ある転生者の記録
連投失礼します。
転生した詩音、実は瞳の色が変わりました。
灰色→紫色です。よろしくお願いします。
曾根崎詩音には、前世の記憶があった。
父母、祖父、双子の弟がいた記憶が。
ある日、弟が死んだ。
その後、何かがあって、自分も死んだはずなのだが――
それが思い出せなかった。
今世の自分の名前は、シオン・エルフェンリート。
エルフェンリート候爵家の一人娘である。
この家系は優秀な騎士を輩出する名門一家であり、シオンもまた優秀すぎるほどの剣術の腕前の持ち主であった。
女騎士として、王女の護衛騎士を任されるほどに優秀であった彼女には、王女以外の友がいなかった。
それ以外にも、シオンが周りから疎まれる理由があった。
シオンは、死を予見できたのだ。
数秒後にあの猫が馬車に轢かれると言うと、本当に轢かれて死んだ。数分後にあの通りで殺人事件が起こると言うと、本当に平民の女が男に殺された。
これがチートスキルというやつか、とシオンは思った。神と出会った記憶はないが、これを使えば王女を守れると思った。
実際、王女の死は回避できた。ただ、その代わりに誰かが死ぬ。それは、騎士であったり、メイドであったりまちまちだった。
お陰様で、「王女から死を遠ざける代わりに他の者を殺す騎士」などと言う悪評を立てられ、避けられて今に至る。
王女からは「そんなことはない」とフォローされているが、これがシオンにとってとんだ厄介な案件の種になっていた。
婚約者の存在である。
婚約者のヴァルフリート公爵の一人息子は、どちらかというと文官向きだった。元々相性はそこまで良くなかったが、シオンに関する噂を真に受け、シオンを避けるようになってしまったのだ。
そこにちょうどジェッダ男爵の娘が出てきた。この娘がかなり厄介で、近頃高位の家の男たちを骨抜きにして取り巻きにしているという。ヴァルフリート公爵の息子も、ジェッダ男爵の娘に惚れ込んでしまったのだ。
これは後から分かった事なのだが、ジェッダ男爵の娘は男を骨抜きにする「恋の薬」を乱用していたらしい。王太子まで巻き込み、王太子妃の怒りを買ったことで、その薬の存在が明るみに出るのだが、それはまた別の話。
話を戻すと、ヴァルフリート公爵の息子はとにかくシオンと婚約破棄したかった。だが、自分の有責で破棄するのは外聞が悪いと思っていた。
そこで、ジェッダ男爵の娘は「自分がシオンにいじめられた」という噂を流すことにした。
だが、これが後に『シオンの死』に繋がってしまった為に、彼女の死を見るスキルが発動する。
階段での転落死。
シオンはこれを避ける為に、まず自分に女性騎士の監視をつけた。そして、転落死すると予見された当日、その場に行かないよう、王女を連れて王宮に居るようにしたのだ。
結果、たまたま通りすがった別の候爵家の女性が、ジェッダ男爵の娘のせいで転落死した。
「きっとシオン様の呪いですぅ!」
ジェッダ男爵の娘はそう言ったそうだ。
この世界は呪いが普通に存在した。だから、そういえば何とかなるとジェッダ男爵の娘は踏んだのだろう。
だが、既に見張りを付けていたシオンにその言い訳は通用しなかった。
呪う素振りを見せたことがない、と騎士たちは証言してくれたのだ。
だが、その一件を鵜呑みにしたヴァルフリート公爵の息子は、ついに堪忍袋の緒が切れる。
そして――
「シオン・エルフェンリート!貴様の悪行にはほとほと愛想が尽きた!よってここで婚約破棄を宣言させてもらう!!」
学園の卒業パーティーの場で、そう言い渡されてしまったのである。
シオンとしては全く困らなかった。立場でいえばシオンの方が上だし、相手の有責なのは既に他の騎士が証明して、国王陛下にも進言してあるからだ。
まさか国王両陛下がおわす卒業パーティーでそのようなことをされるとは思っていなかったが、それならそれで良い。
「かしこまりました。婚約破棄、承ります」
シオンは淑女の挨拶をして、さっさと契約書にサインをした。
そして相手に渡そうとしたが。
「僕をバカにしているのか貴様ぁ!彼女に謝れ!土下座だ土下座!!」
