未知の国アルテミス大陸。そして、散りゆく――二人
アリスが誰をアルテミス大陸に向かわせ、拠点のある勇者村に残すか悩んでいると、ティファが静かに手を挙げた。
「私がアルテミス大陸に行くわ…………」
アリスを含め、他のメンバーもティファを見る。ティファは覚悟を決めた顔をしていた。
「確かに、あなたなら適任かもしれない…………。でも、私ですら行った事のないアルテミス大陸…………。どんな危険が待ち受けているかわからないわよ?それでもいいの?」
「構わない。それに、これは私にしか出来ない事だと思う」
「まぁ、あなたなら平気そうね。戦えるし、悔しいけど誰よりもアギトの事を考えているしね…………」
「アリスさん…………」
「止めてよね!あんたにさん付けされる筋合いはないわ!それに、私だってアギトの事を諦めたわけじゃないんだから!そこんとこ、勘違いしないでよね!」
「フンッ!上等じゃない!私だって負けるつもりなんて、これっぽっちもないんだから!」
「おい!ルナもいくぞ!」
ここで、先程ステラに怒られて黙っていたルナが言う。
「ルナだってアギトがだいすきだ!だっこされるけんりはわたさないぞ!わかったか!」
「…………ルナの大好きという感情は少し違う気がする」
「なに!?おまえたち、アギトにだっこしてもらいたいんじゃないのか?」
「抱っこ?……………………いや、違うけど…………」
「なっ!」
「おい、チビ助!お前は留守番だぞ?前に、ユイさんに稽古つけてもらうことになっただろ!」
「あっ…………」
「……………ルナが行っても邪魔なだけ。素直にユイさんに強くしてもらいなさい」
「う…………うん」
「あら?随分と素直なのね?今夜は雪かしら?」
「うるさいぞ、ざんねんおっぱいいちごう!おまえだって、ルナとおなじくらいのつよさじゃないか!」
「いや、チビ助…………。それは無理があると思う。いくらアリスさんがFランク冒険者でも、お前より100倍は強いぞ?」
「キィィィィッ!おまえもうるさいぞ、クマピンク!すこしだまってろ!」
「はいはい、わかりましたよ!んで、アルテミス大陸に向かうのティファさんだけか?足手まといの俺が言うのもなんだが、流石に厳しくないか?」
ガイは、自分の実力ではティファの足を引っ張ってしまう事をわかっていた。Re:Braveのメンバーにとっては未知の大陸。そんな所に、自分みたい子供が行った所でティファの力になれない事は重々承知だ。すると…………
「…………俺も行こう」
ここで、アルテミス大陸組にグレイヴが名乗りをあげる。
「……………これでも、元騎士団副長だ。ある程度の戦闘は経験している。足手まといにはならない。約束しよう」
「ありがとうございます。すごく助かります」
「なら、私も行くわ!各地を旅してきて、知識だけは豊富だし、私の精霊である程度の危険は感知できるから」
グレイヴに続き、レーナもアルテミス大陸組に参加すると言い出した。
「わ、私は…………」
ここで、もう一人名乗りをあげようとしていたハツネが声を詰まらせる。自分も行きたいが、完全にガイと同じで実力不足だとハツネはわかっていた。
「わ、私も行きたい…………。そして、アギトさんの助けに手を貸したい。…………けど、とても怖い」
ハツネは下を向き、身体をガタガタと震わせる。
「ありがとう、ハツネさん。あなたのアギトを助けたいその気持ちだけで、十分よ。怖いことは恥じゃない。自分の心に嘘をついて、突っ走って死ぬのがよっぽど恥よ」
「す、すみません。力になれなくて…………」
ハツネの『自分は怖くて行けない』と言う本音を聞いたユイが、ハツネに話す。
「ハツネさん、何もアルテミス大陸に行くことがアギト様を助けるって事ではありませんよ?」
「えっ!?」
「ハツネさんは、アギト様が無事に解放されて戻ってくるこの場所を守る事でアギト様の助けにもなるんですよ?折角、奴隷から解放されても戻る所が無かったら、それはそれでとてもショックだと思います。なので、ここでガイさんとメイさんとハツネさんでRe:Braveの拠点と、アリスさん、大輔さん一家、他の非戦闘員をあなたの巫女の力で守ってください」
「そ、そうですよね、わかりました。ティファさん、こちらは私達にお任せください!そして、どうか必ず妖狐の善狐と言う方を連れて来てください。よろしくお願いいたします」
「えぇ、任せて!必ず連れてくるわ!必ず…………」
ようやく話がまとまり、アリスが最終確認を始める。
「これで決まりね!アルテミス大陸組は、ティファ、グレイヴ、レーナの三人。そして、ここに残るのはガイ、メイ、ハツネさん、それと、大輔さん一家。ステラとルナはそれぞれ修行に励む。それで、マーシャさんはどうするの?」
「私は、ジャッジメントの拠点に戻り情報収集をいたしますぅ~」
「そう…………。わかったわ、何かあったら連絡してちょうだい。すぐに対処するから」
