二人の出会い 其の3
【ガラララッッッ】
「誰かいるのか?」
ラルフは、ランタンの光を頼りに奥へと進んで行く。そして、倉庫の奥には確実に『誰かがここに住んでいる』というべき物があった。そこには、ボロボロになって敷かれている小さな布と汚れた枕。そして、ボロボロの食器と食べかけの食事。ラルフは確信した。ここに間違いなく、あの真っ白な髪をした少女が寝泊まりしていると。すると、ラルフは外で人の気配がするのを感じ取り、ランタンの火を消す。
【フッ】
そして、何も知らない雪がやってくる。まさか、中にラルフが居るとも知らずに…………。
「あれ?私、ドアを開けっぱなしだったかな?まっ、いいか。明日の準備をしないと…………」
そう言って、雪は外で火打石で火を起こし、倉庫のドアの所に置かれているランタンを取り火をつけ、倉庫の奥へと進んで行く。そして、2人が遂に出会う。
「よう!やっと見つけたぜ!」
「きゃっ!」
雪は驚き、ランタンを落としてしまう。
「悪い、悪い、脅かすつもりは無かったんだが…………」
「い、いえ。こ、こちらこそ驚いてしまってごめんなさい」
雪はランタンを拾いあげ、ラルフを確認する。
「あなたは、あの時お風呂場に居た方ですか?」
「あぁ。そうだ…………。な、何だその…………あ、あの時はすまなかった。突然の事でビックリして固まっちまった」
「いえそんな…………。私の方こそ、確認もしないで脱衣所に入ったりして…………」
「いや、別にいいけどよ…………」
「そ、それよりごめんなさい。こんなはしたない格好で」
ラルフは雪を見た。相変わらず真っ白な髪をしてはいるが、ケアが出来ておらず、ボサボサだ。そして、衣類もボロボロで穴が開いており、靴は履いておらず足は傷だらけ。
「何で、お前はそんなボロボロな格好をしてるんだ?」
「わ、私は下っ端なのでこれでいいんです…………」
「良くないだろ?ちょっと見せてみろ…………」
ラルフが、雪の傷を見ようとした瞬間、雪は反射的に拒否してしまう。
「止めて!」
ラルフの差し出した手を払いガクガクと震える。
「わ、私の事はほっといてください」
「い、いや…………そういうわけには…………」
再びラルフは、雪の様子を見ようと近づくが雪はラルフの行為を無下にしてその場から走って行ってしまう。
「ごめんなさい…………」
【バッ】
「お、おい…………」
ラルフはただ茫然とするしかなかった。雪は、他の子供達と違ってあきらかに不遇な扱いを受けていた。いったい、この孤児院はどうなっているのかと…………。
そして次の日、朝食を終えたラルフは子供達とは遊ばず、1人森へと向かっていた。そして、森中駆け回り雪を探していた。そして、大きな湖を見つけ休憩がてら座って湖を見ていると、大きな岩の影から水浴びをしていた雪が姿を現す。
「あっ!」
「えっ?」
「………………」
またしても、初対面の時と全く同じシチュエーションだった。沈黙が訪れるが今回は…………
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
雪が、驚き足元にある小石を拾い、ラルフに投げる。
【ズド―――――ン】
【パラパラパラ…………】
顔を引きつらせ、後ろを確認するラルフ。石はラルフの後ろにあった大木に当たり、めり込んでいる。
「マジかよ…………」
再びラルフは雪の方を見るのだが、そこには顔を真っ赤にして小石を構える雪が居た。
「待った、待った!今、後ろを向くから許してくれ!」
「ぜ、絶対に振りむいちゃダメですよ!」
「わかった、わかった!約束するから、早く着替えてくれ」
雪は恐る恐る、湖から出て着替え始める。そして、
「も、もういいですよ…………」
雪がそう言うと、ラルフは再び雪の声のする方へと向く。そこには髪はびしょびしょで、ただボロ布を着ただけの雪が立っていた。
「ごめん。まさか居るとは思わなかった…………」
「これで、2度目ですよ!」
「2度目?何がだ?」
「もう、私にそれを言わせるのですか?」
「いや、何の事だかさっぱり…………」
「わ、私の裸を見た事ですよ!」
「あっ…………。すまん」
「まぁ、いいですけどね!別に!」
「いいのかよ…………」
「どうせ、私なんて怪力女で結婚なんて出来ないんですから!見られても何にも思いません!」
「あ、あぁ…………」
「んで、あなたはなぜ私に付きまとうんですか?」
「なぜって言われても…………。気になるから?」
「気になる?あぁ、私が他の子と違うからですか?髪は真っ白でおかしいんでしょ?みんな言うんですよね!『あんたの髪は白くて変だ』って!」
「変?何処が?きれいな真っ白でいいじゃんか!?」
「なっ!」
「俺はその真っ白な髪好きだぞ?」
「ちょ、ちょっと!あまりからかうと怒りますよ!」
