マーシャ
新クランRe:Braveが誕生して一日が経った。申請にはリーダーであるティファ本人がライザに赴き直接行ってきた。ジャッジメントのメンバーと鉢合わせを避けるため、フード付きのコートを羽織り、バレないように立ち回る。そして、無事申請を済ませたティファは拠点へと戻った。
「ぷすー、ぷすー…………」
「ただいま!みんな居る?」
「居るよ!」
「みんな揃っているわよ!一人は寝てるけど…………」
「ぷすー、ぷすー、ぷすー…………」
ルナの小さな鼻から空気が抜けるような音がする
「あらら、ルナちゃんは寝ちゃっているのね…………」
「…………さっきまで、ガイさんと戦隊ごっこしてた」
「戦隊ごっこ?」
「………私達の世界では、子供向けの番組があってそれの真似を」
「番組?ちょっと何言ってるかわからないわ…………」
「あっ!そうでした、この世界にはテレビってものが無いのでしたね…………」
ここで、レーナが異世界人のティファ達に自分達の世界がどういったものなのかを説明した
「なるほど。それでガイ君がボロボロなのには納得したわ……」
「いつもの事だけどよう、チビ助ったら酷いんだぜ!仲間のはずのピンク(俺)を盾にして自分は無傷の上に、ざんねんおっぱい1号のアリスさんを倒せないからって言って、悔しさのあまり、俺を突撃させてアリスさんと戦わせたんだぜ!おかげで、こっちは魔法連打を食らったわ!」
「ちょっと、ざんねんおっぱいは余計じゃない?またファイアーボール食らいたいの?」
「いえ、結構です。もうあんな目に遭うのは…………。あれは人のすることじゃねー…………」
【2時間前】
いつも通り、ルナの面倒を見ているガイ。というか、無理矢理ルナの遊びに付き合わさせられているガイ。
「でたな、ざんねんおっぱいいちごう!きょうこそおまえをたおしてやる!かくほしろ!」
「チビ助、『覚悟しろ』なっ!」
「そ、そうだ!かくごしろ!」
「チッ!またあんた達なの?毎度毎度懲りない連中ね………」
「うるさい!だまれ!」
「毎度毎度、何て口の利き方してるのよあんたは!それが年上に対する口の利き方なの?泣かされたいの?悪いけど、あんた達の相手しているほど暇じゃないの私は!そう言う事だから、さようなら」
「ふふふっ。ついにこのクマレッドのおそろしさにきがついてにげたな!ザコめ!」
「あぁん?」
「おい、止めろってチビ助!それ以上アリスさんを挑発するな…………本気で殺されるぞ俺達!」
「だいじょうぶ!やられるものか!こんなこしぬけ、さっさとこらしめるぞ!わかったか!」
「お前一人でやれよ…………。俺はもう、包帯グルグル巻きは嫌なんだよ!」
「話は済んだかしら?じゃ、いくわよ…………」
「ちょっ…………」
「ファイアーボール!」
うんもいわさずアリスのファイアーボールがルナたち目掛けて飛んでくる。しかし、ここでルナはガイの後ろに回り込み、ガイが逃げれないように服を掴みガイを盾にする。
【ササッ】
「あっ!こら、何をする!服を掴むな、避けられねーじゃねーか!」
「よけなくていい!おまえは、このままルナのたてになれ!」
「テメー殺すぞ!いいから放せ!」
「いやだ!」
「何が『いやだ!』だ!いいからさっさと早く放せ!じゃねーと……………う、うわぁぁぁぁ」
【ドーッン】
ファイアーボールはガイに直撃して、ガイが丸焦げになる
「ざんねんだったな!そんなへっぽこまほう、このルナにはあたらないぞ!」
「言ったわね…………!」
アリスは、立て続けにファイアーボールを連打し、その都度ルナはガイの後ろに隠れる。
「くそ、これじゃちかづけない…………。おい、ピンクなにしてる?たったままねるな!しぬぞ!」
「も、もう無理…………」
「チッ!つかえないやつだ!ならこうやって…………」
突如ルナはガイ後方へ移動して距離を取り、再びガイに向けて走り出し、ガイの背中を思いっきり体当たりした。
【ドンッ!】
「とつげきしろ、クマピンク!」
