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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第2章
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第18話 光祐




そこには冷えきった空気が漂っていた。

二子山での戦いでソラとクローが負傷した。クローは肋骨骨折、左腕に拳銃の被弾、なんとか意識を保っているがずっと苦しそうに顔を歪めている。ソラはそこまでではなかったが、背中に生えている一対の翼のうち、片方が羽根がいたる所で抜け落ちて、残っている羽根もソラの血液で赤く染まっている。腹部を日本刀で斬られて、ここに来るまでソラはずっと手で押さえていた。

二子山でネクストに負け、タイタンの拠点を奪還することに失敗した僕達は、僕達の拠点である神社内に帰ってきていた。

ソラとクローはベッドに寝かされ、マイとミナトはそれぞれの傍で看病をしている。それ以外のメンバーはリビングでそれぞれ悲観に徹していた。


帰還してからどれ程の時間が経ったのだろうか。体の疲れはもう丸1日運動を続けたくらい溜まっている。静かな空間は時間が経つのが早いようにも遅いようにも感じる。


僕らはネクストとの初めての戦いで負けたことにいつまでも迷って悩んで、苦しんでいても仕方がない。今ある現状を受け止めて前に進むしかないのだ。


「スミハ、」

「何ですか、ハルキ先輩?」

「これからタイタンのメンバー達をどうするの?元の世界に帰りたい人も居るみたいなんだけど」

「そうですね、それがいいと思います。タイタンの皆さん、私達は元の世界に戻ることが可能です。元の世界でネクストの姿は今のところ確認されていないので、戦うのが苦手な方などは戻ってここに来ないで安全に生活できます。元の世界に戻ることを希望する方はいますか?」

それを聞いたタイタンのメンバーはそれぞれ顔を見合わせた。

そして、シグ以外の3人全員が手を挙げた。

「皆、、」

シグの寂しそうな声が部屋に響く。

「ごめん。ミノの仇も取りたいしクローを重傷にさせた奴も許せない。でも自分が死ぬのはやっぱり怖い。だから俺はここから戻りたい。勿論、元の世界で出来ることがあれば全力でサポートする」

「2人も一緒の理由?」

シグが聞くと、2人とも首を縦に振った。

「私達はシグやクローと違って戦える能力じゃないし、、。ごめんなさい」

そう言って女性は頭を下げた。それに習って2人も頭を下げる。

その状況に僕はどう接すればいいのか分からず狼狽えていると、後ろの方から扉の開く音が聞こえてきた。

振り返ると、扉の木枠に片手を付き、もう片方をマイの肩を借りてもらいながら立つクローの姿があった。

「クローさん!?まだ寝ていた方がいいですよ!」

慌てて声をかけるがクローはやんわりと断った。

「大丈夫だ。、、、、皆、戻るんだな?」

「、、はい。すみません」

「そうか。いや、謝らないでくれ。こっちこそ巻き込んだりして悪かった。ごめんな。安全に暮らそうって約束したのにな。結局、守れなかった。約束も、あいつのことも、、。こんな何も出来ない俺だったけど、今まで付いてきてくれてありがとう」

クローは最後に、笑顔でお礼を告げた。

その言葉を黙って聞いていた3人の目には涙が浮かんでいた。


「本当に、ありがとうございました」


少年が震える声でそう絞り出すと、スミハの方を向いた。スミハは軽く頷いた。

「行きましょう」

スミハは3人を入口まで案内した。障子扉を開くと、先に敷居を越えて外に出た。3人は、1度後ろを振り返ってから外に出た。扉が閉まると4人の足音は聞こえなくなった。


「、、行ったか」

クローが呟いた。そして、体を支えるために手を置いていた柱に全体重を預けるかのように、マイの肩から離れてそのまま床に倒れた。今まで話していたときの表情とは打って変わって、とても辛そうに痛みを堪えている。

「ク、クロー!?しっかりして!」

マイが慌ててクローを抱き起こす。クローの息はかなり荒くなっていた。さっきまで我慢していたのだろう。ベッドからここまで来るのにもずっと痛みは引いてなどいないはずだ。包帯を巻いている上に血が滲んでいた。

リビングにいた全員がクローの元に駆け寄り、慎重に抱えあげようとしている。ベッドに運び戻そうとしているのだろう。

僕もその輪に加わって重さを分散させようと足を動かした。コウスケは付いてこなかった。


ベッドに寝かされたクローの顔はさっきと比べると若干和らいでいた。それでも、無茶をしたせいで傷口はすっかり広がってしまっているだろう。

「誰か、誰か治せる来世はいないの」

クローに掛け布団を被せたマイがこちらを向かずに問いただした。

僕は今日加わったタイタンを含め、アストレアのメンバーを思い返してみたが傷の治癒系の能力を持っている人は思い当たらなかった。

「ん?ヨシナギの能力って、、」

「確かに僕の能力で体力の回復は出来るっすけど、流石に傷の修復とかは無理っす、、」

「そっか、、、、」

あとはさっきスミハが外に送りにいった3人しか残ってないが、マイが僕らに向けて聞くということはタイタンにはいないということだろう。

そのとき、部屋の扉が開いてコウスケとスミハが入ってきた。スミハは部屋の状況を見るなり、自分がいない間に何が起きたか察したらしく、掛ける言葉を探していた。コウスケはクローの苦顔を見て何か考えているようだった。

