千ゴールドの理由
屋敷の敷地内を走り回るルナ。会う冒険者すべてに何か手伝えることはないか聞いて回っていた。しかし、小さなルナに手伝えるものは無いと断られてしまう。
「クソッ…………どいつもこいつもつかえないやつらめ」
独り言をブツブツ言いながら歩いていると、前から見知った顔の人物が歩いてくる。エリスだ…………。ルナは門番の兵士が言っていたことを思い出す。
≪エリス様なら何かあるんじゃないか?あの人、いつも忙しいからな…………≫
閃いたルナは、さっそくエリスに手伝える事は聞いてみる。
「おっぱいのおねえちゃんのおねえちゃん!」
「あら?ルナじゃない?今日は、街の方へ散歩は行かないの?」
【ギクッ】
皆には内緒でコソコソ出かけていたのに、なぜ知っていると驚くルナ。
「そ、そんなことはしてないぞ…………」
「へぇー。じゃ、いつも何処に居るの?夕方まで姿見せないじゃない?」
「えーっと…………」
必死に嘘の理由を考えるルナ。その様子を面白おかしく見守るエリス。実は、全てがバレているのだ。ルナの姿が見えないと、ユイが門番の男に聞いたらあっさり教えてくれたからだ。その事をエリスにも共有していたユイ。
「えーっと………?何?」
「ト、トイレだ!ずっとおなかがいたくてトイレにいた!」
「何処のトイレ?」
「ル、ルナのおへやのちかくのところだ!わかったか!」
「ふーん。まぁいいわ!んで、何か私に用事があるんじゃないの?」
「そ、そうだった!おてつだいするから、おかねをよこせ!」
「よこせ?それが人に対する口の利き方なの?」
「う、うるさい!いいから、はやくいえ!」
「うーん…………そうだな…………」
真剣にエリスの事を見つめるルナ。その目はとても輝いていた。しかし…………
「今のところルナちゃんに手伝える事は無いかな…………」
【ガーッン】
何かに打ちのめされたかのような顔をするルナ。エリスならと思っていたのに、そのエリスですら手伝いが無いと言われてしまったからである。しかし、エリスは機転を利かせてルナに言った。
「あっ!でも、もしかしたら厨房ならあるかもしれないわ!」
「ちゅうぼう…………?」
厨房が何のことかわからないルナ。それもそのはず、現世にある飲食店の料理を作る場所が厨房だとは、ルナの歳ではわかるはずもない。
「そう、厨房!この屋敷で、お料理を作っているところよ!」
「おぉ!そこはどこにある!?」
「案内してあげる。ついて来て!」
「ありがとう、おっぱいのおねえちゃんのおねえちゃん!」
「いいえ♪」
こうして、ルナはエリスの案内で天使の宴の屋敷にある厨房へと歩いて行った。その途中に、エリスがなぜお金が必要なのかを聞いたが、ルナは『ないしょだ』の一点張りで教えなかった。そして、二人は厨房へと着きエリスが料理長へと話を通し、皿洗いぐらいならと言って、ルナは無事皿洗いをする事となった。エリスにお礼を言ったルナは早速、やり方を教わり皿洗いを開始する。そんなエプロン姿のルナを見た従業員は…………
「か、可愛い…………」
「この男くさい厨房に天使の姿をした子熊居るぞ!」
「ま、眩しすぎる!」
いつも、男ばかりしかいないこの厨房に、一人の少女が現れたことにより、男達は普段よりもやる気が増したのだ。ルナの担当する洗い場には、この世界にも現代と同じ仕組みの食洗器という物はある。お皿を専用のラックに並べて、蓋を閉めて、洗い終わると音が鳴り、蓋を開けて、反対側からラックを引き、洗い終わったお皿を近くに重ねる。
背の小さいルナには、専用の踏み台が用意され必死に洗い物を始める。ここの厨房はいつでも忙しい。クエストを終えた天使の宴のメンバーがひっきりなしにやってくるからだ。慣れていないルナからしたら、まるで地獄のような光景だ。洗っても洗っても、溜まっていくばかり。洗っては、台から降りて反対側からラックを引き、熱々のお皿を我慢しながら並べる。ちなみに、飲食店の食洗器は洗っている最中のお湯の温度は八十度ぐらいである。洗い終わったお皿は、その温度のお湯で何十秒もの間洗われ、洗い終わった直後は熱々なのだ。
「アチチチチッ…………」
ルナは、手をフーフーしながらお皿を並べていく。そんなルナを料理長は優しい眼差しで見つめていた。