すると、背中を押された反動でガイはフラフラしながらアリスの方へと近づいていく。
「もう………嫌だ…………。誰か助けて…………」
「わざわざ突っ込んで来るとは馬鹿ね!そんなに的になりたいの?なら、お望み通り当ててあげるわよ!ファイアーボール!」
【ドーッン】
この一撃が決め手となり、ガイはその場で倒れる。そんなガイを見たルナは
「キィィィィッ!おぼえていろよ、ざんねんおっぱいいちごう!つぎはこうはいかないぞ!わかったか!」
【ピュ―――――ッ】
といってルナはその場から逃げ出した。一人置いて行かれたガイは、その後ハツネによって一命を取り留めた。
「あはははっ!良かったね、生きてて」
「笑い事じゃないですよ、ティファさん!ほんと、死ぬところだったんですから…………」
「でも、まぁレーナさんの話が本当だとしたら、す、凄いわね…………」
「いえ、こちらの世界のが凄いです。魔法とかあるし………」
「ま、まぁ確かに…………」
すると
【コンッコンッ】
突然、応接室のドアがノックされた。そして、ロブの声がする。
「ティファさんにお客様です」
「私に?誰だろう?」
「マーシャと名乗る女性が見えております」
「「「!!!」」」
なんと、Re:Braveの拠点に現れたのは、アギトの話にあった唯一ジャッジメントで信用できると言われている人物だった。
「入ってもらってください」
「はい!」
応接室のドアが開き、マーシャが初めてティファ達の前に姿を現す。髪は黒色のロングで、身長は160㎝位といったところで、年齢は二十代後半に見える。
「失礼いたしますぅ~。初めまして、アギト様より遣いを受けたマーシャと申しますぅ~。どうか皆さまよろしくおねがいいたしますぅ~。今日はアギト様より命を受けて参りましたぁ~。ティファさんと言う方はどなたですかぁ?」
「こりゃまた随分個性的な人が来たな………アリスさんとは正反対だ」
「ちょっとガイ、それどー言う意味よ?」
「べ、別に…………」
「フンッ」
「初めまして、マーシャさん。私がティファです」
「あら~、あなたがティファさんですね。よろしくお願いいたしますぅ~」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
マーシャのおっとりとした感じになれないティファ。そんなこととは知らずにマーシャは話を続ける。
「ご存じかと思いますが、私とアギト様はシエナ様の精神支配を受けておりません~。ですので、安心してください~」
「え、えぇ、わかったわ………。で、今日はどのようなご用件で?」
「はい~、今日はジャッジメントの今後についてお話に来ましたぁ~」
「「「!!!」」」
一瞬にしてRe:Braveのメンバーの顔が真剣になる。それもそのはずだ、ティファ達はシエナの演説を途中で逃げる事に必死で最後まで聞いていない。もしかしたら、ティファ達がその場から逃げた後に今後の事を語っていたかもしれないからだ。
「まず初めに、ティファ様達はシエナ様の演説を最後まで聞かずに、こちらに戻って参りましたね~?」
「……………ええ」
「あの後何ですけど~、ネロ・ライコネン様が国王の座から降りましたぁ~」
「「「!!!」」」
皆が驚く中で、アリスは顔面蒼白になりパニックに陥る。
「な、なぜ?何でお父様が国王の座を降りるの?い、意味が分からないわ…………。国王の座を明け渡すなんてまだ話すら出ていなかったはず。じ、じゃ、今の国王はヴィクトリアお兄様なの?」
「いいえ、違いますぅ~」
「え!?じゃ、じゃぁ誰が国王なわけよ!?」
「シエナ様ですぅ~」
「「「!!!」」」
「なっ!」
マーシャの発言に皆が驚く。まさか、王家の血筋でもない人間が国王になるなど、聞いたことがないからだ。もちろん、王家の人間が全て滅んだらなら話は別だが、王家にはヴィクトリア・ライコネンがいる。最悪、カイル・ライコネンも居るが、カイルの場合犯罪者であり、王家からその地位を剥奪されている。そんなのありえないとアリスはテーブルを強く叩いた。
