仲間を信じ、全てを託すアギト
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」
「に、逃げろ…………」
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
(何だあの左側の炎は?それに、右側も騒がしいな………いったい何が起こっている?)
「いったい、何が起きているのですか?」
「そ、それがどうやら左前方には、炎を纏った剣士が居るとの情報です。そして、右側には…………」
「アギトをがえぜ―――――――!」
突如、急に上空から現れたのは、怒りに満ち溢れた顔をしたルナだった!唇は、噛み千切られ血が流れている。顔には血管が浮き出ており、その顔はまさに鬼とも呼べる顔だった。
(なっ!ルナだと?どうしてここに?)
「ちっ!」
ルナは、月影の重斧を振りかざしシエナ本人に目掛けて振り下ろした。
【ガキンッ】
しかし、一歩手前でジャッジメントのメンバーがその攻撃を食い止める。
【ジャキキキキキキ!!】
だが、ルナの武器は魔石の力を解放していて、ジャッジメントのメンバーの杖を砕く。
【バキィッン】
「何だと!」
杖を真っ二つにされたメンバーは驚きの表情をうかべた。
ルナは、シエナの前に立ちはだかり怒りをあらわにする。そして、ルナの横には黒いもやの人影が現れる。大きさは、ルナと同じぐらいの身長をしており、ゆらゆらと揺れている。そして、ルナのすぐ後ろにうっすらと鬼の姿をした何かがはっきりと見える。
(あの影はまさか、ルナの固有スキルによるものか…………。それに何だ後ろに見えるあれは鬼か?)
「アギトをがえぜ、ぐぞやろう…………ギリッギリッギリッ」
「な、何なのこの不気味なガキは…………。マホ、相手しなさい!」
「かしこまりました!」
マホが武器を構えた瞬間、舞台の上に立つもう一つの新たな人物が現れた。
「あんたの相手は私よ、クソ女………。お前だけはここで殺す」
そこには、炎王剣・レーヴァテインと氷王剣・ニヴルヘイムを持ったティファが居た。
「クソッ!どいつもこいつもゴキブリみたいに湧いてきやがって…………。こうなったら、少し早いけどあいつらの出番ねっ!出てきなさい、お前達!」
すると、処刑台に上がってくる四人の人影…………。
「久しぶりだなティファ。会いたかったぜ…………」
「あんた達は…………」
(あいつらは確か…………)
そこに居たのは、昔アギトがティファを助ける事となったきっかけを作った、エマ、ジェニス、トーマスのパーティ、それから元天使の宴のサブリーダーのカイトだった。
「お前のせいで、俺はずっと檻の中に居たんだぜ?まぁ、送ったのはエリスだがな」
「そんな奴らがどうして今頃?」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ!死ぬ覚悟は出来てるな、ティファ?」
「私があなた達に負けるとでも?」
「この人数に勝てるわけねーだろ?あのチビも…………」
「ギッ…………ギリッ………ギリッ………ゆるざないぞ…………」
「マホさんはその餓鬼を、俺達はティファをやります」
「えぇ!わかったわ!」
「待て!」
「「「!!!」」」
突然、アギトが口を開いた。
「その餓鬼は、俺がやる…………俺の手で殺す」
「アギト?…………な、なんで…………アギトがルナをいじめるの…………?ねぇ………どうじて…………」
ルナは泣きながら混乱した。ルナが大好きだったアギトはそこには居なかった。今、目の前に居るのは自分を殺すと言う大好きなアギトだったからである。
「ねぇ…………なんで…………?」
「お前は誰だ?」
「!!!」
「アギトォォォォォ!」
ここで、ティファが大声でアギトを呼んだ。
「おおっと、何処に行こうって言うんだ?お前の相手は俺達だぜ?」
「どけ、クソ野郎ども。本気で殺すぞ?」
「上等だ!やってみろよ!」
「くそがぁぁぁぁぁ!」
「さて、向こうはあいつらに任せて俺達も始めるか、チビ野郎!」
「いや…………いやだよアギト…………ルナ、アギトとたたかいたくない…………」
「なら、お前は死ぬだけだ…………」
「う…………うぅ…………うぅう…………うわぁぁぁぁん」
ルナは泣き出し、アギトの足にしがみつく。
「やだよ…………アギト…………ルナを一人にしないで…………。ルナのそばからいなくならないで…………おねがい…………」
【ガシッ】
「くっ!」
アギトはルナの首を掴み、宙に持ち上げる。その腕を両手で掴むルナ。
「う…………うぅ…………う……くるしい………アギ……ト………」
【ガンッ】
「ぐはっ」
アギトはルナを叩き落し、ルナは地面へと倒れアギトはすぐにルナにまたがり、両足でルナの両手を封じる。そして、右手に仕込んでおいた小さな紙をルナの服のポケットに忍ばせる。
「!!!」
(悪いルナ、少し我慢しろ。そして、そのまま黙って聞け!俺は平気だ、わざと操られてるフリをしているだけだ。俺が大好きなルナを忘れるものか!今、ポケットにしまった手紙をティファに渡せ!これはお前にしか出来ない事だ。いいな!)
ルナはアギトが正常だと知り小さく頷いた。そして、アギトはラルフの居る位置を目だけで確認した。
(流石は拳聖、いい場所に居やがる。感謝しかねーなっ!)
