二人の出会い 其の4
そして、次の日もその次の日もラルフは孤児院の子達とは遊ばず、ずっと雪の側にいた。そして、いよいよラルフが帰る日を迎えた。今日も、いつもの湖に来ていた。この場所は2人にとって大切な場所へと変わっていた。
「帰っちゃうんだね…………。なんか寂しいな」
「たかが、1ヶ月会えないだけだろ?ずっとじゃない!」
「それはそうだけど…………。ここ最近、毎日一緒にいたからね」
「………………」
「じゃ、これをやるよ」
ラルフは自身が付けている小さな牙がついたネックレスを雪に渡す。
「これは…………?」
「俺が初めて狩った魔物の牙で作ったものだ!記念として、いつも身に着けている」
「いいの?すごく大切な物じゃないの?」
「大切な物だから雪にやる!」
「ありがとう!ラルフ、大好き!」
雪は嬉しさのあまり、幸せそうにラルフに抱き着く。そして、雪に好意を寄せているラルフは顔を真っ赤にして照れる。
「ちょ、ちょっと、は、離れろ雪!」
「あら~、もしかして恥ずかしいの?」
「べ、別にちげーし!」
「じゃぁ、いいじゃん!」
雪はもう一度、ラルフにギュッと抱き着く。しかし、この幸せの時間もそう長くは続かなかった。その後も、エドワード達が寄付に来るたび、ラルフが雪と一緒に居ることをよしとしなかった子供達が雪に対しての虐めがエスカレートしていく。
そして、今日もまたエドワード達が雪の居る孤児院への寄付を届けるためやってきた。最近のラルフは、直ぐにでも雪に会いたいがために、エドワードに言って途中で下ろしてもらい、その足ですぐさま雪がいつも居る湖へと駆けて行った。
「雪!居るか!?」
「………………」
いつもなら、笑顔で元気よく『ラルフ、ここだよ!』と返事が返ってくるが、今日は返事が返って来ない。ラルフは、雪が既に食材を採りに行っているのかと思い、辺りを探す。
しかし、1時間……2時間探しても雪の姿は森には無かった。そして、雪の寝泊まりしている倉庫に居るのかと思い、急ぎ孤児院へと向かう。孤児院の敷地内に入ると、直ぐに倉庫へと向かうが…………。
「なんだよこれ…………」
ラルフが顔面蒼白になり額に嫌な汗が流れる。倉庫は取り壊され、瓦礫だけが山積みになっている。
「……………雪?」
ラルフは雪の名前を呼びながら、必死に瓦礫を退けていく。
「雪!…………雪!…………居ないのか?…………雪!」
ラルフが瓦礫をどかしていると、雪が布団代わりに使っていたボロボロの布や壊れた食器が出てくる。焦るラルフ…………。もしこの瓦礫の下に雪が居ると考えただけでも嗚咽が止まらない。そして、1冊の泥だらけのノートを見つける。ラルフはすぐさまそのノートに目を通す。そこには、雪の字でこれまでの出来事が書かれていた。毎日受ける園長や他の子供達からの酷い仕打ち、ラルフとの思い出がノートいっぱいに書かれていた。そして、残すところ数ページの所にラルフの胸をエグる言葉が残されていた。
【もう、何もかも嫌だ…………耐えられない…………ラルフが側に居ないと耐えられない…………】
【…………死にたい】
ラルフはこの日、初めて自分の事が嫌いになった。
雪の受けている仕打ちを知っていた自分。少しでも声を上げ、エドワードに相談していればよかった事。もっと親身になって雪の話を聞けばよかった事、そして何よりそんな雪を守れなかった自分。ラルフの頬を大粒の涙が流れ落ちる。感情がグチャグチャになり、自分が壊れていくのが分かった。
そして、こんな時に1番聞きたくない声を聞いた。
「あら、おかえりなさいラルフ様。今日は早かったのですね」
園長だ。今回の事の元凶…………。ラルフは思った…………『こいつさえ居なければ雪は幸せになれたはず。こいつさえ居なければ、他の子供達と雪は仲良く出来た事。こいつさえ居なければ、あの笑顔がこの先何回も見れた事…………。それがこいつのせいで全て奪われた…………
ラルフは、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言った。
「…………雪はどこだ」
「はい?何ですか…………?」
「雪はどこだと聞いているんだ…………」
「雪?誰ですかそれは…………?そんな子、ここには居ませんよ?それより、ご飯にしますか?」
「……………とぼけるな。殺すぞ?」
場が凍り付く…………。園長は震えだし、冷や汗が止まらず言葉を発することも出来ない。そして、ラルフが大声で叫ぶ。
「お前等がゴミだと呼んでいた女の子の事だよ!」
【ドゴ―ンッ】
ラルフが瓦礫の山へと延拳を放つ。瓦礫は粉々になり、パラパラと破片が辺りに散らばる。ラルフの目は血走り、今にも園長を殺そうと言わんばかりの殺気を放った。
「ひぃぃぃぃぃ」
「…………何処だ?雪は何処に居る?」
ラルフが少しずつ園長へと近寄っていく。
「あ、あの子なら自分から出て行ったよぉ…………」
「出て行った?」
「あぁ、そうさ…………な、何か旅をすると言って自ら出て行ったよ…………」
【ドゴッ】
【ズザザザザザザザッ】
園長は何が起こったかわからなかった。気が付けば自分が地面に倒れており、その後ですぐに顔から物凄い痛みを感じた。
「アヒャァァァァァッ!」
「…………嘘をつくな。雪がそんなこと言うはずがない」
ラルフは倒れている園長に馬乗りになり…………殴る。
【ガンッ】
【ガンッ】
【ガンッ】
「お……おゆ……る…ひ………お…………」
園長の顔は見る見るうちに歪んでいく。それでも、手を緩めないラルフ。
【ガンッ】
【ガンッ】
すると、騒ぎを聞きつけて子供達がやってくる。
「ひぃぃぃぃぃ」
「え、園長先生!」
右手は血だらけで、顔には返り血の付いたラルフが子供達を見る。
「や、止めてよ!園長先生が死んじゃう!」
そして、1人の女の子がラルフに近づいて来て言った。だがラルフはその女の子を睨みつける。
【ギロッ】
「あぁん?」
「きゃっ…………」
女の子は尻もちをつき、ガクガクと震えている。ラルフは園長から離れ、その女の子の前へと立つ。そして、
「てめーが雪を虐めていた主犯か…………」
【ゴンッ】
「えっ?」
次の瞬間、女の子が見ていた光景がラルフから地面へと変わっていた。
「ギャァァ!痛い………痛い………痛いよぉ…………」
女の子は顔を押さえて泣き叫ぶ…………が、
「…………別に痛くねーだろ?雪は、もっと痛かったはずだ」
【ゴンッ】
「ぐぎゃ」
【ゴンッ】
「ぐひゃ」
【ゴンッ】
「………………」
やがて、泣き叫ぶ声すら消え、静まり返る孤児院の庭。赤く染まった己の手を見つめながら、ラルフの瞳からポロポロと涙が溢れ落ちる。
「雪…………どこへ行ったんだよ…………雪…………会いてぇよぉ」
「なっ!何をやっているんだラルフ!?」
駆けつけたエドワードに拘束されながらも、ラルフの叫びは空へ空しく響き渡るのだった。




