シエナの敗北。そして、1人立ち向かう勇者
シエナの体調が戻ったところで、再びバイス王国首都タールへと侵攻しようとしていたジャッジメント一行。
「さぁマホ、行くわよ。ポチを連れて来て」
「ハッ!直ちに」
結局、アギトはあれから民家の中で軟禁されていた。日数にして3日。その3日間で、シエナ軍は全軍をテレシアへと招集していた。その数、千と百人。そして、ここからシエナ達ジャッジメントにとって地獄の日々が始まろうとしていた。
「シエナ…………。本当に行くんだな」
「くどいわよ、ポチ!私が行くと決めたら行くのよ!誰の命なんて惜しくないのよ」
シエナはニヤニヤしながらアギトを見てそう言った。
「…………わかった。なら、俺はもう何も言わない」
そして、シエナは部隊の隊長達に今回の作戦を伝える。今回は、前回とは違い迂回しながら首都タールを東西から挟み撃ちすると言うのだ。東から攻めるシエナの部隊には、アギト、マホと500人のジャッジメントのメンバー。
そして、西から攻める部隊にはカイルを隊長としたジャッジメントのメンバー600人。
「では、各部隊出発するわよ」
シエナの進む東側は見通しはいいが湿地帯であり、足場が非常に悪い。そして、西側のカイルの部隊は見通しはそこまで良くないが、魔法反射鏡が入りにくい森林帯である。そして、お互いの部隊は10日後の勇者歴250年10月1日に首都タールを攻める予定だ。
【勇者歴250年9月25日】
シエナ達は、首都タールまであと3日という所まで来ていた。ここまでは、大した損害もなく順調に進んでいた……はずだった。
「おかしいわね…………」
シエナ達は野営をし、今後のカイル達との合流に向けて部隊長たちと作戦会議をしていた。
「何がですか?」
マホは、順調である進軍に『おかしい』と疑問を抱き顔を曇らせるシエナに言った。そして、マホの問いにアギトが答えた。
「…………順調すぎると?」
「………えぇ。私の予想では、半数までとはいかないけど、それなりの被害が出ていてもおかしくないのよ。それが、ほぼ全員生き残ってる。確実に、奴らには私達が進軍していると分かっているはず」
「各村や街から我が部隊が撤退したから、私達が諦めて引き返した……と思っているのではないですか…………?」
「………それは無いわね。私達が打ち損じた奴等が必ず報告しているはず。だけど、一向に私達に刺客が送られてこない」
「あえて俺達を首都タールまでおびき寄せていると?」
「たぶんね…………。カイル達との連絡は?」
「最後に連絡が来たのは、2日前です」
すると、ここでカイル達との伝令役である男がシエナ達のテントに来る。
「シエナ様、お伝えします。カイル様の部隊が、首都タールまで数キロの地点まで来たとの報告です。半日もあれば、いつでも攻められる位置だそうです」
「そう…………。わかったわ、ありがとう。下がっていいわよ」
「ハッ!」
「ふぅ。私の考え過ぎかしら」
「どうやら、そのようですね」
「では、予定通り、6日後10月1日の12時に首都タールに同時攻撃を行うわよ」
「「「ハッ!」」」
そして、運命の10月1日の12時を迎えた。
「剣士部隊は前へ!魔法反射鏡が現れ次第、最優先で撃破。魔法部隊は後方で待機!」
(いよいよか…………。本当にこの作戦はうまくいくのか?)