やがてスミハが口を開いた。

「早く傷を治療しないといけませんね」

「それはそうなんだけど、治療出来る能力の人がいないから、、」

治療が出来ないのならば、病院に行けばいいとも思うが、必ずしも病院が安全だとは言いきれない。能力にリスクが無いとも言いきれないが、長期間拘束される公共施設に頼るよりは色々と都合が良い。まぁ、そんな能力を持っている人がいればの話なのだが。

「治療の来世能力ですか。確かに私も今のところは知りませんね、、」

再び部屋の全員が黙り込んだ。


「俺に、やらせてくれないか?」

コウスケがぼそっと、しかし全員に聞こえるはっきりとした声で呟いた。

「え、、?」

コウスケの言葉に、全員が驚きの顔をそちらに向けた。スミハはそれほど驚いてはいなかった。

「コウスケ、出来るの?」

「分からないけど、2人の負傷した姿を見ていたらなんとなくできる気がしたから」

そう言ってコウスケはクローの横たわるベッドの前に立った。マイは訝しげにコウスケの顔を伺っていた。

コウスケが両腕を前に突き出し、クローの心臓の上辺りで両手を重ね合わせた。それから、息を小さく吸って一言、短い単語を呟いた。


「億床、治癒」


その光景はなんとも美しかった。

コウスケが能力の名前を呟くと、まず左手に黄緑色の紋様が浮かび上がった。その後、コウスケとクローの輪郭も紋様と同様の色で輝きを放ち出した。ここまではヨシナギのものとあまり差異は無かったが、それからクローの体に変化が起こった。クローの負った傷口を覆うように蛇の皮や、爬虫類の皮膚の様なものが巻きついた。巻きついた皮のようなものはやがて剥がれ、粉々になって辺りに光の粒子を振り撒いた。銃弾を受けた腕から傷口は無くなっていた。

「爬虫類で治癒、再生系と言えばトカゲですかね」

コウスケが治療を行う中、スミハが僕の横に立ってそう言った。

トカゲ、か。


「先を越されて羨ましいですか?」

「そりゃあ、多少はそうだね」

でも、べつにそんなものは関係無い。たとえ僕の方が先に能力が使えるようになったとしてクローとソラの傷を癒せたわけではない。まだ自分の来世がどんなものかも分からないけれど、コウスケがクロー達を見て感じていたものは僕には無かった。

能力なんて、誰かの役にたてれば誰が先に使えるようになるかなんてどっちでもいいのだ。それでも僕は人間だ。誰かを、親友だとしても羨むことくらいはしてしまう。


クローの治療を終えたコウスケはソラの傷も治すために部屋を出ていった。

しばらくして扉が勢いよく開くとソラが足取り軽く入ってきた。今までの傷は本当に無くなったようで、改めてコウスケの能力の凄さに目を見張る。

「ありがとうね、コウスケ」

「助かった、ありがとう」

戻ってきたコウスケに、傷を治してもらった2人がお礼を言った。

「そんな、俺がもっと早く能力を使えるようになっていれば苦しませずに済んだから、礼を言われるほどでは、、」

「いやいやいや、能力が使えるようになっただけでも大きな進歩だから!」

ソラにそう言われたコウスケは、照れたように頭を掻いたが、それだけで何も言わなかった。

ソラはクローの横に歩いていくと、こちらに振り向いて頭を下げた。

「さっきの戦いで大怪我をして、皆に心配をかけました。ごめんなさい」

「俺も、自分が弱いばっかりに、、。すまなかった」

2人の頭に声をかける者はいなかった。でもそれは2人のことを許さないのではなく、きっと誰も2人を責めることが出来なかったからだ。

クローは僕を守るために、ソラはタイタンもアストレアも護るために、それぞれ戦っていた。被保護側の僕達が何か言えるわけもなかった。

それでもソラとクローは頭を下げ続けた。


「、、もう、いいかな?」

「あ、、すいません大丈夫です」

「うん、ありがとう」

自分から提案しなかったらもしかしたらずっとこのままだったのかもしれない。素直なのか、純粋なのか、、。


「さて、皆元気になったところで忘れない内に、、忘れたりはしないでしょうけど、反省会にいきましょうか。まずネクストの陣営構成から」

そう言ってスミハは僕に向いた。

皆は黙っていて僕が話し始めるのを待っていた。




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