「訓練場」


短くそれだけ告げて、歩き出す。


「やっぱ優しいんじゃん」


皐月は肩をすくめて小さく笑って、その後を追った。






木製の人形や的が並ぶその場所で、紗蘭は一人、杖を構えていた。


「……っ!」


光の槍を放つ。

だが、狙いがわずかにズレる。


「……違う」


もう一度。

また外れ。

もう一度……もう一度……!


何度か撃つうちに、今度は当たった。だが、威力が不安定で、的を貫ききれない。


「違う……違う……!」


焦りが滲む。杖を持つ手に力が入る。


(助けたいって言ったくせに……何も出来なかった)


光の槍が的を掠める。


(鳴さんは死んで……あの人も……)


また当たらない。


「……っ!!」


まだ、気持ちに整理がつかない。

感情に引っ張られた魔力が暴れ、光が歪む。

その瞬間。

ガン、と鈍い音が響いた。


「暴走しかけてる」


詩音の薙刀の石突が、紗蘭の杖を軽く弾いていた。


「詩音さん……」

「感情に引きずられすぎ。魔力の流れが雑」

「でも、私……!」


思わず声を荒げる。


「もっと強くならなきゃ……でなきゃ、鳴さんも、あの人も……」

「過去は変えられない」


一刀両断だった。


「……っ」


紗蘭は言葉を失う。

諦めたくなかった。だから訓練すれば、ちょっとは違うと思っていた。

でも、上手く行かない。いつもより、魔力の消費量が多いことも分かっていた。

それでも、まだあの光景がこびりついて、離れない。またぐるぐるしてきた。空間が歪む。

すると、詩音が両手で紗蘭の頬をそっと包んだ。


「助けたいなら、まず現実を受け止めること」


詩音は真っ直ぐ紗蘭を見る。

灰色の瞳の中に、僅かだが光を見た。


「理想だけで突っ込むな」


今の紗蘭には、非常に刺さる言葉だった。

けれど。


「……じゃあ、どうすればいいんですか」


紗蘭は俯いたまま、絞り出す。


「助けるの、諦めろってことですか」

「違う」


即答だった。


「見極めろ」


その言葉に、紗蘭は顔を上げる。


「助けられるか、否か」

「……そんなの」

「分からないなら、分かるようになれ」


詩音は目を離さない。


「そのための力をつけろ」


ハッとさせられた。


「あんたに足りないのは、『現実』を見る力だ」


目から鱗だった。

多分……多分だけど。

考えれば、当たり前のことを忘れていたんだ。


私は、あの『綺麗な世界』に慣れきっていたのかもしれない。

夢から醒めた気持ちだった。


「ありがとう、ございます」

「……いい目になった」


珍しく、少しだけ表情を緩ませる詩音。まるできょうだいに向ける視線そのもの。


そっか、双子のお姉ちゃんなんだっけ。

今更ながら、紗蘭は実感していた。一人っ子の紗蘭にはなかなか新鮮な体験だった。




(……久しぶりだな、こういうの)


詩音も詩音で、亡き弟の面影を紗蘭に重ねていた。

あいつも、昔は泣き虫で、すぐ拗ねて……その度に、ああやって頬を包んでやったっけ。

無意識とはいえ、紗蘭にやってしまったが……。

後から少し恥ずかしくなってきた。


「へー、ふーん。ほぉー。姉妹みたーい」


それを茶化すように、後から追いかけてきた皐月がニヤニヤしながら指摘する。


「ばっ……!皐月!!」


顔を真っ赤にして、紗蘭は皐月を追いかける。ひらりひらりと躱し、からかう様子の皐月。紗蘭もすっかり元気が出たようで、笑顔で皐月を追いかけていた。


詩音も少し顔を紅くしていたが、幸い二人には気づかれていなかったようで安堵した。


「本当なら……こういう時間が続けばいいんだがな」


そう呟いた。

だが、彼女の願いはすぐに打ち破られることになる。





鳥居を潜った先。

今度は、湿り気を帯びた、重たい気配。

だが、今回の異質さは、それだけではなかった。


「……神社?」


紗蘭が目を見開く。

そこにあったのは、別の社。

だがその姿は無惨そのものだった。

社は崩れ、結界は歪み、地面には乾いた血が残っている。


「壊滅状態だねぇ」


皐月が珍しく真顔で呟く。


「つい最近だな」


詩音は地面に触れる。まだわずかに残る魔の残滓。

……魔は、去っていない。どこかにいる。


「生き残りを探すぞ」


そう言って、亜空間から薙刀を取り出した。

紗蘭も倣って、幣の杖を取り出す。


「気配を追うんですよね。私、やってみます」


むむむ……と杖に念を込めて、魔力を練る。

意識を集中させ、深呼吸。

まぶたの奥に、真っ黒になった社の光景が浮かぶ。


……奥に何かいる。


「誰?」


紗蘭が小さく声をかける。

返事は、ない。

そのはずだった。


「ほう」


不意に、低い声が響いた。


「っ!?」


三人が同時に武器を構えると、一人の少年が崩れた社の影から現れる。

短い銀髪。白い肌。 透き通るような青い瞳。 書生のような簡素な装い。腰に提げた刀からは、異様な気配を感じる。


「……誰だ」


詩音は構えを解かず、二人を庇う体勢で前に出る。


紗蘭は息を呑んだ。

気配が……薄い?

