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エリスの妖精(後編)-11

「みつけたぞ、おらぁ!!」


デュースは鏡の間であった跡地から蹴り飛ばされた蟲の一匹を見逃すことなく、踏みつぶし、白く輝く核……魔法石に拳を見舞った。木の葉が吹き飛ぶように蜘蛛が地を滑り、中庭の木々にぶつかる中、エースは「いきなり殴る奴があるかよ」と云う。


「相手は危険人物なんだぞ。もしも、操られるような真似があれば何があるか……せめて魔法で……」


「魔法? そんなまどろっこしい真似なんか出来るか! 俺は殴りたい! 全力で殴り飛ばしてスッキリしたい! お前もそうだろう、なあエース!」


「そう云われると否定できないケド……」


エースは何とか立ち上がり、蜘蛛の糸を吐いてこの場から逃亡しようとした理事長を踏みつけ、同じように殴りつけた。地面に埋めても構わない……自分の手が硬い地面にぶつかり、負傷しても気にしない全力の殴打だ。


「二人とも退け!」


エースの拳の下で手足をばたつかせる理事長に向けて、魔剣を手にしたシルバーが駆け寄る。どこでその剣を手に入れたのか問もなく、シルバーはホームランを打つかのように理事長を斜めに切り上げ宙に浮かせたかと思うと、ジャミルは二階の窓から降り立ちユニーク魔法で身体を硬直させて回し蹴りを見舞う。


再び上空に舞い上がった小さな理事長は、人魚の姿に戻ったジェイドの丁寧な握り潰しを食らわせ笑顔のまま、フロイドにパスする。フロイドの顔――口元は半笑いであるが目は全く笑っておらず、ジェイドと同じく一時的に人魚の姿に戻りながらウツボの尾鰭で思いっきり横殴りにするのであった。


カリムは呆れたような表情をしながら大きな水の球である牢の中に閉じ込めると、セベクが雷を身に纏いながら突進した。そしてリドルの全てを焼き焦がすような火柱が放たれ、火焔が収まるとレオナは獅子の咆哮を上げながら、黒い煙と共に逃げ出す理事長を踏みつけた。


レオナが足をどかすと同時に、フロイド同様一部変身をといたアズールは全身筋肉と表現されるタコの腕力を以て触手で締め付け、身動きの取れなくなった理事長の核となる魔法石にラギーの罵倒と共に二度三度殴打が炸裂する。ケイトはその様子をマジカメで撮影しながら暴行に参加し、エペルは故郷にある重しと云える農具で理事長を叩き付けるのであった。


暴行の嵐の中、蜘蛛は悪あがきをみせその場から走り去ろうとする。マレウスは祝福を施すのではなく呪い殺さんばかりの呪詛を含んだ雷霆をくらわせ、トレイは念入りに磨り潰すように圧縮の魔法を使う。ルークは標本のように磔にする得意の矢を放ち、ヴィルは路傍の小石でも蹴るように爪先で蹴り飛ばした。


ジャックは空中で回転しながら飛来する理事長を、ユニーク魔法……狼の爪で切り裂いて、リリアは両手で掴み空中に飛び上がり、高高度から垂直に投げ捨てる。地面に防御する間もなく小規模なクレーターを作りながら、地面に埋まった。オルトは魔導工学による殲滅用ビームを照射し、イデアはオルトの攻撃が終わるのを確認すると同時に、相手に逃げられないようご先祖様直々の……嘆きの島が霊廟時代に使用されていた悪霊用の檻で捕縛するのである。


「……全く、ナイトレイブンカレッジの生徒は七〇年経っても、全く一片たりとも理解できないよ」


悪霊用の檻に閉じ込められた理事長は、口を開く。皆を、理解しがたい群衆をみながら正直な感想を述べるのであった。


「自分には物理魔法どころか攻撃は効かないと云うのに、殴る蹴る叩く締め付ける……煮るなり焼くなり好き勝手をする。その行動は無意味だと云うのに……」


その敵意、悪感情は少しも分からない。


理事長はそう云うが、これまで完成しない不完全なループの中、奪われた七〇年を取り戻した皆は、これまでの苦痛……時には人為的な操作でオーバーブロットした事実を思い出しながら、同じ感想を抱いていたのである。


「意味? 意味はあるさ。効果がないとしても、お前を殴ればスッキリする」


「……もしかして、自分に恨みでも抱いていると云うのか、不良? それはお門違いもいいところだ。自分はあくまで、監督生を元の世界に戻す為に誠心誠意尽くしていると云うのに。監督生には元の世界に戻って、家族と再会して欲しい。その気持ちは自分と同じ、皆同意のものだろう?」



『お前と一緒にするな!!』



リドル、トレイ、ケイト、エース、デュース、レオナ、ラギー、ジャック、アズール、ジェイド、フロイド、カリム、ジャミル、ヴィル、ルーク、エペル、イデア、オルト、マレウス、リリア、セベク、シルバー。