こいつは何を言っているのだろう。
シオンの第一の感想がそれであった。
男爵の娘は泣き真似をして同情を誘おうとしているが、骨抜きにされている男たちを除いて、皆憐れみの目を向けているのがわからないのか。
「何も悪くないのに謝れと?」
「何もな訳がなかろう!彼女を散々いじめておいて!」
「それは冤罪だと証明されておりますが」
「どうせ証人を買収したのだろう!」
埒が明かない。
シオンはため息をつく。
「そもそも、国王陛下の御前で嘘をつく理由はありません」
「いいや、お前は平気で嘘をつく」
「いつ貴方に嘘をつきましたか」
「今まさに!ついているではないか!」
話が通じなさすぎる。
恋とはここまで人を盲目にするのか。
すると、ジェッダ男爵の娘に味方する者たちが口々にシオンを責め立てた。
「そうだそうだ!この悪女が!」
「彼女が泣いてるんだぞ!なんとも思わないのか!」
「謝れ!」
流石に頭が痛くなってきた。
「もうよい」
すると、国王がその場を制した。
シオンはすぐに片膝をつく。だが、ヴァルフリート公爵はふんぞり返っている。
「貴様はいつ私より偉くなった?ヴァルフリート公爵子息よ」
「私は私の名において、嘘偽りなくこの女が悪いと弾劾致します!」
「……愚か者が」
国王が片手を上げると、周りにいた騎士たちが、ヴァルフリート公爵の息子やジェッダ男爵の娘、その他取り巻きの男たちを捕縛した。
そして、無理やりパーティー会場から追い出したのであった。
きっと反逆罪は免れないだろう。
シオンは元婚約者を哀れんだ。
「さあ、皆の者。邪魔者は去った。卒業パーティーを……」
と、国王が開会宣言をしようとした矢先。
バリィン!
会場の大きなガラスが割れ、黒ずくめの集団が入り込んできた。
あたりは悲鳴と怒号が飛び交い、逃げ惑う人々で混沌が生まれる。
黒ずくめの集団は、訓練された動きをしていた。
1人のリーダーらしき男が手で何か合図をすると、一斉に周りの集団が動く。まるで、リーダーが全員を操っているかのように。
その機敏な動きで狙っていたのは――
国のトップではなく、シオンだった。
「両陛下、殿下、お下がりを!狙いは私です!」
そう言ってシオンは剣を抜いた。
黒ずくめの集団たちは暗器を取り出すと、シオンに向かって全方位から投げる。
だが、それを氷の魔術で防いだ。
シオンは生まれつき氷の魔術が使えた。これが不思議なもので、エルフェンリート候爵家は炎の魔法の家系なのに、シオンだけ氷の魔法が使えたのだ。
だが、それを上手く活用してここまで生きてきた。
黒ずくめたちはこの国では珍しい刀を抜くと、一斉にシオンに襲いかかる。シオンは剣と鞘の二刀流で応戦するが、数が多すぎる。次第に切傷が増えていった。
その刹那。
自分の死が見えた。
黒ずくめたちから刺される未来。
「くそっ……!」
悪態をつくシオン。だが、黒ずくめたちは攻撃の手を緩めない。
やがてジリ貧まで追い詰められ、一本の刃がシオンの胸に届こうとした時――
「あぶない!」
どこからか、声がした。
透き通るような声と同時に、光の障壁が展開される。
刃は、その表面で弾かれた。
「……なに……?」
シオンは一瞬だけ目を見開く。 だが、その驚きよりも早く――
「全員、散開して!各個撃破!」
凛とした声が、会場に響いた。
振り向いた先。 そこにいたのは――見たことのない少女だった。
白を基調とした、セーラー服のような巫女装束。手には幣のような杖。 自分と同い年くらいだろうか。大人びた中に、どこかあどけなさの残った顔立ちをしていた。
だが、その瞳だけは。
(……なんだ、この感じは)
知っている気がした。
「皐月、上!」
「了解っと」
乾いた発砲音。 天井付近から回り込もうとしていた刺客が撃ち落とされる。
「ったく、派手にやってくれてるねぇ」
「雑談は後だ、皐月!」
さらにもう一人、刀を携えた青年が前に出る。 黒ずくめたちと同じ刀だが、明らかに格が違う。
一閃。
それだけで、数人がまとめて吹き飛んだ。
「なっ……」
シオンの表情に、初めて動揺が走る。
(強い……私よりも?)