「おらぁ、野郎ども!こんな小さい子が頑張ってんだ、テメー等も気合を入れろ!わかったかぁぁぁぁ!」
「「へい!!!」」
そして、ルナが洗い物を開始して一時間。ルナがバテ始める。それもそのはず、ルナの歳では対して体力もなく、ましてや初めてやる事で、ルナ自身がキャパオーバーになり効率がどんどん悪くなる。そんなルナを料理長は、休憩しろと言うが、ルナは『まだへいきだ!』と強がり、皿洗いをやり続ける。そして、さらに一時間後ルナは気を失った。
「…………ぐへっ」
結局ルナが働いた時間は二時間。ルナの意識が戻ったころにはもう夕方になっていた。休憩室で横になっていたルナは目を覚まし、『しまった!』と言わんばかりに、慌てて厨房へと戻る。しかし、そこはもはや戦場だった。ルナが働いていた時間とは異なり、物凄く忙しくし働いている従業員。ルナは固まり、何も発せずにいた。そこへ、料理長がやってくる。
「ルナ、今日はもうお手伝いしなくていいぞ!」
「ダメだ!まだやる!」
「いやな、ルナが倒れて何かあったら、俺がエリス様に怒られちゃうんだ。わかってくれ…………」
「そ、そうなのか…………。わかった、きょうはもうかえる」
「あぁ、ちょっと待て!それとだなぁルナ、何か食べたい物はないか?頑張ったお礼に、何でも好きなのを作ってやる!」
「おぉ!ほ、ほんとうか!なんでもいいのか?」
「おう、何でもいいぞ!ハンバーグか?オムライスか?」
「エビフライ!」
「よーし!エビフライだな、待ってろすぐに作ってやるからよぉ!」
そう言うと料理長は、ルナの賄いを作り始める。流石は、この厨房の料理長と言うべきか、手慣れた手つきで料理はどんどん進んで行く。そして、待つこと十分ついにルナのまえにエビフライが出された。それを見たルナは、あまりの嬉しさに椅子の上に立ち大声で喜びを上げる。
「おぉ!エビフライだ!ケチャップごはんもある!」
「最強コンボの完成だ!さっ、冷めないうちに食べろ!」
「おう!いただきます!」
ルナはお子様用のフォークでエビフライにかぶりつく。外はサクサク、中身はプチっと音を立ててエビ特有の甘みが口に広がる。そして、スプーンに持ち替えてケチャップご飯を一口食べる。何処か懐かしい味がして、ルナのスプーンは止まらない。
「おいおい、そんな慌てて食べなくても誰も取らないぞ?」
「うまいぞ、【よういちょう】!」
「よういちょう?」
「おまえのことだ!よういちょう!」
「ははははっ!ルナのご飯を用意するから料理長じゃなく用意長か!こりゃ、一本取られたな!」
料理長を他所に黙々と食べ続けるルナ。そして、あっと言う間に全て平らげた。
「…………ゲップ」
ポッコリと膨れたお腹を撫でながらオヤジくさくゲップをしたルナを見た料理長は苦笑いを浮かべた。
「そうだ、ルナ!これが、今日のお前のお駄賃だ!」
「おぉ!」
ルナは、料理長からお金の入った封筒を受け取る。そして、すぐにテーブル上にお金をばらまいた。
「一枚…二枚………三枚…………」
この国のゴールドの価値もわからないルナは、無邪気にお金を数え始める。そしてその額、丁度千ゴールドだった。この国では、日本円とは少し違って、どちらかと言うとドルに近い。現代のドルは一ドルから紙幣だが、こちらの世界では、百ドル=百ゴールドから紙幣となっており、ルナは今百ゴールドの紙幣を十枚持っている事となる。
「本当は、その倍はあげたいんだけどな………エリス様から止められているんだ…………すまん」
「じゅうまい!ルナ、おかねもち!」
「あははははっ!お金に必死で話など聞いちゃいないか。無くさないように、ちゃんと財布に入れておけよ!」
「うん!」
ルナは、大輔達が作ってくれた熊の顔をした財布にお金をしまった。そして、無くさないようにと財布を首からぶら下げた。
「ところで、ルナは熊が好きなのか?頭も熊、着ている洋服も熊、財布も熊だが…………」
「ルナは、くまさんがだいすきだ!わかったか!」
「あ…………あぁ」
「よし、じゃルナはおでかけしてくる!ユイちゃんにはないしょだぞ!いいな!」
「お、おう。わかった」
「よし、じゃいってきます!」
「気をつけてな!」
そう言うと、ルナはすぐに月音の居る広場へと走り出した。