雪は足元の小石を手に取った。
「待て待て!本当の事だ!からかうなんてとんでもない!」
「本当ですか?」
「本当だ!神様に誓う!」
「なら許します…………」
「ふぅ。危うく死ぬところだったぜ…………」
【キリッ】
雪はラルフを睨みつけた。
「何か言いましたか?」
「いえ、何も言ってません」
「ふーん…………」
「ってかよ、お前名前何て言うんだ?」
「名前ですか…………。ありません」
「はぁ?名前がない?」
「はい。私は、物心つく前からあの孤児院に居て、名前という物がありません」
「じゃ、あの子供達や園長からは何て呼ばれてんだ?」
「うーん、ゴミとか汚物ですかね…………?」
「へっ?」
「だから、みんなからはゴミや汚物と呼ばれています」
「なんだそりゃ…………。お前に人権っつうものはねーのかよ?」
「人権?何ですかそれ?」
「人としての尊厳!人を人とみなすことだ!」
「うーん。ないんじゃないですかねー!」
「お前はいいのかよ、そんなんで!」
「別に、名前なんてなくても困りません!」
雪は胸を張り、キッパリと言った……………。そして、
「雪だ…………。」
「はっ?」
「今日から、お前は雪と名乗れ!このラルフ様がつけてやったんだ!感謝しろよ!」
「雪…………」
「そう、雪のように真っ白な素敵な髪をしているから雪!俺はな、雪が好きなんだ!真っ白で、綺麗じゃないか?」
ラルフはそう言って雪の方を見るのだが、そこにはボロボロと涙を流しながら嬉しそうに笑っている雪が居た。
【ドキッ】
一瞬だった。ラルフの心が雪に奪われたのは。この日初めてラルフが人を『好き』という実感を持ったのは。
「お、おい、な、泣くなよ!嫌だったか?」
「ううん。違うの、嬉しいの…………」
「そ、そうか…………。なら良かったが…………」
「ラルフ君!ありがとう、私に名前をつけてくれて!」
「お、おうよ…………」
「さてと、ご飯の材料を取らなくちゃ…………」
「ご飯の材料?今日は雪の当番なのか?」
「当番?違うよ?いつも、私が集めているのよ?ウサギ狩ったり、果実を採ったり」
「はぁ?雪1人でか?」
「うん、そうだよ…………?それが何か?」
「いや、他の子供達や園長は?」
「やらないよ?掃除も、洗濯も、食材集めも、全て私の仕事だもん」
【エッヘン】
再び雪が胸を張る。少しばかりの凹凸を自慢するかのような胸の張り方だ。そして、2人は食材を集めに向かうため歩き出すのだが…………
「いたっ!」
雪が、落ちている石で足を切ってしまう。足からは血が流れだす。
「おい、平気か?ちょっと見せろ」
ラルフが雪の足の裏を確認すると、それは酷い物だった。足の皮はズリ剥け、真っ赤になっており、所々肉が見えている。直ぐに、雪の履いていた靴を確認するが、それはあまりにも靴というにはほど遠い物だった。もはや靴底はほとんどなく、素足で歩いているのと変わらなかった。
「酷い…………」
「別に大丈夫だよ!いつもの事だから」
ラルフはすぐさま着ている服を破り、雪の足に巻く。
「ちょ、ちょっとラルフ君?」
「気にするな…………」
「でも…………」
「よし、これで平気だ…………」
「ありがとう…………」
「ほら、乗れ!」
ラルフが雪の前でかがみおんぶをする体制をとる。
「い、いや何もそこまでしなくても…………。私、歩けるし」
「ダメだ!その足じゃまともに歩けないだろ!」
「で、でも…………私、臭いしラルフ君が汚れちゃうよ!」
「気にしない!」
「私は気にするの!」
全力で拒否をする雪。そして、一歩も引かないラルフ。最終的には雪が折れてラルフが雪をおんぶした。
「よし、じゃ食材を見つけに行くか!」
「うん!」
そして、ラルフにおぶられながら雪が器用に弓で木の上になっている果実を落とす。
「随分と器用だな…………」
「まぁね!いつもやっているからね!弓は得意なんだ!」
「すげーな!俺には無理だ…………」
「練習すればラルフ君も出来るようになるよ!」
「そうかな…………」
「そうだよ!」
「俺にはこっちのがあってると思うんだが?」
「こっち?」
「あぁ。少し見せてやるよ」
ラルフは雪を下ろし、果実のなっている大木の下へとやってきた。そして…………
【双虎拳・一の牙・延拳】
【ボトッボトッ…………ボトッボトッボトッボトッボトッ】
数えきれないほどの果実が落ちてくる。
「すごーい!何それ!どうやったの?」
「これか?これはだな…………」
【ボトッ】
【ゴンッ】
ラルフが説明しようとしたところで、ラルフの頭に果実が落ちてきた。
「いててててっ」
「あはははっ!ラルフ君面白い!」
「わ、笑うな雪!」
「いやー!笑うでしょこれは!あはははっ!」
「「あははははっ」」
これには、当の本人も笑うしかなった。




