第17話 仲間と犠牲
「なぁ、ハルキ」
「何、コウスケ?」
「お前はあのネクストの言っていた事をどう思った?」
「オノって人のこと?」
「そう」
僕とコウスケはタイタンのメンバーが居るという奥二子山を目指して走っていた。
その途中、オノと名乗るネクストの男からネクストについてあることを言われた。
『人形を操るのもまた操り人形』
「さぁ、どういう意味なんだろう。人形って言われるとあの砂とか土で出来た人形が浮かぶけど」
「あぁ、確かにそれは俺も思い浮かんだ」
「でもさ、僕らが考えて変な結論を出すよりも、僕達には専門職がいるんだからそっちに聞いた方がいいと思うんだ」
眼鏡をかけて不敵な笑みを浮かべる少女の顔が思い浮かぶ。
スミハはいつもどこかからかう様な口調で僕に話し掛けてきて、そのたびにイラッとさせられるが、探偵の能力については素直に凄いモノだと思う。
情報が3つなければ使えないらしいが、それでも3つ揃いさえすればどんな謎でも解くことが出来るということだ。
羨ましいこと限りない。
「その話をするためにも早く合流しないとな」
それから5分後、僕らはやっと奥二子山山頂に辿り着いた。
それから少し行くと山小屋、奥二子山の東屋があった。
こちらの世界ということだから、勿論営業をしているような様子はなく、店の入口は木戸で塞がれていて窓は全てカーテンが掛かっていた。
建物自体は木造で、所々朽ちたり木の表面にカビやコケが発生している。
さほど大きい建物ではないが、中に何人かいるのだろう。中から声が聞こえてくる。
「、、、、、、られない、、、、て、、、、っす!」
「待ちなさい!彼等ならもうすぐ来ますから」
「でも、、!、、、、ってうわっ!」
僕らも中に入ろうと、扉に手を掛けようとしたとき、扉が先に開いた。
中から出てくる人と危うくぶつかりそうになる。
「、、、、どうも、遅くなりました」
「コウスケ!ハルキ!、、っ良かったぁ。大丈夫っすか?怪我とかしてないっすか?」
「うん、大丈夫。2人とも無事だよ、ヨシナギ」
「それは本当に良かったっす、、2人ともはぐれたから皆すごく心配してたんすよ」
そう言ってヨシナギは涙ぐんだ。
「その皆はもう来てるの?」
そう聞くと、建物の中から声が届いた。
「先輩、皆居ますよ!さぁ、入って入って」
僕達が中に入るとヨシナギは扉を素早く閉めた。
建物の外観はそう広いとは思えなかったが、内側は結構広かった。
壁が木製ではなく床も含めてコンクリートで出来ているため、恐らくこれもアマセの能力によるものなのだろう。
部屋の中の皆を見回すと、知らない顔が何人かいて、部屋の壁際に座っていた。
行きでは別行動だったが今はタクトとユキもいた。
タイタンのメンバーは憔悴した顔を浮かべているが、負傷している様子は無い。
皆無事でよかった。
「スミハ。これで僕らの任務は完了だよね?」
「はい。あとはソラとミナトが帰ってくるのを待つだけです。」
「まだクローも来てない、、、、!」
壁に寄り掛かっていた少女がこちらに歩いてきて悲痛に押し殺した声で叫んだ。
「クローさんは、、、、僕を助けるために大怪我を負って山頂で、、白い霧に飲まれました」
「そんな、、、、!」
そう言って少女は崩れ落ちた。
「大丈夫です、、クローさんは後から必ず行くと言ってい、、、、」
「大丈夫なわけない!あの霧に飲まれたら死んじゃうのよ!!何で、、、、何で、、!」
何で置いていったの
その人の言葉にならなかった心の叫びは僕に痛いほど深く突き刺さった。
「ごめんなさい、、、、。もし良ければ、あの白い霧について何か知っていることがあれば教えてくれませんか?今ならまだ間に合うかもしれない」
少女は、こちらに顔を向けなかった。
「霧のことについては僕から話させてください。彼女は今、話せるような状態ではないと思うので」
近くに立っていた少年が近付いてきて、小声でそう提案した。
「お願いします」
スミハの言葉に頷き、その少年・シグは話しはじめた。
「あの霧は僕らにとって悲惨な、とても悲しい悲劇を生みました。
4日前、僕らは二子山でネクストに襲われました。それまでは送電所を僕らは拠点に生活していましたが、襲撃で送電所を追い出され、ここに逃げ隠れるしかありませんでした。
街の方に降りる方法も考えられましたが、ネクストはここら辺一帯を結界で覆い、前世持ち以外の出入りを封じたため、出来ませんでした。
それから3日後、つまり昨日ですが、僕らは再びネクストに襲われました。
1度目はここまで逃げることで生き延びることが出来ましたが、今回は他に逃げる場所が無い。戦うしかありませんでした。
