馬鹿な冒険者の末路
【勇者歴250年 8月 某日】
【ガタン、ガタン、ガタン】
「ぐぅー………がぁー………ぐぅー…………がぁー」
みんなと別れ、ヴィータへと向かう馬車の中でユイに膝枕をしてもらい気持ちよくいびきをかくルナ。その馬車には、他にも数名乗っていた。そして、その中で一人の盲目の女性が居た。後にこの出会いが、今のこのだらしないルナを変える事となる人物であった。女性は、自分の横に杖を置き静かに座っている。正面にはユイとルナが居た。
「ヒ、ヒィィィィィン」
突如、馬の鳴き声と共に馬車が勢いよく止まり御者が叫ぶ。
「た、大変です、冒険者様!賊です、賊が出ました!お助けください!」
「何?賊だぁ?…………チッ、めんどくせーな!んで、数はどれぐらいだ?」
「そ、それが…………」
冒険者の男が馬車の外を見ると、そこには二十人は居るであろう盗賊が立ち塞がっていた。
「おい、おい、冗談だろ?何だよあの数は…………」
「へへへへっ、命が惜しけりゃ金目のものを置いて行きな!」
「ひぃぃぃぃ。冒険者様、お助けを…………」
「おいおい、いくら何でもこの人数は無理に決まってるだろ…………」
「そ、そんなこと言われましても、こちらもお金を払って雇ったんですよ!ちゃんと仕事してくださいよ!」
御者の男は、絶望的な顔をしながら冒険者の男に言った。
「しょ、しょうがねーな…………。ち、ちと待ってろ」
そう言うと冒険者の男は馬車から降りて、盗賊の元へと向かう。そして、
「ど、どうか、命だけはお助け下さい。お、お金ならここに少しあります!それでも足りなければ、馬車の荷台に女達と子供達が居ます。そいつらを売るなり好きなようにしてください。だから、俺の命だけはどうか…………」
すると、馬車の中に居た複数の乗客が、
「ちょ、ちょっと何一人だけ助かろうとしてるのよ!」
「雇われた冒険者なんでしょ?だったら何とかしなさいよ!」
「うわぁぁぁぁん。怖いよママ…………」
「大丈夫よ、大丈夫…………」
「しょうがねーな、じゃ中身を確認して、金になりそうなのが居たらお前だけは助けてやる」
「あ、ありがとうございます…………」
「野郎ども、女、子供には手を出すな!それ以外は、殺して構わん!」
「「「へいっ!」」」
盗賊たちが馬車を取り囲む。そして、リーダーの男が馬車の中を覗き込む。
「「「きゃぁぁぁぁぁ!」」」
「いいねぇ!上玉が居るじゃねーか!」
男は、ユイと盲目の女性をイヤらしい目つきで見る。そして、リーダーの男は馬車の一番後ろに乗っていた家族の娘を人質に取る。
「や、止めてください!娘を返してください!お願いします!」
女の子の父親が助けを乞うが、盗賊のリーダーは話を聞かない。
「テメー等、この娘を殺されたくなかったら、全員馬車から降りろ!」
「お母さん、お父さん、助けて!」
「いやぁぁぁぁ!誰かお願いします、む、娘を助けて下さい!」
泣き崩れる母親、父親もあまりの恐怖で震えてしまっている。
「ルナ、起きなさい!」
【ペチッペチッ】
ユイがルナのほっぺたを叩いて起こそうとするが、ルナは全く起きる気配がない。
「…………アギト…………もう食べられないよ…………むにゃ………むにゃ…………」
「はぁ、全くこの子ときたら…………」
「おい、そこのメイド!何をさっきからゴチャゴチャ言っている!まずは、お前から降りてこい!」
男は、ユイに向かって持っている剣を向け言った。
「しょうがないわね。ルナ、少しここで大人しく寝てなさい」
ユイは、布に包まれた神殺しの斧を手に馬車を降りる。
「おい、その持っている物は何だ?こっちに寄こせ!」
「いいけど、あなたに持てるかしら?」
「貴様!俺様をバカにしてるのか!女のお前が持てて、俺が持てないはずないだろ!いいから、さっさと寄こせ!」
「はいはい、どうぞ…………」
ユイは、右手に持っていた神殺しの斧をリーダーの男に渡す。
【ズドッ――――ン】
リーダーの男は、あまりにも重すぎる神殺しの斧を手にした途端、耐え切れず地面に落としてしまう。
「な、何だこれ…………」
そんな、地面に落ちた神殺しの斧をユイは片手で持ち上げて、
「何だこれって言われても…………」
ユイは、神殺しの斧に巻かれている布を解いていく。
「斧だけど?何か文句ある?」
「き、貴様は一体…………」
「私?私は、天使の宴の剣聖エリスの侍女のユイよ。一応、サブリーダーでもあるけど」
「て、天使の宴だって…………?まさか、あのヴィータを仕切っている天使の宴…………?」
「そうよ!それで?天使の宴に喧嘩売ったって言うんだから、ちゃんと覚悟は出来ているのよね?」
「な、何でこんな化け物がこんな所に…………」
「何でって…………そんなのもちろん、ヴィータに帰るからに決まってるじゃない」
「あわわわわわっ…………」
「今更謝っても遅いからね。子供を人質に取るという最低な行為をしたからにはそれなりの罰を受けてもらうわよ?」
「ひぃぃぃぃぃ!お、お助け…………」
【バキッ】
【ドッーン】
【バタンッ】
ユイの手にかかれば、たかが二十人ごときの相手わけはない。
【パンッパンッ】
「さてと、後はあなただけね…………」
ユイは、服に着いた汚れをはらい、乗客を真っ先に売った冒険者の男の前にやってきた。
「あ、ありがとうございます!いやー、流石っすね!お姉さん、天使の宴のメンバーだったんですね?通りで強いわけだ!あのー、俺を弟子とかにしてくれません?こう見えても俺、結構強いんですよ?どうです?」
ユイが満面の笑みを浮かべ男に言った。
「何で私が、あなたみたいな犬畜生みたいな奴を弟子にしないといけないわけ?」
「またまたー、そんなこと言って!」
「まぁ、別に構わないけど、私に一回でも攻撃を与えたら考えてもいいわよ?」
「本当ですか?よーし、頑張るぞ!」
「言っとくけど、命の保証はしないわよ?」
「へっ?」
「『へっ?』って、やるからには私も本気出すわよ?そんなの当り前じゃない!私の弟子になりたいんでしょ?なら、命がけで来なさいよ!まぁ、多分一秒かからずあなたは死ぬことになるけど」
「………………」
「どうしたの?来ないの?なら、私から行くわよ?覚悟は良いかしら?」
「ま、参りました!降参です!」
「フンッ。情けないわね…………」
「修行して出直します…………」
「修行?何おかしなこと言ってんの?あなたは、この後連行されるのよ?」
「連行?」
「えぇ。だって、冒険者が一般人を盗賊に売るなんて、重罪じゃない。エリス様の元に連れて行くに決まっているじゃない」
こうして、この後は何事もなく無事にヴィータへ着き、冒険者の男はエリスの手によって、冒険者登録を剥奪され、二度と冒険者になる事は出来なかった。そして、結局ルナはヴィータに着くまで起きなかった。
「ぐぅー………がぁー………ぐぅー…………がぁー」