その場にいる全員が、同時に同じ言葉を叫んだ。


また暴行を加えてやろうか……俄かに殺気立つ中で、怒り心頭……青い髪の毛を赤く燃やしながらもイデアは、「理事長はうちが預かる」と宣言するのであった。


「嘆きの島の本来の役割は、黄泉の国。幽霊の安置所である霊廟なんだ。時代の変化でオーバーブロットの研究が表立っているけど、その役割を放棄したことはないので……一番適切だと思います」


「本来ゴーストがいるべき冥府か。収容したら、理事長を抹消するつもりかい?」


「リドル氏、そうしたいのは山々なんだけどゴーストは既に死んでいる状態なんだ。何らかの方法でダメージを与えられても殺すことはできない。この世から消す方法は成仏の一言に限る……」


多分、グリム氏の青褪めた炎で無理矢理この世から去らせることができるかもしれないが、理事長によって操られていた魔獣には今その力はなかった。


今すぐ消滅させたいのに、唯一の方法は悠長な成仏。


その情報を耳にした各々面々は唾棄しながら悪態を吐く。もう一発殴ってやろうかとヴィルが考えたところで、こちらに向かって小走りに近寄る足音を耳にした。硬い地面を蹴り足早に近寄るのは監督生の姿。


失われた……七〇年間一緒にいた見知った全員の姿を見て微笑み、そして最後は幽閉の檻に閉じ込められた一匹の蜘蛛を見る。


「どうだ、監督生。お前にはコイツを殴る権利がある」


「一発見舞ってやれ」


「エース、デュース……マイディア」


殴る権利。


皆を無理矢理オーバーブロット化させ、身の危険に晒す危険人物。自分を元の世界を戻す為に悪辣な手段を取って来た存在を感情のない眼でみながら、監督生は首を振るのであった。


「……殴る価値もないよ」


アハ。


フロイドは「良い判断するじゃん小エビちゃん」と笑いながら、既に興味を失った無関心な対象、理事長を無視して褒めの言葉を口にする。監督生の下した判断に同意するものは彼だけではなく、思い思い様々な暴行を加えてスッキリした所為か、これ以上唆すようなことを云うことなく、監督生を中心にして中庭から立ち去っていくのである。


向かうべきは、憩いの場――改装されたオンボロ寮であった。


エースとデュースが「行こう!」と大声を出す中、レオナは「俺は眠る」と植物園の方へ行き、イデアは「拙者は理事長を嘆きの島に速達する必要があるので」とオルトと共に離脱し、トレイは「どうせ大勢集まるならパーティにしよう」と寮に戻り、マレウスは「僕は参加して良いのだろうか」と監督生に訊ねる。


「うん、みんなおいで。自分の自慢の城に来て欲しいな」


監督生は嬉しさを隠しきれない笑みを出しながら、「最後の思い出が欲しいな」と口にすると、離脱しようとしたレオナの尻尾をラギーは掴み、遠くに離れがちになったオルトとイデアを呼び戻す。トレイは監督生の言葉を耳にして立ち止まり、再集結するのである。


「みんな、一か所に集まって。いつもみたいに、写真を撮るよ」


監督生はこれまで……七〇年間、様々なイベントで写真を撮ってきた。しかし、一年生、二年生、三年生の皆が大集結した写真は撮ったことがないと思いながら写真を構え、理事長を抜きにした被写体をとらえる。すると、エースはこらえ性のない子供のような声を上げたかと思うと、マジカルペンでゴーストカメラを浮遊させ、デュースは監督生の腕を引っ張って、皆の中心に添えた。


「たまにはお前も写真に写れ、人間!」


「……あ、できればその写真、拙者にも配布よろしくお願いします」


「私も欲しいわね。どんな出来の良い映画よりも価値のあるワンシーンに違いないわ」


ほら、笑って。


皆が監督生との今生の別れを、物語の終わりを悟っている。


監督生は困ったような顔で笑いながら……だがしかし、決して涙を流すことなく、写真を撮ることが特技になっても撮られることは不慣れな中で戸惑っていると、「俺様を忘れるんじゃないんだゾ!」と猫を被った声が聞こえる。


見れば、焼け跡地になった闇の鏡の間のある方面から学園長の姿と共に現れたのは、いつものリボンを首に巻いたグリムの姿。


無事だったんだ……と監督生が独り言ちる中、四つ足で全力疾走するグリムは監督生の胸の中にダイブし、鼻息荒く得意げに真っ直ぐゴーストカメラを見詰めた。監督生は体毛の所々にある煤を払い、グリムをしっかり抱き抱え正面を見ると同時に、パシャリと撮影のスイッチが押された。


その記念撮影は、人数分出来上がるまで撮影会が行われた。


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