「2人とも、結界張るよ!」
「了解」
「よろしく!」
少女がそう言うと、4人を包むように結界が形成される。
完全に、戦場が切り離された。
少女がシオンを見る。
「……やっと、見つけた」
ぽつりと、少女――紗蘭が呟いた。
その声は、戦場に似つかわしくないほど、柔らかかった。
「え……?」
シオンは思わず声を漏らす。
見知らぬはずの相手。 なのに――
胸の奥が、ざわつく。
「……お会いしたことはないはずですが」
剣を構え直しながら問う。
すると紗蘭は、少しだけ困ったように笑った。
「うん、今は分からなくていい」
一歩、踏み出す。
「でも――迎えに来たよ」
すると。
ガン!ガン!
黒ずくめたちが刀を結界に叩きつけている音がする。
「皐月」
「りょーかいっと」
皐月は二丁拳銃を敵に向けると、何発も弾丸を放つ。炎を纏った弾は、結界をすり抜け、敵の心臓を燃やすように当たっていく。
「桔梗」
「わかってる」
桔梗が指を鳴らすと、辺りから氷の槍が這い上がる。敵を串刺しにしていき、あっという間に数を減らしていった。
シオンはこの男に違和感を抱いた。
それは、シオンと同じ波長の魔力。
私の魔力の源は、こいつなのか……?
だが、それを思い出そうとすると、大きなノイズに阻まれる。
「くっ……」
「どうしたの!?」
頭を押さえるシオンに駆け寄る紗蘭。
この泣きそうな顔、どこかで……。
だが、思い出せない。
すると、黒ずくめのリーダーが、静かに手を上げた。
「対象の異変を確認。元執行者・曾根崎詩音――処分を開始する」
その一言で、空気が変わる。
「なんで、私の前世の名を……?」
シオンの眉がわずかに動いた。
だが、黒ずくめたちは一切の迷いなく動いた。 紗蘭たちなど眼中にない。シオンだけを狙っている。
「ちょっ……!?」
四方から刃が迫る。結界は限界を迎えていたのか、無残に砕け散る。
シオンは 咄嗟に剣を振るうが、先ほどまでとは明らかに動きが違う。 連携が、速い。正確すぎる。
「っ……!」
受けきれない。 一瞬で体勢を崩される。
「やめて!!」
紗蘭が叫び、結界をもう一度展開する。 だが――
ガギィン!!
一撃で、亀裂が走る。
「そんな……!?」
「優先対象変更。障害を排除」
黒ずくめの一人が、今度は紗蘭へと向かう。
「間に合わない――!」
するとそこに、桔梗が割って入る。
「やらせるかよ!」
桔梗の刃が黒ずくめの刃を弾いた。
黒ずくめは一旦距離を取り、桔梗を睨みつける。
桔梗は刀を構える。
次の瞬間。
「――っ!?」
シオンの目が、桔梗の死を見た。
刃が胸を貫く未来。 崩れ落ちる身体。 広がる血。
(……なんで)
シオンの思考が、一瞬止まる。
(なんで、こんなに怖い?私は……その感覚を、知っている?)