アギトは、再びルナの首を掴み持ち上げる。
「おい、そこの女!こいつがどうなってもいいのか?ここから落としたらどうなるだろうな?落とされたくなかったら、剣をしまえ!」
「そんなハッタリ、私に通用するとでも?」
「なら、試すか?」
アギトは、目でティファに合図する。一瞬の出来事を見逃すほどティファは馬鹿ではない。アギトの考えに気づき、あえて剣をしまわない。
「やって見なさいよ!」
「フンッ」
【バッ!】
「なっ!」
アギトは、ルナを放り投げる。それを見たティファは、直ぐに剣をしまいルナを捕まえようとするが、距離的に無理だと分かっていた。これは、自然にティファもここから逃すためのアギトの作戦だ。
(ルナ…………。そんな顔をするな、またすぐに会えるさ)
「アギトォォォォォォォォォ!」
ルナは泣きながら手を伸ばし下へと落ちていく。そして、それを捕まえようとティファも落ちていく…………
(頼むぜ、拳聖!俺の意図を汲んでくれ!)
(くそ、勇者!わかってるよ、ルナのことは任せろ!死ぬんじゃねーぞ!)
(後のことは頼むぞティファ…………)
下では、ラルフがルナを掴み何かを叫んでいる。すると、直ぐに数人がその場から立ち去るのが見えた。ティファを見ていたアギトは彼女と目が合い、小さく頷いた。
「なぜ、殺さなかったのですかポチ?」
アギトは無言でシエナを見つめ、そして視線を逸らす。
「まぁ、いいでしょう。これで勇者は私達に下ったとあの者達も思い知ったことでしょう!さて、後はこの国をもらうだけです。仕上げと行きましょう!」
「皆さん!どうか落ち着いてください!賊は居なくなりました、安心してください!」
必死に村人たちを落ち着かせるシエナ。やがて、冷静さを取り戻した村人たちは再びシエナの方へと顔を向ける。
「落ち着きましたね皆さん。それでは、次の発表に移ろうと思います。連れて来てください」
シエナはメンバーにある人物を連れてくるよう言った。すると、メンバーと共に現れたのはこの国の王、ネロ・ライコネンであった。
(なっ!なぜ、王様がここに居る…………まさか…………)
【スキル 調べる】
【ネロ・ライコネン 54歳 男】
【職業:国王】
【状態:良】
【死に至る可能性:✖】
【冒険者ランク:―】
【所属クラン:無し】
【固有スキル:無し】
*シエナにより奴隷化されている
*シエナの精神支配が解かれれば、奴隷化も解除される
(やはりな…………。だとすればシエナのすることは1つか)
「さぁ、ご覧ください!この国の王、ネロ・ライコネン様です。ここで、王様から大切なお話があります」
「国民の諸君、ごきげんよう。私はこの国の王、ネロ・ライコネンだ。本日は大事な知らせがある」
【ゴクリッ】
王の発言に注目が集まる。皆が唾を飲み聞き耳を立てる。そして
「本日をもって、私ネロ・ライコネンは王位の座から降りる事とする!」
「なっ!父上、何をおっしゃっておられるのですか?」
【ガヤッガヤッ】
突然の発表に驚く国民達と、この場に居たヴィクトリア第一王子だった。そして、誰もが継承者としてヴィクトリア・ライコネンであろうと予想するが、国民の予想をはるかに上回る答えが返ってくる
「そして、この国の新たな王として、ここに居るジャッジメントのシエナとする!これは、決定事項だ。決して覆る事は無い!そして、我が息子ヴィクトリア・ライコネンとカイル・ライコネン、それからアリス・ライコネンは、シエナの部下となる!それから、勇者アギトに与えた領地も新たな王、シエナに返還するものとする」
(やはりな…………)
「父さんっ!」
「黙れ、ヴィクトリア!これからは、シエナ王の下に就け!いいな!」
「くっ…………」
「安心しろ、アリスもすぐに連れてくる。心配するな!」
(どうする………。アリスが捕まったら、この国は本当にお終いだ。どうすれば…………)
すると、アギトがヴィクトリアの側に行き静かに話す。
(聞いてください、ヴィクトリア王子)
(なっ!アギト様、意識はあるのですか!?)
(はい、わけあって俺はシエナに操られているふりをしているだけです。精神は乗っ取られてはいません)
(そ、そうか…………良かった)
(王子、アリスの事なら平気です!この展開も予想はしていたので、ティファ達に任せてあります。きっと今頃アリスと共にこの国から脱出しております。ですので、王子もこのままおとなしくお父上の言う事を素直に聞いてください。シエナの奴隷化は厄介です。歯向かうなら、すぐにでも王子を奴隷化するでしょう)
(な、なるほど。わ、わかった!アギト様の言う通りにします)
(いずれ、ティファ達が反旗を振りかざし、ここへやってきます。それまでの辛抱です)
(うむ)
「わかりました、父さん。あなたの言う通り、このヴィクトリア・ライコネンはシエナ王に尽くすことを約束いたします」
「うむ、それでよい」
「さて、本日の発表は以上です。これにてこの場を解散といたします。皆さま、ありがとうございました」
こうして、この場は解散となったのだが…………
「さて、ヴィクトリア・ライコネン。あなたには奴隷の儀式をいたします」
(しまった!これほどまでに、シエナが警戒しているとは思わなかった。どうする…………)
「わかりました。お好きなように」
(大丈夫だ。たとえ精神を乗っ取られても、アギト様が居る。きっとこの状況をアリスと共にどうにかしてくれるはずだ。それまで俺は奴隷でも何でもなろうじゃないか)
ヴィクトリア・ライコネンの目は死んではいなかった。アギトを信じ、アリスを信じている。きっとこの2人ならと。