「あっ!それと、これをアリスさんとティファさんに渡しておきますぅ~」
マーシャは上着のポケットから2つのブレスレットを出した。それをアリスとティファにそれぞれ渡した。
「これは?」
「これをつけていれば、いつでも私と会話が出来ますぅ~。実際に声に出すのではなく、私の固有スキルで頭の中に話かけますぅ~。そして、私に話かける時も私を頭の中で想像してもらって心の中で話しかけてもらえば話せますぅ~。試しにやってみましょうかぁ~。まずはアリスさん、私を思い浮かべて頭の中で話しかけてください~」
「え、えぇ…………。こ、こうかしら…………」
アリスは目を瞑り、頭の中でマーシャを想像して心の中で話しかける。
≪こ、これでいいのかしら?聞こえてる≫
≪バッチリですぅ~!ちゃんと聞こえてますよぉ~≫
「ど、どうなんだ?会話で来てるのか?」
ガイが黙って見つめ合うアリスとマーシャを見て言う。
「大丈夫ですぅ~。ちゃんと話せましたぁ~」
「す、すげーな…………」
「では、続いてティファさんやってみましょうかぁ~」
「は、はい。お願いします」
「私を思い浮かべて、心の中で話しかけてください~」
「え、えっと…………」
ティファはあたふたしながら、頭の中でマーシャを思い浮かべて心の中で話しかける。
≪こ、こんにちわ≫
≪はい~、こんにちわですぅ~≫
「で、出来た…………」
「お二人ともお上手ですぅ~」
「慣れるまで難しいわね…………」
「そうね…………」
「この大陸でなら、話すことは可能なので、ティファさんは妖狐の善狐を連れてきたら連絡ください~。それを今度は、私がアリスさんにお伝えしますからぁ~」
「わかりました」
「便利な能力ね!あなたが味方で良かったわ!」
「ありがとうございますぅ~」
すると、そんなやり取りを黙って見ていたルナが自分もやりたいと言い出した。
「おい、おまえ!ルナにもやらせろ!」
「大丈夫ですよぉ~。では、アリスさんこの子にブレスレットを渡してあげてください~。付けたら、私に心の中で話しかけてください~」
「わかった!」
「何か嫌な予感するけど…………」
アリスはブレスレットを外し、ルナに渡す。そして、受け取ったルナはブレスレットをつけ、話すのだが…………。
「いくぞ!」
「いつでもどうぞ~」
ルナが心の中で話そうとするが、うまく出来ずつい言葉を発してしまう。ドヤ顔までして……。
「ざんねんおっぱいいちごう」
「……………………」
「………あちゃ―」
誰かがそんな事を言った。そう、誰かが…………。
「あのぉ…………。『ざんねんおっぱいいちごう~』?何ですかそれ~」
「……………………」
誰も答えない…………。むしろ答えられなかった。教えてしまえば、その人物がアリスに敵と判断されるからである。
「コノォ、クソ熊ァァァァァァァ!」
顔を真っ赤にして激昂するアリス。他の者は静かにそれを見ているしかない。
状況を理解できていないルナはアリスに驚いた表情で尋ねた
「げっ!なにをそんなにおこっている?」
「全部聞こえてんのよ!あんたが言おうとしたことが!」
「なんだと!」
ルナは、自分が言葉を発してしまった事に気づいていなかった。自分では出来ていたつもりだと思い込んでいる。
「あのぉ~、ざんねんおっぱいいちごうって何ですか?」
「マーシャさんは知らなくていいと思います。知っても意味は無いので…………」
ガイが呆れてマーシャの疑問を断ち切る。
「あらぁ~、そうですか…………。それはざんねんですぅ~」
アリスが手にしていた杖でルナをボコボコにしているのを横目に、ティファが話を進めていく
「じゃ、出発は二日後にしましょう。一刻も早く出発しないと…………」
「………そうだな。急いだほうがよさそうだ」
そして、ルナをボコボコにし終えたアリスが、
「タイムリミットは、二ヶ月といった所かしら。おそらくそれ以上時間は掛けられない」
「二か月か…………。上等じゃねーか!二か月でお前を最強にしてやるよ、ステラ!」
「………………お願いします。ラルフさん」
「じゃ、私もそこで横たわっているルナちゃんを強くしておくわ」
「よ………よろしくたのむ…………ぐへっ」
そして、この時はまだ誰も知らなかった。二か月後に起こる最悪の結末を…………。
時は過ぎ二か月後…………。
【勇者歴250年10月】
「メ………イ…………。ア…………アリスさんを連れて…………に…げろ…………」
【ドサッ】
ガイは、心臓を剣で貫かれその場に倒れる
「いやぁぁぁぁぁ!お兄ちゃん!」
メイは、瀕死のガイの元へと走り出す。しかし…………
「戦いの最中に敵に背中を見せるとは、お前は素人か?」
【ザシュ】
「ぐはっ」
【ドサッ】
「お…………おに…………い…………ちゃん…………ごめんね……」
メイもまた背後から心臓に向けて剣が刺さる。そして、二人は静かに息を引き取った。
「ガイィィィィィ、メイィィィィ!」
アリスの叫びだけが勇者村に木霊する。