僕らは奮戦して、あと少しでネクスト側の1人をあと少しというところまで追い詰めていました。
でも、とどめを刺そうとしたとき、あの霧が現れたんです。
その霧は僕ら全員を包み込むまで広がっていき、仲間とどれだけ近くにいようと1人1人を隔離しました。
皆が何処にいるのか確認しようと声を上げましたがその声も周りには聞こえず、他の人の声も僕には届きませんでした。
その後、霧が晴れたとき、僕らは散り散りに引き離されていました。
僕は比較的近くにいたミノの元へ走り始めましたが、途中で見えない壁にぶつかってそれ以上進めませんでした。
ミノは能力で身体を周囲に溶け込ませて隠れていましたが、ネクストに見つかってしまい、その、、そのままミノは、、、、」
それに続く言葉は無かった。
親しかった友人や親友がある日突然もう会うことが、話をすることが出来なくなったら相当辛いだろう。
僕はまだその経験は無いし、経験したくもない。
どれだけ嘆いて、どれだけ足掻いたところでこの人達にとって''ミノが死んだ"という事実はどこまでも変わりなく彼等の心に深く突き刺さっているんだ。
1日やそこらで気持ちの整理がつくはずなんかない。
目の前で話をしていたシグも、額に手を当ててしばらく押し黙っていた。
「スミハ、どう?何か分かりそう?」
僕の隣で特に表情を変えることなく聴いていた探偵に訊ねた。
「そうですね。シグさん、質問いいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「霧が晴れたとき他のタイタンのメンバーは視認出来る場所に居ましたか?」
「たしか居たと思います」
「そうですか。次の質問です。霧に飲まれた後でミノさんの他で負傷したメンバーは?」
「それはいません。ミノだけでした」
「ありがとうございます。ハルキ先輩、霧に飲まれたときの情報で何か他にありますか?」
僕はさっき起こった出来事を思い返した。
「山頂で僕とクローさんを襲った男がウィルって叫んでた」
「ウィル、ですか。分かりました、少し待っててください」
そう言うと、スミハは着物の襟からメガネを抜き取って、それを掛けた。
左手を胸に当て、右手でそれを上から包み込み、目を閉じた。
「因果解紡」
スミハがそう呟くと、右手の指の間から美しい琥珀色をした輝きが溢れ出した。
その輝きはすぐに収まり、スミハがゆっくりと目を開いた。
「あの霧は殺人霧ではありませんので安心してください」
「え?」
「ウィルとは、ウィリアム・シェイクスピアのこと。霧の正体はシェイクスピアの前世を持ったネクストの能力によるもの。
霧に包んだ対象を視認できる範囲に転送させる。転移先を指定できるのは範囲内の1人まで」
スミハは探偵の能力で霧について知ることが出来る情報を淡々と告げた。
「てことはシェイクスピアはミノさんを指名して転移させたってこと?」
僕が聞くと、スミハは少し考えてから答えた。
「私がその能力を使えたとして、近くに味方がいる場合、一番弱い敵を飛ばしますね。敵の戦力を減らせますし」
それを聞いた少女が床に崩れたままスミハを睨みつけた。
「じゃあ、ミノが殺されたのは私達の中で一番弱かったから、1番どうでもいい存在だったからだっていうの!?」
「、、、、いえ、そこまでは」
スミハは少女から目を逸らしてそう言った。
少女の方はそれを聞くと再び黙ってしまった。
静かな時間が空間を暗くしていく。
「、、、、クロー、、、、私はどうすればいいの?」
少女はそう呟くと、部屋の扉を引いて外に出ていった。
シグは走り出す少女の腕に手を伸ばしたが、届かなかった。
その行動を見たことで僕は、僕らの置かれている状況を改めて思い出した。
「そうだ、外でソラが戦ってる。クローさんもいる。、、、、霧のことを教えないと」
僕は、ソラとクローのことが心配だった。
ミナトもまだ来ていない。もし、再びシェイクスピアに飛ばされたらクローは間違いなく殺される。
あのときシェイクスピアは何故僕達をあの術を使うネクストから引き離したのかは分からないが、どちらにせよここに居ないという事実だけでクローもソラもミナトも危険に晒されていることに変わりはない。
自分の責任というのもある。
僕はクローを連れてこなくてはいけない。
僕は扉まで駆けると、扉を引き開けた。
外に出て扉を閉めたとき、僕の横から視線を感じた。
そこにはさっきこの扉から外に出ていった少女が座り込んで顔を埋めていた。
腕で半分隠れた顔がこちらを伺っていた。
「あんたは、、、、霧の持ち主の声を、聴いたんだったよね。どんな奴だったの」
「えっと、なんというか、そこに実体がない、霧そのものがシェイクスピア本体の様なそんな雰囲気がしました」