「突撃ィィィィィ」
シエナの掛け声と共にシエナ軍は、前進して剣士部隊が東門の解放を試みる。門には数十名のバイス王国兵士達が居る。そいつらを、シエナ達の剣士部隊が圧倒して門が開かれる。
西門の方でも、既に戦闘が行われていてあちらこちらで煙が上がっている。
「奇襲がうまくいき、カイル達もうまくやっているようね。この流れにのって、私達も進軍するわよ!」
(おかしい…………。こうもすんなり首都に入れるものか?それに、バイス王国の騎士団であろうあの男の姿もない…………。まさか……………………)
「シエナ!これは罠だ!全軍引きかえさせろ!閉じ込められるぞ!」
アギトが、慌てて東門を見る。そこには、門の外から続々とバイス王国の兵士たちがアギト達の退路を塞ぐように占拠し始める。そして、その後ろから例の魔法反射鏡が姿を現す。
「馬鹿な奴らめ……………」
以前、戦場に居たバイス王国の騎士団であろう男が姿を現す。そして、その隣には同じ鎧に身を包む男が1人。
「先輩、ほんとこいつらバカっすね!罠だと気が付かなかったんですかね?西門の方も、陽動だとは気づいていませんね」
「あぁ。とんだおバカさん達だ…………フハハハハハッ」
「陽動ですって?では、カイル達は?」
「カイル?あー、あのお前達の騎士か!ペラペラと全部教えてくれたよ。お前達の作戦の事もな。笑えたぞ?泣きながら全部話すから、自分だけは助けてくれと言っていた。まぁ、全てを話してくれたから命だけは助けてやった。そしたらあいつなんて言ったと思う?『俺は、バイス王国に寝返る』と言ったぞ?なぁ、そうだろカイルさんよ!他のやつらも同じさ!みんな、こちら側に就いたぞ!」
すると、男の後ろからカイルが姿を現す。
「フハハハハハッ、そういう事だ!シエナ、悪いな。俺はあの時から強い方に就くと決めたんだ。もう、お前は用済みだ」
「ふふふふっ!」
シエナはカイルの行動がおかしくて仕方なかった。たとえ、バイス王国側に就いてもカイルはシエナの奴隷。シエナの行動一つでカイルの動きは封じれる…………はずだった。
【パチンッ】
シエナがカイルに向かって指を鳴らす。こうすることでカイルにはアギトがされてきた苦痛を味わうこととなる。しかし、電流はおろか鎖すら現れない。
「なっ!なぜ、鎖があらわれない?」
「ククククッ。無様だな、シエナさんよ。もう、俺にそれは通じないぜ?」
その答えをバイス王国の騎士団の男が問う。
「お前は見捨てられたんだよ、魔王軍になっ!奴らも、お前にはがっかりだったみたいだぞ?あまりにも貧弱でよう」
「魔王軍?何を言っているの?」
「そうか、お前には自覚が無いのか…………。クククッ、ますますおかしいぞ!まさか、お前自身が魔王軍四天王のアンドリュー様に操られていることを気づいていないとはな!」
「わ、私が魔王軍四天王に操られている?そんなばかなことがあってたまるか!」
「お前は、その事に気づいてんだろ?アギトさんよ!」
「………………」
「ど、どういうことよポチ!私が操られているって………。そんなのありえないわ!」
「シエナ…………。カイルの言っていることは本当だ。お前は魔王軍四天王のアンドリューに操られている。それは俺の固有スキルで確認済みだ。そして、俺の意志だけはお前には操られていない。勇者の力かもしれないがな」
「フハハハハハッ!お前、勇者だったのか…………クククッ。こいつは傑作だ!まさか、あの勇者がそいつの奴隷だったとわな!」
「そ、そんな…………。じゃ、私は今まで何のために…………」
シエナは、その場に崩れ落ちる。両手で顔を押さえ、動揺を隠そうとして。
(マホ!)
(何よ、クソ勇者)
(俺が時間を稼ぐ。そして、出来るだけのジャッジメントのメンバーとシエナを連れてエリュシオンに戻れ!そして、ティファ達と合流しろ!)
(あの小娘たちと?なぜよ?)
(今、ティファ達にはシエナがかかっているアンドリューの奴隷化を無効化させることの出来る人物を探してもらっている。そいつを見つけ次第、シエナ奴隷化を解除しろと伝えてある。全ては、お前達の仲間のマーシャが知っている。戻ったらすべてを聞け!いいなっ!)
(ダメだ!お前も連れて行く!ここで勇者のお前を失うわけにはいかない!)
(あいつらがそう簡単に逃がすと思うか?なら、俺があいつの注意を引き付ける。大丈夫だ、俺は簡単には死なない)
(…………わかった)
「シエナ、聞いているか?今から、俺が時間を稼ぐ。そして、その間に出来るだけジャッジメントのメンバーを集めてマホと共にエリュシオンに戻れ!」
「えっ?」
「賢者のお前をこんな所で失うわけにはいかない!いずれ戦うであろう、魔王軍との戦闘でお前の力が必要だ!」
「い、嫌よ!ポチも、一緒に逃げるの!あなただけ残るなんて私は絶対に許さないわ!」
「みんな聞こえるか!今すぐ、マホの周りに集まれ!この戦いは、俺達の負けだ!だったら、1人でも多くここから離脱する!早くしろ!」
アギトの一声で、近くで戦っているジャッジメントのメンバーは一斉にマホの周りに集まる。
「アギトさん、自分もここに残ります!」
「ダメだ、アンディー!お前もシエナ達とエリュシオンに戻れ!」
「嫌です!」
「ちっ!誰か、アンディーを連れて行け!早くしろ!」
「そうはさせるか!」
ここでバイス王国の騎士団の男がシエナを逃すまいと突っ込んでくる。
「行け――――――――!マホ!」
「…………くそっ!」
「ダメよ、マホ!ポチも…………アギトも連れて行きなさい!」
「………すみません、シエナ様」
【スキル 次元跳躍】
「アギトォォォォォォ!」
【シュッ】




