第4話 それは突然に
それは突然、いや、一瞬のことに見えた。ドリアムはこれまで話していたフロイスとハシルのすぐ後ろに、いきなり何者かがいるのに気づき、咄嗟に一歩引いて構える。
「あっ、ごめんなさい、皆さんお話中でしたか?」
「……や、やあ、ト……ア……」
「おぉおおおっ! お主は!!」
フロイスがどうしようかと固まる横を、ドリアムが喜びの声を上げてトアへ近づく。そして、ドリアムはそのままの勢いでトアの両脇を抱えて空中に持ち上げた。
「ふわぁああ!」
「トア! 会いたかったぞ! わはははは、やはり儂の目指した方向は正しかった! やっと見つけた! それにしても、本当にフローリアとトーマスに似ているなぁ!」
「ド、ド、ドリアム! トアが驚いていますよ! とりあえず下してください」
「おお、それは悪かったな」
そう言うと、ドリアムはトアを床に下した。
「トアよ、儂を覚えておるか?」
「……えーと……う~ん…………あっ! ベッドに寝ていたおじちゃん? マルスミア王子のおじちゃ……さん?」
「わはははは、おじちゃんか! それが気に入った。おじちゃんと呼んでくれ。おお、そうだそうだ、そのおじちゃんだ! トアが治してくれたのだろう?」
「えっ、王子から聞いたの? ピオット先生?」
「ふふふ、ふははははは! いや、儂がそう思ったのよ」
「あ、そうなんだ」
ドリアムは薄々思っていたことが当たって、内心ではとても驚いたが表には出さずに話を続けた。
「やはり、そうだったか……お陰で元通り元気になれた。礼を言うぞ、トア」
「えへへ、良かった」
「それで、トア、今のはどうやったんだ? いきなり現れただろう?」
「あっ……」
途端に気まずそうな顔をして、トアはフロイスたちを見る。
「実はねトア、ドリアムは僕の兄と義姉の友人なんだ。魔法学校の同級生だったんだよ」
「そうなんだ。私にとってのリーニャやルミオンみたいなものだね」
「うん。それで、今回の救出作戦にも力を貸してくれると言ってるんだよ」
「それじゃあ……仲間?」
「ははは、そうだね、仲間だ。それで、トアの能力のことなんだけど……」
「仲間ならいいと思うよ。私が知られたくないのは、悪い貴族様だから」
「わはははは。うむ、悪い貴族には知られてはいかんな! ……悪い貴族といえば、兄上の側妃カーラの件は、すまんかった! まさかあれほどの阿呆とは……」
「おじちゃんのせいじゃないよ。それに皆、無事で孤児院も修復されたから大丈夫! あ、でもダストン王子がもしかしたら魔法学校にいるかもしれないんだって」
「なにっ! あいつがこんな所まで来ているのか……ははぁ、カーラの兄のガルマの元を訪ねたか……ガルマは選民意識が強い。嫌な予感しかしないな……」
いつも元気なドリアムの顔に影が差す。ドリアムにとってはダストンも幼い頃から見てきた甥で大事な肉親だった。しかし、ドリアムが毒で二年間倒れていた間に、ダストンはすっかり母親の影響を濃く受けて成長していた。
そんな暗い雰囲気を払拭するように、トアの声が響く。
「じゃあ、私の魔法話すね、さっきのは転移。今、牢屋に捕まってるところだから、牢屋から転移してきたの」
「では、牢屋に捕まりに行ったのは、やはり本当だったか……大丈夫か? 枷などつけられたのではないか?」
「うん、でも、『フンッ』てやったら、効かなくなったから大丈夫。ちょっと邪魔だから今は枷を置いてきたんだ」
「ふっははははははは! そんなことが出来るのか?! ああ、これは皆が秘密にするのも分かるぞ! しかし、面白い。儂も城に戻ったら試してみよう」
「トア、リーニャから聞いたよ。お姉さんのリアを助けに行ったって。リアを連れて転移して来るんだろう?」
「うん、いずれはそうするんだけど、今、バール帝国の動きを探ってる所なの」
「なに?! 帝国の動きをか?」
これにはさすがにドリアムも驚きの声を上げる。
(まるで、一国のエリート諜報員のようなことをしておる!)
「うん、というのもね。そもそも狙いは私みたいなんだよね。逃げるのは簡単なんだけど、そうすると、また孤児院とか周りの人が狙われそうなの。だから、まだこのまま捕まったままでいて、その間に敵の動きや狙いを探るのがいいかな、って思ったの」
「でも、危ないよ」
「大丈夫だよ、フロイスさん。デイン大陸の人達は無理やり連れて来られててね、実は国に戻りたがってる良い人たちなんだよ。だから、その人たちも自由にしてあげたいし……」
「リアは大丈夫なのかい?」
「うん、リアの牢にも結界張ってあるから、鍵穴に鍵も差せないしね」
「なに? 今度は結界だと??! それは誠か?!」
「うん、やってみた方が早いよね」
いうが早いか、トアは自分の周りに結界を張る。
「じゃあ、その剣で私を切ってみて!」
「それは、さすがにできん。では、素手でこの辺を叩いてみるぞ?」
「うん、いいよ!」
——ドガン——
「おぉおーっ! 見えないが、何か固い物に阻まれた! これが結界か!」
「うん、これはただの結界だけど、これに反射を付与すると攻撃が撥ね返るの。昨日もそれをリアの牢に掛けたら、茶色マントの人の攻撃がそのまま跳ね返って、痛そうにして帰って行ったんだ」
「それは凄まじい効果だな…………ん? 茶色マント? それは、黒髪で長髪のやつか?」
「うん、確かそんな人。意地悪な顔してるよ」
「もしかしたら、儂に毒の攻撃をしたやつと同じかもしれん」
「そうなの?! どうする、潰しとく??」
「わはははははは、まるで虫退治みたいに言うなぁ! いや、気持ちは嬉しいが、皆の救出前に敵を警戒させてもいかんしな。やるとしたら、儂がやるわい!」
「分かった!」
「それにしても、トアと話していると、帝国もすぐに捻り潰せそうに感じてしまうなぁ!」
「うん、でもね、帝国はデイン大陸の人を使って呪術も使うから、気を付けて」
「そうか、呪術か……肝に銘じよう」
その後、トアがいつも通りに食事を収納空間にしまうと、フロイスがトアに手紙を渡す。
「トア、今日はこれを兄上に届けてくれないか? 手紙にも書いておいたが、読んだら回収してきてほしい。救出作戦には、牢に捕らわれている人たち皆の協力が必要だから、今後は情報を共有していきたいと考えているんだ。それに、救出について皆に伝えることで、なんとか生きる希望にしてほしいんだ」
「うん、分かった。皆の日光浴の時間だったら少しは話せるかもしれないし、情報共有できそうだもんね。じゃあ、行ってきます」
「有難う。くれぐれも気を付けて」
こくんと頷くとトアは、いつも通り一瞬で消えて行った。