【ドンッ】
【ぷすー……ぷすー……ぷすー……………パチンッ】
それと同時に、口からよだれを垂れ流し、鼻提灯を作りスヤスヤと寝ていたルナが起きる。
「わぁ!びっくりした!ここはどこだ…………?」
「何処だじゃねーよ!Re:Braveの屋敷だ」
「クマピンク!ぶじだったか!」
「てめーのせいで死にかけたけど、何とか生きてるわ!次、あんなことしたら許さねーからな!」
「はて?なんのことやら…………」
「とぼけんじゃねーぞチビ助、さっきてめーは『クマピンク!ぶじだったか!』って言ってたろ!ちゃんと覚えてんじゃねーか!」
「…………ルナもガイさんもうるさい。これじゃ、ちっとも話が進まない」
「あ、あぁ…………。悪かったよ」
「ところでクマピンク、あいつはだれだ?」
ルナが初めて見るマーシャを指さす。
「あら~、こんにちわ小さい熊さん」
「むっ!おまえ、ルナのことをくまっていうな!ルナのことをくまっていっていいのは、ひげとおっぱいのおねえちゃんだけだ!わかったか!」
「あらら~、これは残念。怒られちゃったぁ~」
(おい、クマピンク!こいつおばかさんなのか?しゃべりかたがおかしいぞ?)
(別に普通だろ…………。あーいう喋り方の人もこの世の中には居るぜ)
(そ、そうか。ならいいんだが…………)
「それで、マーシャさん!お父様達は無事なのかしら?」
「無事ですよ~。ただ、アリス様のお父様もお兄様も、シエナ様の奴隷になってしまいましたが…………」
「……………………」
アリスは、何となく想像はしていた。あの父が、そう簡単に王の座を明け渡すはずがないと。明け渡すとなれば、それなりの事情があるはずだと…………。
「それで、これからジャッジメントはバイス王国に侵攻を開始いたしますぅ~」
「な、何ですって!バイス王国に侵攻?何を考えているのよあいつは!」
「…………バイス王国に侵攻。いくら何でも無茶だ、あの国の恐ろしさを知らないのか…………」
グレイヴはバイス王国の民であり、あの国がどういったものなのかを知っている。
「バイス王国ですか…………。また随分厄介な所に手を出しますね、シエナ様は…………」
ユイは眉間にしわを寄せ、意味深な顔をする。
「ん?ユイさんバイス王国には行ったことあるのか?」
「はい。昔、斧聖の父と一度だけ………」
「「「えっ?」」」
ユイが自分の父親が、五大聖人の一人だと告げると、その事を知らないティファ以外は驚きの表情を浮かべた。
「斧聖ってユイさんの親父なのか?」
「はい。話していませんでしたか?」
「初耳です」
「それはごめんなさい、斧聖は私の父親です。ちなみにエリスの前の剣聖は、エリスのお父様です。魔王との戦いで命をおとし、エリスが剣聖を受け継いだんです」
「聖人って受け継ぐのかよ…………。知らなかった」
「エリスは一人っ子だったからそのまま受け継いだけど、私の場合は弟が居るのでどちらが引き継ぐかはわかりません」
「弟さんも居るのか?やっぱ、天使の宴に属しているのか?」
「いえ…………。弟のローグは父のクランに属しています」
「なるほど…………。」
「あの…………。それで、バイス王国はどう危険なのですか?私は、最近まで他の地域には行ったことないので………」
ここで、少し前に冒険者になったばかりの右も左もわからないハツネがグレイヴに問いかける。そして、グレイヴは皆の前でバイス王国の恐ろしさを説明した。
「…………殺人に強盗…………それから人身売買…………」
「………あぁ。それら全てがあの国では許されている。力なき者はあの国では格好の餌食だ。俺はあの国の騎士団の副長をしていたが、騎士団だけではどうにも出来ないのが現状だ。そして、そんな騎士団の中に裏切り者が現れた…………」
「裏切り者?なぜ、裏切るのですか?国の治安を守るのが騎士団ですよね?その騎士団の中に裏切り者って…………。そんなのおかしいです!」
