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第百九十五話「悪の銀河帝国」


 銀河は、二つに割れていた。

 しかし――全てが、敵というわけではなかった。


「ニーナ様、朗報です」


 ラムザが、端末を持って入ってきた。珍しく、その表情は明るい。生存術として消えていたいつもの彼ではなく、外交官としての顔だった。


「朗報? 今の状況で?」


 ニーナが、疲れた顔を上げた。


「はい。ブリオン戦に参加した星々から、正式な同盟申請が届いています」


 画面には、次々とメッセージが表示されていた。短い文面ながら、どれも血の通った言葉が並んでいた。


『グラディウス星系より。我々はパニッシャーが命を賭してブリオンと戦う姿を目撃しました。銀河の今があるのは、彼の犠牲と勇気があったからです。地球との同盟を希望します』


『ヴァルハラ星団より。我が星の戦士たちは、あの死闘を忘れません。共に戦った絆は永遠です』


『鉄血星系より。二百名の決死隊の勇気を、我々は決して忘れない。彼らと共に戦えたことを、誇りに思います』


 サヤカが、驚いた顔をした。


「意外と多いのね、理解者」


「当然です」


 ラムザが、頷いた。


「実際に戦場にいた者たちは、真実を知っています。瀕死になりながらも、竹彦様がブリオンの心臓を砕く瞬間を目撃した戦士たち。その多くが、今では星の代表者となっています」


 キヨシが、義手を撫でながら付け加えた。


「そういえば、グラディウスの将軍も、ヴァルハラの騎士団長も、みんな現場にいたな」


 あの戦場で、肩を並べて戦った男たち。その顔ぶれが、今、議会の机の前に座っている。


「彼らは、知っているんです」


 ラムザの声に、熱がこもった。普段の冷静な彼にしては、珍しいことだった。


「カーカラシカが必死に計画を立て、物資と人材を集め、そして多くの命が散っていったことを。その犠牲の上に、今の銀河があることを」


 ニーナの表情が、少し和らいだ。決死隊として送り出した二百機の若者たちの顔が、その瞳の奥を、よぎっていた。


「それで、どれくらいの星が……?」


「現在、八百四十七星系が正式に同盟を表明しています。さらに、増える見込みです」


 マリアが冷静に分析した。


「武闘派の星ばかり。影響力は、強い」


「ただし」


 ラムザが苦笑した。


「それが、問題でもあります」


 サヤカがSNSを見せた。タイムラインには、あちこちでこの新同盟への嘲笑が並んでいた。


『帝国主義連盟の構成メンバー、ヤバすぎwww』


『グラディウス(戦争狂)、ヴァルハラ(バーサーカー集団)、鉄血星系(軍事独裁)……完全に悪の組織じゃんwww』


『パニッシャー率いる、悪の銀河帝国、爆誕!』


『これもう第三次銀河大戦、不可避だろ』


『公式名称募集www俺は「暗黒星間連合」推し』


 初代ニイナが、笑った。


「悪の銀河帝国ねえ。なかなか、カッコいいじゃない」


 ワインを揺らしながら、肩を揺らしている。


「笑い事じゃ、ありません」


 ニーナが、ため息をついた。


 その時、竹彦が急に立ち上がった。

 今までパンフレットを抱えてしょんぼりしていた男が、ふっと真剣な顔になっていた。


「じゃあ、悪の帝国で、いいじゃないですか」


 全員が、竹彦を見た。


「僕たちは、実際、力で銀河を守った。それを悪だと言うなら、そう呼ばれても、構わない」


 竹彦は、松子の方を見た。松子はまだ山口と話し込んでいる。


「大切な人を、守れるなら、悪役でも、いい」


 その一言には、迷いがなかった。

 名誉も、評判も、銀河の正義も、彼にとっては松子の安全より軽い。それが、彼の答えだった。

 ニーナが、息子の横顔を、じっと見た。

 力強い、男としての顔。それは、嫌々ながらも、母として、誇らしいものだった。


 そう言って、竹彦は、再びパンフレットを広げた。


「松子さん、この星の温泉とか……」


「ちょっと待って! 萌ちゃんが、銀河ツアーの話してるから!」


 また、無視された。

 決意の重みは、五秒も持たなかった。

 山口が、小声で松子に言った。


「あの……竹彦君、待ってる、みたいですよ?」


「えっと後でいいよね?」


「はい…」


 山口は、複雑な表情になった。

 自分は竹彦に会いに来たのに、なぜか、松子と盛り上がっている。そして竹彦は、自分ではなく、松子ばかりを見ている。


(なんで……こうなったの……)


 恋のライバルと、なぜか親友になりかけている、この奇妙な状況。山口は心の中で、自分の人生の不思議さに、ため息をついた。


 その頃――。

 別の星系では、緊急会議が開かれていた。


「悪の銀河帝国が結成された以上、我々、自由主義連盟も、団結しなければ!」


 ケルケルゲが、演説していた。顔にはまだ、竹彦に殴られた跡がくっきり残っている。粘土のような体の頬骨が、明らかに歪んでいた。


「パニッシャーの暴虐を、許してはならない!」


 会場から、拍手が起こった。彼の歪んだ顔こそが、何よりの説得力だった。「あれを見ろ、これがパニッシャーの仕業だ」と、本人が動く広告塔になっていた。


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