それを聞いた少女は、さほど興味が無さそうに「そう、、」と呟いた。
「それで、あんたは何で出てきたの。中にいる方が安全なんでしょう?」
「クローさんを助けに行く。僕が巻き込んでしまったんだ。だから、、」
うまく言葉が見つからなかった。
助けてくれた。だから死んで欲しくない。
そんな簡単な文章2つで成り立つような感情ではないし、そんな簡単に表現していいものでもない。
僕が言い淀んで居ると、少女は目元も組んだ腕に隠した。
そして、一言呟いた。
「ほんと」
僕は少女の方を向いた。少女は立ち上がってこちらを見返した。
「あんたも私と同じじゃない」
少女は赤く腫れた目で、呆れたように言った。
「そうですね。きっと僕もあなたと同じだ」
誰かを助けたいとか、そのためなら自分の危険も知らないとか、きっと僕とこの少女は似ているんだ。
だって、彼女の悲痛な心の叫びは僕にも悲しいくらいに伝わってしまうのだから。
「私はマイ、来世はヤマアラシ。似たもの同士仲良くやっていこうじゃない?」
「僕はハルキ。これからよろしく。えっと、僕の来世はまだ何なのか分からない」
「来世が分からないって、まだ能力が使えないってことじゃない。そんなんでよく助けに行こうとか考えられたわね。まぁいいや。ハルキ、アンタはクローが何処にいるのか分かってるの?」
「正確には分からない。でもあの能力が視認できる範囲までしか転移出来ないなら、二子山の山頂の近くにいるはず。でも、その前にソラとミナトに霧のことを伝えないと」
「そうね。なら早く済ませるわよ」
マイは横目で僕を見ると、走り出した。その後を追って僕も走り出す。
さっきソラとオノに出会った所に2人は居なかった。
その代わり、青い羽根と赤い血痕が点々と舞散っていた。
嫌な予感がする。胃がキリキリと痛みだす。
血痕はあちこちに飛び散っていたが、比較的大きなものはどこかに向かって続いていた。
その跡を追っていくと、血痕の途切れた所の近くの木に寄りかかるようにしてソラが立っていた。
「ソラ!!」
「あ、、ハルキく、ん、、、、」
「大丈夫ですか?!」
マイがとても心配そうに聞いた。
ソラは体を木から離して立ち上がるが、すぐによろけてマイに倒れ込んだ。
ソラの白く、青い翼は片方がボロボロになって赤い血で染められている。
体のあちこちに斬られた傷があり、右の腹部には大きな赤いシミが布地を染めていた。
「大じょう、、っ!、、ぶ、、、、大丈夫、だから、、皆は、無事?」
絶対大丈夫なんかじゃないのに。
そんなに傷を負っていて、1人で立っていられないくらいになっていて、大丈夫なはずなんてないのに。
それでもソラは僕達に笑顔を向けて僕らの心配をしてくれている。
この人も、僕と似ているのかもしれないと思った。
いや、僕なんかよりもずっとお人好しなんだと思う。
「僕らのグループは全員無事で、皆避難し終わってます。ただタイタンのリーダー、クローさんがまだ、、」
「それなら安心していいよ。今ミナトが迎えに行ってくれてるから。私達は先に戻っていましょう。流石にこの傷だとヤバそうだし」
そう言ってソラは腹部を押さえた。
ミナトがクローを迎えに行っていると聞いてマイは安心したようだった。
す険しかった顔が少し柔和になっていた。
「ハルキくん、悪いけど肩を借りてもいい?」
「もちろん、どうぞ」
「ありがとう」
僕はソラの杖となって山道を再び登った。
「ごめんね、勝てなかった」
「え?」
少し前を歩くマイに聞こえない位の小さい声でソラは僕に謝った。
「あの刀使い、相当強かった。刀の形が変わったり、長く伸びたりして、対処しきれなかった」
「そんな。貴方が生きてるだけで十分です。生きていればいつか勝てるんですから」
「、、、、そうね。私はまだ生きている。誰も死んでない。それで十分ね」
「はい」
僕らが山小屋に着いたのとほぼ同時にミナトも現れた。
クローはミナトに担がれてぐったりとしていたが、まだ息はあった。
僕らは全員の集合を確認したところでアマセによってアストレア拠点に帰還することになった。
結果的に今回、二子山を奪還するという作戦は失敗に終わり、タイタンの保護を行うことしか出来なかった。
少ない損害で多数の命を救うことが出来たことは大きかったが、その反面"入院クラス"の負傷者を出してしまったという事実は僕らに重くのしかかった。
それでも僕らはまだ生きている。
生きていればいつか勝てる。
それぞれがそう強く思ったネクストとの戦争が今ようやく一区切りの終わりを告げた。
第1章完結です。
思ったより長くなりました。
第2章では学園生活が中心になります。