「…………あぁ。だが、この国にも存在されている闇ギルドという物がバイス王国でも存在する。その者達が、騎士団に賄賂を送り犯罪行為に対して目をつぶれと金品を渡したのだ。それにつられたのが、騎士団の隊長である、ユーチカという男だ」
「………そんな………隊長自ら騎士団を裏切ったのですか?どうしてそんな事を…………」
「…………奴も人間だ。金に目がくらんだのだろう…………そこから騎士団は徐々に崩壊していった。他の者も、金に目がくらみ次々と裏切っていく。そして俺は、そんな騎士団になど居る価値が無いと思い、この国亡命してきた…………」
「なぁ、何でそんなクソみたいな国をそのシエナってのは欲しがるんだ?いくら何でも危険すぎんだろ?」
ガイが不思議そうにグレイヴに問う。それは皆思っていた事だ。そこまで危険を冒してまで手に入れる必要があるのかと言うこと…………。その問いにマーシャが答える
「ん~。国自体を落とすのは簡単だと思いますぅ~。シエナ様の奴隷の力があれば容易に落とせるはずですぅ~。それと、恐らくバイス王国への侵攻はシエナ様の意志ではないと思いますぅ~」
「…………シエナとやらの意志でないとなると…………まさか………」
「そうですぅ~!おそらくは魔王軍の命令でやっているものだと思われますぅ~。魔王軍もまたあの国に手を焼いているのではないのでしょうかぁ~」
「魔王軍が?そりゃねーだろ…………。あいつ等とは一度戦った事がある。あの強さは異常だ…………」
「わ、私も兄さんと一緒に魔王の四天王と対峙しましたが、尋常じゃないくらい強かったです…………」
ガイとメイは、以前魔王軍のアギトに呪いをかけたエイモスと対峙していた。その時はまだFランクだったが、Cランク冒険者になった今でもまるで勝てる気がしないほどだった。ランクが上がるにつれ、エイモスの強さが尋常ではないと思い知らせれていた。
「ん~、だとしたらどうしてなんでしょうねぇ~」
「単純に、軍力が欲しいんじゃないかしら?」
ここで先程は取り乱していたアリスが、冷静に分析を始めた。アリスは、他の兄たちとは違い参謀としての資質はある方だ。
「軍事力なら、バイス王国はこの国よりもある。そして、バイス王国を手に入れたら本格的にこの国を落としにかかるんじゃないかしら…………」
「…………もしそうだとすると、一刻も早くシエナの国盗りを阻止しないと…………」
「…………でも、どうするの?私やルナは、弱すぎて戦力にはならない…………。それに、Re:Braveのメンバーだけじゃとてもじゃないけど、話を聞く分だと勝てないと思う」
「なにをいっている、ステラ!ルナはつよいぞ!ルナがいれば、そのスパイスおうこくってのにもかてるはずだ!」
「…………スパイス王国?ずいぶん、カレー臭そうな国ね。ルナ、バイス王国よ」
「そ、それだ!バルス王国だ!」
「ルナちゃん、その………名前でだけ聞くと国が滅んでそうな…………」
レーナが『あはははっ』と、ルナの言い間違えを丁寧にツッコミを入れた。
「なるほど。そーいうことなのね…………アギト」
ここで、アリスが何かを閃きそれを皆に伝えた。
「アギトは、恐らくシエナの野望を阻止するには、力ずくでは無理だと判断した。なら、シエナのかかっている催眠的なものを、妖狐の力で解除して無力化させる。それが一番早いとアギトは思い、自由に動ける私達に託した…………」
「………確かに。それなら直接シエナとやらと対峙しなくて済むな…………。そして、妖狐の居るアルテミス大陸か…………」
「で、アギトの兄ちゃんが言ってたそのアルテミス大陸には誰が行くんだ?」
「そこが問題ね。大勢で行っても目立つから、ここは少数で向かった方が無難ね。この街にも、戦力は残しておきたいし」
アリスは考える。誰を向かわせて、誰を残すか…………。この村も、シエナの手の者がいつ襲ってくるともわからない。村には非戦闘員も居る。その者達を守る戦力は必要だ…………。
アリスが悩む中、1人の女性が手を挙げた…………。




