『しゅぎょうなんか、ぜったいにしないぞ!』 其の3
結局その日ルナは、月音に貰ったお金でジュースを買いに行き、月音に会うのが恥ずかしくなり、屋敷へと帰って行った。そして次の日、今日もまた修行をサボって街へと繰り出したルナ。街の中を探検しつつ、昨日月音と別れた広場へとやって来た。そこには、フルートを演奏している月音の姿があった。
立ち止まって聞いている人はまばらで、決して多くは無い。だが、通り過ぎる人々はフルートのケースの中にお金をカンパしていく。その様子が不思議でルナは食い入るように見ていた。『あの人たちは何でお金を入れていくのか?』と不思議でしょうがないルナ。そして、月音が休憩を始めたタイミングで近寄るルナ。
「おい、つきね!なんでみんなして、このなかにおかねをいれていくんだ?」
ルナは結局、恥ずかしさのあまり『月音ちゃん』とは言えなかった。それでも、『お前』じゃなくちゃんと『月音』と呼ぶことは忘れていなかった。
「あら?その声はもしかして、小さな熊さんのルナちゃんね?」
「ちいさなくまはよけいだ!ルナはルナだ!わかったか!」
「わかりませーん!ルナちゃんは、小さな熊さんだよ!」
「むむむぅ…………」
完全に会話のペースを月音に握られているルナ。いつもなら、自分のペースに持ち込めるのだが、月音相手だとどうにも調子が出ない。
「それで、このお金の事ね?これはね、いわゆるお駄賃ってやつかしら?」
「おだちん?」
「そう、良い曲だったよとか、演奏が上手だねって意味でお金をくれるの」
「なるほど!じゃ、ルナも…………」
しかし、いつもの事ながらルナはお金を持っていない。どうやって稼ぐのかも知らない。困ったルナはしばし考える。しばらくの沈黙の後、ルナが出した結論はと言うと、自分が持っていた木製の手斧を月音に差し出した。
「ルナはおかねをもっていないから、このきのおのをつきねにあげる!」
そう言って、ルナは木製の手斧をケースの上に置いた。ハッキリ言って、月音からしたらこれほどまでにない迷惑な品だ。売る事も出来ず、自分で使う事もなく、ただのゴミだ。
「あ…………あの…………ルナちゃん?」
「なんだ!これじゃたりないのか?ちゅうもんがおおいやつめ!」
「いや、そうじゃなくて……。これを貰っても私困るんだけど…………」
「なんでだ!こうしてふれば、まものだってたおせるぞ!」
ルナは木製の手斧を取り、その場で素振りした。
「私、目が見えないから魔物と戦うことなんて出来ないんだけど…………」
「そうなのか!じゃ、どうすればおかねをもらえる?」
「うーん。そうだね、ルナちゃんの年齢だと冒険者にはなれないから、家族のお手伝いをしたらお駄賃としてもらえるんじゃないかしら?」
「なるほど………。でも、ルナのかぞくはステラしかいない。そのステラもいまはいないし………おかあさんもいない………」
ここで、月音は自分が失言してしまった事に気づいた。昨日、ルナから母親を探す旅に出る為修行をしていると聞いていたのに…………。焦る月音を他所にルナはブツブツと何か言っている。
「………だとすれば、ユイちゃんのおてつだいを…………いや、ダメだ。きっとそんなことをしてるひまがあるなら、しゅぎょうをしろというにちがいない…………。あとは………いつもそとにたっている【こんばん】おじちゃんか……。うーん………」
「あの…………ルナちゃん?」
「よし!きょうはこれでかえる!またあしたくるからな!おぼえてろよ!」
そう言ってルナは屋敷の方へと走って行った。
「まるで、返り討ちに合った人みたいに帰っていったな、ルナちゃん…………」
そして、屋敷まで戻って来たルナは早速門番の二人に話かける。
「おい、おまえたち!」
「おっ?誰かと思えばルナじゃねーか!どうした?今日はやけに帰ってくるのが早いな?腹でも痛いのか?」
「うるさいぞ!ルナをバカにしてるのか?」
「うーん………まぁ、馬鹿にしてるな、あははははっ!」
「キィィィィ!」
「冗談だ、そう怒るなよ!んで、俺達に何か用事があるんじゃないか?」
「はっ!そうだった!おい、なにかおてつだいをするからかねをよこせ!」
「おっ!これは、新しいカツアゲだな!何処で教わったんだ?」
「【からあげ】じゃない!おてつだいだ!」
「カツアゲな!手伝いか………。お前は何かあるか?」
「んー、これと言って特にないな」
「だとよ、ルナ。悪いな、お前に手伝ってもらうことは無いみたいだ」
「チッ!つかえない【こんばん】だ…………」
「んだと!」
「おいおい、本気で相手するな。ストレスが溜まるだけだぞ」
「確かに…………」
「なぁ、ルナよ!」
「なんだ!?」
「エリス様なら何かあるんじゃないか?あの人、いつも忙しいからな…………」
「おぉ!あのおっぱいのおねえちゃんのおねえちゃんか!」
「何かややこしい言い回しだな…………」
「うるさいぞ!もうおまえたち【こんばん】にようはない!」
「あーそうかよ!だったらとっとと失せろ、チビっ熊!」
「いわれなくても!じゃぁなっ!あばよ!」
ルナは走って屋敷へと入りエリスを探しに行った。その様子を見ていた門番の二人は………
「あいつ、本当に五歳か………?」
こうして、ルナはお金を稼ぐために屋敷に居る天使の宴のメンバーに手伝える事は無いか?と聞きまわったのだった。