そこにいるのに、存在が曖昧だった。


「こっちの台詞だ」


少年は不機嫌そうに言い放つ。


「ここは戦場だ。用がないなら帰れ」

「わ、私たちだって……!」


紗蘭が一歩踏み出す。

その瞬間。


「近づくな」


空気が、凍った。比喩ではない。実際に吹雪のような風が、少年を中心に発生しているのだ。

これが彼の力……?

詩音は目を細める。


「くっ……!」


じりじりと後退させられる3人。

殺気ではない。 だが、拒絶の意志がはっきりと伝わる。

だが、そこで退く訳にはいかない。

詩音は一歩前に出る。頬を銀色の風が切った。

だが、怯まない。


「退魔師だ。状況を確認しに来た」


少年の目が、わずかに細まる。

詩音の頬から、血がたらりと出てくる。


「お前……」


バカか、と少年は言いかけてやめた。

目が本気だった。


「……遅いんだよ」


小声で呟くも、誰にも聞こえていない。

少年は続けて言う。


「全員死んだ。神も、退魔師も、全て」

「……魔は?」

「逃げたか、潜ったか。正直どうでもいい」


興味なさそうに吐き捨てる。

紗蘭は、ぎゅっと杖を握った。


「……助けられなかったの?」


その言葉に、少年の目つきが変わる。眉間にしわが寄った。

少年の視線が、紗蘭に向いた。鼻で笑ってから、


「助ける?」


と、冷たい声を放つ。


「甘いな。甘すぎて吐き気がする」


詩音と同じか、それ以上に冷たい言葉。

だが、突き放すような言い方をする点だけが、彼と詩音とで大きく違った。

紗蘭の胸が、ちくりと痛む。


「でも」

「でも、じゃない」


少年は被せるように遮る。


「現実を見ろ。はじめから救おうなんて無理なんだよ」


その言葉に、詩音の眉が、わずかに動いた。


(……似てる)


恐らく、思考が自分に近いのかもしれない。

自分のこれは、数多くのものを取りこぼしてきた結果。「救おう」という欺瞞を取り払った結果。

だが、彼のはどうだろうか。

諦念に近い。

似ているようで、どこか違うような……。


ふと、少年の気配というか、存在そのものが僅かに揺らいだのを、詩音は見逃さなかった。


「……あんた」


詩音が薙刀を少年に向ける。


「人間か?」


詩音の言葉にハッとした二人が、改めて少年を見る。

なるほど、暗くてよく分からなかったが、じっくり見てみれば彼には影がない。つまり……。


「死んで、る?」


恐る恐る、紗蘭が口にした。

刹那、沈黙が場を支配する。

少年は、少しだけ目を逸らした。


「半分正解だな」

「え……?」


紗蘭が息を呑む。


「魔憑きになったのを、討伐された身だ。ただし……」


少年は、自らの透けた手を握ったり開いたりする。


「俺のスキル、霊体化。コイツが暴走してな、討伐された今でも、霊として生き延びている。いちおう、触れたりはできるな」


やってみるか?と手を差し出した。

だが、誰も手を伸ばさない。


「まあ、いいか」


と、手を引っ込めた。


「……名前は」


警戒を解かぬまま、詩音が問う。


「死んだ時に失くした」

「は?」

「今の俺は精霊みたいなもんだ。死んだ時に存在ごと生まれ変わっちまった」


みたいなもん、って……。

詩音は半ば呆れていた。

さっきまで確たる存在、みたいな雰囲気だったのに、名前の話になった途端バカみたいな話になってきた。


記憶喪失か?


