魔力と闘気
「ここらでいいか…………。じゃ、修行を始めるぞ」
結局、吹雪の屋敷から逃げてきたラルフ達は仕方なく修行を始めるためデイズの中心街から少し離れた場所へとやってきた。
「…………よろしくお願いいたします」
「まずは、俺が今からやる事を見てろ」
ラルフは大きな1本の木の前に立った。そして、深呼吸をして腰を少し落として正拳突きの構えをし、そのまま木を殴った。
【ドンッ】
「…………………………」
「いてぇぇぇぇぇぇ!」
ラルフの右腕は真っ赤になっている。そんなラルフは、涙目になり右腕を自らフーフーし痛みを和らげようとしていた…………。もちろん、木には傷一つ付いていない。
「…………何をやっているんですか、師匠」
「フーフー。…………な、何って木を殴っただけだが…………」
「…………見ればわかります。てっきり、木が粉々になるとか、そう言ったことが起こるのではないかと思ったのですが…………」
「そんなの、出来るわけないだろ!」
「…………では、今のはどんな意味が?」
「特にない…………はずもない」
「…………どっちなんですか?」
「まぁ、聞け!人間ってのは、お前達転生者の世界でも同じだと思うが、ただ単に殴っただけでは木など破壊できるはずもない」
「…………はい。手が腫れるか、最悪の場合折れるかですね」
「そうだ。それはこの世界でも同じことがいえる。だが、この世界には人智を超えた力というものが存在する。」
「………人智を超えた力?」
「あぁ。それが魔力と闘気だ」
「…………魔力は知っていますが、闘気は初めて聞きました」
「そりゃそうだろ。闘気を練れる人間は、この世界では限られている」
「…………限られているとは?」
「闘気を練れるのは、魔力なしの人間だけだ。一部例外な人間もいるがな…………」
「…………魔力なし?」
「あぁ、魔力ってのは生まれつき人の体に流れているものだ。まぁ、なんだ…………血と同じようなものだ。目に見えないだけで」
「……………それで?」
「どうやら、お前には魔力が流れていない。相方のチビ熊には少しは流れているみたいだがな」
「…………私は魔力なしって事ですか?」
「あぁ。だが、闘気の流れは感じる。俺と同じでな!」
「……………師匠も魔力なし?」
「あぁ、俺も魔力なしだ…………」
「…………そうですか。私には魔力が流れていないのですか」
「そう残念がるなステラ。その代わり、闘気が流れていると言ったろ?闘気が流れている人間は、超近接戦闘タイプだ。それこそ、魔力持ちよりもはるかに貴重なんだぞ?」
「…………そうなんですか?」
「あぁ。俺も今まで数えきれない人間と会ってきたが、闘気が流れている人間は、俺とステラを入れて5人だ」
「…………5人。随分と少ないんですね」
「まぁ、バイス王国や他の国にも存在はすると思うがな。そして、今度は闘気を練った状態で木を殴ってみる。少し離れてろ!」
「…………はい」
ラルフは目を瞑り、意識を集中させる。すると、ステラは今まで味わった事のない感覚に襲われる。目の前に居るラルフが何倍もの大きさになり、自分のすべてを飲み込まれそうになる間隔。エリスやユイの殺気とは違い恐ろしい物ではない。そして、ラルフが再び正拳突きの構えから木を殴る。
【ドバンッ】
【ズズズズッ…………ドンッ】
ラルフの正拳突きが当たった木は一瞬にして粉々になり折れる。
「………………」
「まぁ、こんなもんだ」
「…………これが闘気の力。すごい…………」
ステラは折れた木に近づき、折れた個所を確認する。それは、大輔が作った闘王の手甲・阿修羅で魔石を使った攻撃とよく似ていた。
「お前にはこれを習得してもらう…………」
「それと、もう一つ…………」
ラルフは再び目を瞑り、意識を高める。そして、何も無い場所へと正拳突きを繰り出した。
【双虎拳・一の牙・延拳】
【シュッ】
「………………」
【ドバババンッッッッ】
「…………くっ」
ステラは、両手で顔を隠し、僅かに出来た隙間から見る。ラルフが正拳突きをしてから約1秒後、遅れて辺り一帯物凄い風圧に襲われる。
「まぁ、こんなもんんだ」
「…………す、凄い」
「こんなの、初歩の初歩だぜ?お前さんには、もっと色々覚えてもらうぞ?いいな?」
「…………わ、わかりました。よろしくお願いいたします」
「よし!じゃ、まずはだな…………………伏せろステラ!」
「……………!?」
ステラは、言われた通りすぐさまその場で身を低くした。
【キランッ】
【シュッ】
【ド――――――ッン】
【パラッ、パラッ、パラッ】
「…………クッ」
何かがステラの上を通り過ぎ、その先にあった大木が吹き飛ぶ。
「チッ!どこから狙ってきやがった…………………」
「……………師匠、今のは?」
「次が来るぞ!そのまま体勢を低くしていろ!」
「…………はい」
すると、ラルフの言う通り2撃目が今度はラルフ目掛けて飛んでくる。そして、それをラルフは手で掴む。
【シュッ】
【ガシッ】
ラルフは、手に握られているは矢文だった。それの中身を確認するラルフの顔が、見る見るうちに絶望の顔へと変わっていく。
「……………師匠、それは?」
「……………雪からだ」
「…………雪さんから?何て書いてあるんですか?
ラルフは、雪からの矢文を読んでステラに聞かせた。
【明日の12時に私の寝室で待ってます。来なければ、次は全力で確実に貴方達を殺します】
「…………さっきのが全力じゃないんですか?」
「あぁ。雪が全力を出したらあんなもんじゃ済まない。俺ですら反応出来るかどうか…………終わった」
「……………それほどに強いんですね。雪さんは」
「エリスやユイと同等だな…………。遠距離からの攻撃ならあいつらですら、躱せるかどうか…………」
「………………」
「仕方ない。行きたくはないが、行くしかない…………」
「……………そ、そうですね」