「桔梗!!」
紗蘭の声でシオンは我に返る。
知らないはずのその名前に、胸がざわついた。
黒ずくめの刃が、桔梗へ振り下ろされる――
「やめろ!!」
気づけば、身体が動いていた。
剣が、割って入る。
火花が散り、ぎちぎちと刃同士がせめぎあう。
「お前……」
桔梗が目を見開く。
シオン自身も、息を呑んだ。
(今……私は、何を……)
「対象、抵抗を確認。今度こそ抹殺する」
再び、黒ずくめたちがシオンを囲む。
その時。
再び、胸を貫くような激しい痛みに襲われる。
フラッシュバックのような、鮮明な映像が頭に流れ込んでくる。
手には剣ではなく、薙刀。
真っ黒な装束の自分。
敵対するのは――今自分を守ろうとしている人たち。
「……っ、はぁ、はぁ……」
息が詰まる。
(……これは、誰の記憶だ……?)
黒ずくめの刃が、再びシオンに迫る。
「詩音!!!」
紗蘭の叫びが、空気を裂いた。
その瞬間。
すべてが、止まった。
「……さ……ら……?」
口が、勝手に動いた。
頭の奥で、何かが弾ける。
家族の記憶。 弟。 笑い声。
そこに重なるように、誰かの笑い声がする。
記憶がそこで途切れた。
「記憶復元を確認。即時処分」
黒ずくめの刃が目の前に迫る。
だが。
キィンッ!
一撃で刀は弾かれた。
よろよろと頭を押さえながら体勢を整えたシオンは、剣を構え直した。
「……うるさい」
低い声で、唸るように敵を見据える。
シオンの――いや。
詩音の瞳に、初めて明確な意思が宿った。
詩音は地面を思い切り蹴ると、一突きで黒ずくめの胸を突き刺す。
紫色の瞳に、怒りの色が混ざる。
「対象の感情……」
「うるさい!!黙れ!!」
氷が、地面から噴き上がる。
串刺しにされた敵が、崩れ落ちた。
「な……!」
黒ずくめたちが、初めて動揺する。
詩音は荒く息を吐いた。
頭が痛い。
視界が揺れる。
「シオン……エルフェンリート……」
自分の名前を、口にする。
「違う……」
手が震える。
「……私は」
記憶が、流れ込む。
だが、その途中で――
止まる。
「……曾根崎、詩音……」
その名を、はっきりと告げた。
静寂が落ちる。
「……まだ、記憶は穴だらけだが……分かることはある」
ぽつりと、呟く。
紗蘭が、一歩近づいた。
「……詩音?」
その声に、詩音はゆっくりと顔を上げる。
自分とそう歳の変わらぬ少女を見つめる。
震える視界の中で、それでもはっきりと分かる。
「……紗蘭」
その一言だけだった。
けれど。
確かに、繋がった。
「会いたかった」
ふっと笑う詩音。
紗蘭の目に、涙が溢れてくる。
思わず詩音に抱きついた。彼女は快くかつての仲間を受け入れる。
「やっと……やっと会えた……!」
わんわんと泣く紗蘭の頭を撫でる詩音。
「紗蘭ちゃーん、戦闘中なのは忘れないでよねー!?」
弾丸を放ちながら皐月が言う。
その弾は、詩音の背後を狙っていた黒ずくめの頭を確実に撃ち抜いた。
「……相変わらずだな、皐月」
詩音は苦笑混じりに呟く。
その言葉に、皐月の指が一瞬だけ止まった。
「……え?今さらっと名前呼んだ?」
「後で説明する。今は片付けるぞ」
記憶は曖昧だ。
だが、こいつが味方だという確信だけは揺るがない。
「ははっ、いいね。それそれ!」
皐月は嬉しそうに笑い、さらに銃を構え直す。
黒ずくめたちは即座に陣形を組み直す。
統率の取れた動き。無駄が一切ない。
「対象の記憶修復を確認。危険度更新――」
「黙れと言った」
詩音の剣が、空気を切り裂いた。
次の瞬間、地面が凍りつく。
足元から一気に広がる氷。
黒ずくめたちの動きが一瞬だけ鈍る。
「頼んだ!」
「言われなくてもな!」
桔梗が踏み込む。
一歩で間合いを詰め、剣と刀を横に薙ぐ。
キィン!