「生前の記憶はあるぞ。名前だけ、名乗ろうにも言葉にできない」


まるで心を読んだかのように答える少年。

皐月だけ、身に覚えがあるようで、うんうんと頷いていた。


「わかるわかる。ボク精霊だからね。名乗りたい名があっても言葉にできないのはあるあるだねぇ」

「そんなところで同意しなくていいからね?」


紗蘭も空気をぶち壊された、と言わんばかりに突っ込む。

ふいに、詩音は少年がまじまじと自分を見つめているのに気づいた。

そして少年はにやり、と笑う。


「お前、俺と契約しろ」

「………は?」


言うなり、目にも留まらぬ速さで少年は詩音の目の前に移動した。

すると、無理矢理彼女の唇を自身の唇で塞いだ。

強引に舌を絡ませ、腰を寄せ、何度も何度も口づけを重ねる。


「……ぁ……っん……!」


突然の事で、詩音はなすがまま、薙刀を落としてしまう。突き放そうにも、上手く力が入らない。紅潮する頬に熱がこもる。

あまりの情熱的な光景に、紗蘭は思わず顔を覆った。「うわあ」と言いつつ、皐月はまじまじとその光景を見つめている。


すると、少年と詩音が光に包まれた。

気がつけば少年は詩音から離れており、舌に謎の紋が入っている。

同じ紋が詩音の舌にも入っており、これが二人を繋ぐ印であることは一目瞭然であった。

慌てて口を拭う詩音。蛇が睨むが如く、少年を睨みつける。


「契約完了」

「……っ、はぁ、はぁ……」


言葉を紡げないのか、肩で息をする詩音。

だが、体の中から何か力がこみ上げてくる感覚は分かった。


「俺の魔力、少しは使えるから。あんた、身体強化しか使えなさそうだったし」

「なん、で、それを……」


図星だった。

そもそも、詩音は転生者ではない。ただの日本人だ。

それが魔と張り合うには、力が無いとどだい無理な話だ。

そこでミクマが贈った加護が、身体強化の術だった。

だが、それだけだ。

あとの力は、紛れもなく彼女自身の努力で磨いてきたものだった。


「で、だ」


少年は気にも留めない様子で、詩音を指さす。


「名前、教えろ。そんで、俺に名前をつけろ」


妙に偉そうな素振りの少年に、詩音は少し腹が立った。


「あなたねえ……!詩音先輩が困ってるじゃないの!」


紗蘭が怒るが、少年はそもそも紗蘭を見ていない。

ただまっすぐに詩音だけを見つめている。


「な・ま・え」


息を整えた詩音は、薙刀を拾った。そして、再び構える。


「……勝手に契約しておいて……」


その手は怒りに震えていた。

鋭い眼光で、少年を再び睨みつける。


「斬るぞ」

「無理無理。俺霊体だし」

「……っ」


詩音は言葉に詰まる。

事実、契約したとはいえ、まだ輪郭に多少の揺らぎが見えた。斬れないというのは間違いないだろう。

しかも、不本意とはいえこいつと「繋がってしまった」ばっかりに、魔力の高さが伺える。氷のような冷たい魔力が、全身を駆け巡っているのがわかる。

それに、繋がったということはだ。無理矢理契約を破棄しようものなら、自分がどうなるか分かったものではない。

迂闊な行動は、危険だ。


「ほら、早く。それとももう一回するか?」

「……」


詩音は小さく舌打ちした。


「無理だよ詩音ちゃん。霊ってのは気まぐれだからねぇ」


諦めなよ、と皐月が諭した。

コイツが一番霊的存在の摂理をわかっているのが、なんとなく腹立たしい。

そう思いつつも、詩音は思考を巡らせた。


そして。


一歩踏み出すと、小さく一息。

少年の姿を見つめる。


(……少し、似てるんだよな)


詩音は、数年前に失った面影を、この少年に見ていた。


曾根崎梗矢。

それが、弟の名だった。

確か、名前の由来は……。


「……桔梗」

「ん?」

「あんたの名。桔梗、でどうだ」


詩音としては少し釈然としなかったが、自然と出てきたのはこの名前だった。

ふーん、と少年は思案する。


「気に入った」


そして、少年ーー桔梗は、にやりと笑った。

すると、桔梗の体が淡い光を放つ。

ぼやけていた輪郭が、確かな形を得た瞬間だった。


「んで、あんたらの名前は」


桔梗は改めて3人に問う。


「退魔師の曾根崎詩音」

「同じく、玉乃井紗蘭です……」

「ボクは皐月。紗蘭ちゃんと契約してる精霊だよぉ」

「ふーん」


聞いた本人があまり興味なさげに振り返る。


「ちょっと!聞いといてその態度は無いんじゃないの!?」


と、紗蘭が怒るが、桔梗は振り向きもしない。

そんなやり取りを見て、詩音は懐かしさを感じた。


(やっぱり……)


アイツもけっこうな気分屋だった。

気分で周りを振り回して、でも不思議と周りに人が集まっていた。自分とは正反対の弟。

やっぱり、少し似ている。


「さてと」


桔梗が仕切り直す。


「魔を探すとするか」


彼は辺りを見回しながら、先行しようとする。


「ちょっ……ちょっと待ちなさいよ!」


紗蘭が慌ててついて行こうとする。

その様子を見ていた詩音に、皐月が耳元で囁く。


「あんまり信用しちゃダメだよ?」

「……分かってる」


彼は敵か味方か。

分からぬまま一行に加わったのであった。

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