Parallel End-1
オンボロ寮でパーティが終わり、グリムと一緒のベッドで眠る夜陰。真夜中の時刻に唐突にグリムが口を開いた。
「子分……子分、起きてるか?」
――起きてるよ、どうしたのグリム。お腹でも空いたの?
「いや、俺様はもうお腹一杯だ。トレイの作ったご馳走をたらふく食べたからな」
――そうだねグリム。トレイさんの作るお菓子は絶品だ。
「お前もそう思うか? トレイのお菓子は本当に美味しいけど、今はそんなことよりも俺様の話をしたい。話を聞いてくれるか、子分?」
――いいよ、どんな話?
「俺様が……この学園が施設だった時の話だ。俺様はハーツラビュル……かつてオーバーブロットした入居者の首を刈る墓地で生まれた子供だった。慈愛の刃、オーバーブロットしファントム化するより前に人としてトドメをさす刑吏の子供だったんだ。でも両親は殺めるストレスに耐え切れず、共依存のような不健康な関係になって、愛を確かめ合う内に俺様を産んで、完全に堕落したオーバーブロットを迎えた」
――。
「母親は俺様を産んで一年も経たない内に死んだ……いや、殺されたんだ。オーバーブロットしたから、他の刑吏に。俺様はそのことが悲しくて悲しくて、毎夜毎夜、昔のハーツラビュル……墓地の中で遠吠えを繰り返していたんだ」
――。
「そんなある日、理事長の野郎に猫に化かされて、子分と出会った。お前は夜毎鳴いていた遠吠えの正体だと知っていたからか、怯えていてあまり仲良くすることが出来なかったけど……お前が長い眠りに入る前、敷地内を黒い馬車に乗って運ばれて移動する時……ずうっとその姿を見送っていたんだ」
――。
「昔、施設はこの島全土を使ったものだったからな。長距離移動には黒い馬車が必要だ。子分がいた場所は、ロストタウン。その施設から離れて、学園のある場所に移動して来たんだ。お前がいなくなった後、父親と一緒に過ごしていたけど……時の揺らぎと云ったか? その衝撃波つうか影響と云うか……時間の揺らぎによるショックで裏の世界に俺様は引きずり込まれて、父親と離れ離れになった。俺の父ちゃんは今頃、何をしているんだろうな? 生きているのかな」
――。
「裏の世界は、色のない世界だった。時折、捨てられたもの以外、何もない淋しい場所。俺様は裏の世界の街角で沢山鳴いて泣いて嘆いている内に、また時の揺らぎが発生した。今度はヘンテコな世界に行くことはなく、元の世界に戻れたのだけど、施設だった場所は様変わりしてて……学園が出来上がっていたんだ」
――。
「ナイトレイブンカレッジ……生まれてすぐに、価値もなく意味もなく意義もない存在と判断され見捨てられた俺からすれば、新天地と云えるものだった。だから、学園の外で待って……教師や生徒に頼み込んで、何とか中に入り込んで、顔見知りの学園長にどうにか出会うことが出来た」
――。
「学園長は俺様を哀れな存在だと同情しながらも、生徒の一人として認めることはなかった。今思えば、猫に化かされていたとしても猟犬の姿に戻って人を襲うことを心配していたんだろうな。もしくは、俺様は生きた大洞だ。子分同様、ただそこにいるだけで時空間を乱す。黒い洞を生み出す。だから、入学は許可してくれなかったんだと思うんだゾ」
――。
「でも、俺様はどうしても人並みに扱われたかった。人間として認めてもらいたかった。何度も何度も学園長に頼み込み、しつこく食い下がって……学園長は認めた、折れたと云うわけじゃないが、とある場所に俺様を案内した。子分、お前が眠っていた、棺のある部屋だ」
――。
「学園長は、『ここで眠っている人が目覚めたらあなたの入学を許可します』と云い、棺のある部屋に俺様を閉じ込めた。俺様は待った。いつまでも待った。どこまでも待った。でも……何の刺激もない毎日だ。自分は何者で何が目的でここにいるのか忘れかけた頃、また時間の揺らぎが発生して、お前が目覚めた。自分が何者なのかさえ忘れかけていたが、棺の蓋が開いて子分が身に纏っていた服を見た瞬間、自分は誰かに認められる存在になる為にここに来たことだけは思い出した」
――。
「人間として認められたい。人間のように扱われたい。俺様は間違った存在じゃないと周囲の人たちに認めさせる為に大魔法士になるんだ……そんな稚拙な言葉を何度も何度も繰り返していた慰めの言葉が、いつしか目的になっていた。本当は他者に人間のように扱われるだけで良かったのに……存在を認めてくれればそれで十全だったのに、愛撫の言葉が望みにすり替わっていた」
――。
「最初に出会った頃の事、子分は覚えているか? 俺様は焦っていたんだ。お前の衣服を引きはがそうとしたのは、ちょっと悪かったと思ってるよ。すまねえな、子分」
――気にしてないよ、グリム。
「そうか、子分! 許してくれるのか……あんな横暴で乱暴なことをしたのに、許してくれるのか!?」
――怒ってないよ、グリム。だって自分との関係じゃない? 一体どれぐらい長い時間を過ごしたのだと思うの? 友達の過ちの一つや二つ、許さなくてどうするの?