二人同時に斬り伏せる。
返す刃で、さらに一人。
「ちっ……数が減らねぇな」
「リーダー以外は駒なんだろうねぇ」
皐月が苦笑しながら告げる。
「死ぬ前提で突っ込んでくるよ、こういうのは」
「厄介極まりないな……!」
その時。
詩音の視界に、再び未来が流れ込む。
数秒後。
紗蘭の背後。
死角からの一閃。
(……見えた)
「紗蘭、下がれ!!」
叫ぶより早く、身体が動く。
詩音は紗蘭を突き飛ばし、代わりにその軌道へ滑り込む。
キィン!!
刃を弾く。
火花が散る。
「こういう事に使えるなら、チートスキルも良いもんだな」
「詩音……」
紗蘭が息を呑む。
「すまない、今は説明してる暇ない」
「ううん……いい」
紗蘭は首を振る。
「……それでも、戻ってきてくれたから」
その言葉に、ほんの一瞬だけ詩音の表情が緩む。
だが。
「優先度最大――排除」
黒ずくめのリーダーが、静かに呟いた。
次の瞬間。
全員が詩音だけに殺到する。
「っ、来るぞ!」
桔梗が叫ぶ。
だが詩音は、動かなかった。
いや――
「……全部、見えてる」
静かに、呟く。
一歩、右。
半歩、後ろ。
身体を傾ける。
それだけで。
すべての刃が、紙一重で外れる。
「なっ……!?」
黒ずくめたちの動きが乱れた。
「遅い」
詩音の剣が閃く。
一人、二人、三人。
迷いなく急所を断つ。
まるで――
未来をなぞるように。
「ひゅう。やるぅ」
皐月が呆れたように笑う。
「でもさ、その戦い方、また前みたいに精神汚染されてる訳じゃないよね?」
「……前?」
「そ。ボクらと一緒に戦ってた時」
軽く言う皐月。
だがその目は、真っ直ぐだった。
「忘れててもいいよ。でもさ」
弾に炎の魔力を込める。
「身体は覚えてるでしょ?」
「……」
詩音は何も答えない。
だが。
その剣筋は――確実に昔のそれに近づいていた。
最後の一人。
リーダー格が、静かに構える。
「不完全復元個体……危険」
「危険、か」
詩音は剣を構える。
「で?」
そして一歩、踏み出す。
「誰に命令されてる?」
リーダーは沈黙する。
だがその一瞬。
死の未来が流れる。
「言う訳が無いか」
詩音は踏み込んでいた。
一閃。
首が、落ちた。
戦いは、終わった。
折角の卒業パーティー会場はめちゃくちゃだ。
テーブルも絨毯も、血で汚れている。
「……終わった、のか」
桔梗が息を吐く。
「一応ね」
皐月は周囲を警戒したまま言う。
紗蘭は、そっと詩音の手を握った。
「……詩音。帰ろう」
その言葉に。
詩音は少しだけ、困ったように笑う。
「……ああ。ただ……正直、分からないことだらけだけどな」
そう言って、視線を落とす。
実際、落ち着いた今も記憶は穴だらけだ。
弟の死後に、紗蘭と皐月に出会ったことは思い出した。
ただ、何をしていたのかまでは覚えていない。一体どのくらい彼らと共に過ごしたのかも、自らの死因が結局何だったのかも。
銀髪の男に限っては何一つ思い出せないのだ。
「その……あんただけ、思い出せなくて……」
詩音は桔梗を指さした。
彼の事を思い出そうとすると、ノイズが走る。
指名された桔梗は頭を掻くと、ため息をついた。
「桔梗だ」
そして、そう短く言った。
「……桔梗」
その名前を、ゆっくりなぞる詩音。
「悪いな。やはり思い出せない」
「別にいい」
桔梗はそっぽを向く。
「どうせそのうち思い出すだろ」
ぶっきらぼうに言うが、その声は、少しだけ優しかった。
「とりあえずさ」
皐月が肩をすくめる。
「帰ろっか。僕らの家に」
「……どこだったかな」
詩音が眉をひそめる。
皐月はにやっと笑った。
「すぐ分かるよ」
紗蘭が、手を握り直す。
「今度こそ、一緒に帰ろう」
その言葉に。
詩音は、少しだけ目を細めて――
「ああ」
静かに、頷いた。




