第3話 救出作戦!
ドリアムが魔法学校からルルド王国の宿へ戻って来ると、直属の部下で双子のガカランとランゾウは既に戻っていた。ドリアムを見るなり二人が声を揃える。
「「あー、ドリーなんかいい事あったね? そんな顔だ」」
「わはははは、分かってしまったか! そうだ。トアというのは本当に面白い子のようだ」
「ふーん。ドリーが楽しいならそれでいい……トアはいい子」
「うん、いい子」
ボロボロの身なりで町をさ迷っていたガカランとランゾウを、町の酒場の帰りにほろ酔いのドリアムが発見したのは十年ほど前だった。以来、ドリアムは双子を部下とし、同時に家族のように接してきた。二人はドリアムに懐き、ドリアムのように強くなろうと切磋琢磨したお陰で、剣術の腕前は騎士団でもトップクラスとなった。ドリアムが毒で倒れてからは、毎日見舞いに行っていたが、目を覚まさないドリアムの状況に不安が募り、二人ともやせ細っていった。従来の警戒心の強さから、人を寄せ付けず騎士団でも持て余し始めていた頃、ドリアムが回復したのだった。ドリアム以外には懐かなかった二人だが、トアには少し興味があるようだった。
**
それから二日後、校長テリウスから連絡を受けたフロイスは、ハシルを伴って直接ドリアムの宿を訪れていた。
「ドリアム、久しぶりです」
「おお、フロイス元気であったか!」
「はい、私は元気なのですが、兄や義姉は帝国ですので……」
「うむ、トーマスとフローリアはどのような状態だ?」
そこで、フロイスがハシルの方を見たので、ハシルがドリアムに質問をする。
「ウェスリッド家執事のハシルです。恐れながら、ドリアム様、以前お手紙をお送りしたのですが、そのご様子ですと届かなかったようですね……」
「数年前のあの手紙のことだな? 実は、受け取った直後、何者かの毒を受けてな。それで二年ほど臥せっておったのだ」
「そんなことが……では手紙を運んだ者も……」
「ああ、儂が最後に見た時はすでに倒れておった」
「そうですか……帝国の追手かもしれません。ドリアム様に多大なご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いや、毒に倒れたのは儂が弱かったまでのこと。それより、追手が来るほどの状況であったということだな?」
フロイスが頷き説明を始めた。トーマスが捕らわれ、フローリアも軟禁状態であることを伝えると、ドリアムの顔が怒りに震える。
「なんだと! 帝国の皇帝はそこまで愚かなのか! あのように有能で民思いの貴族をそのように扱うとは! 帝国は前ウィズダブラ皇帝の元、良い治世が行われていたというのに……」
「はい、兄始め主だった前皇帝派の貴族達は城の地下牢に幽閉されているのです」
「恐らく、劣悪な環境だろう……心配だな……」
「はい……しかし、近頃少し伝手ができて様子が分かるようになり、ウィズダブラ皇帝や兄が生存していることが分かっています」
「おお! 牢屋番でも味方につけたか?」
「はい、そのような感じでして……義姉フローリアのほうも一時期は寝たきりだったのですが、今は健康状態を取り戻してきています」
「そうか、それは本当に良かった。フローリアといえば、儂が回復した時に、フローリアにそっくりの少女がいたのだ。名前をトアというのだが……」
ドリアムはトアの名前を出した時に、フロイスとハシルが驚いたのを見逃さなかった。
「おおっ、お主たちもトアのことを知っておるのか?」
「……ええ、まあ……その……」
「ふはははははは! トアというのは面白い子供だなぁ! 関わっている者皆が皆同様に口を噤む。しかし、動揺は隠しきれておらん! そんなに特殊な子供なのか?」
「はい……」
「しかし、とてもフローリアやトーマスに似ておった。トアには双子の姉もいるのだが、二人の子供ではないのか?」
「二人の?? ハシル、そのような可能性はあるかい?」
「いえ……その、これはとても繊細な話題なのですが……奥様は以前、お子様を出産されましたが、残念ながら死産でした。奥様付きの侍女から報告を受けましたので……旦那様が捕らわれて半月以上後のことだったかと」
「そうか、そんなことが……義姉上も子供まで亡くしてショックは大きかっただろう……」
「そうですね、それからは一段と弱々しくなられましたね」
フロイスもドリアムも沈痛な面持ちを浮かべる。
しばらくして、ドリアムが口を開いた。
「その時から、もう何年も経っている。フローリアにトアを会わせてみてもいいかもしれんな。元々子供好きなフローリアのことだ。トアは孤児でもあるし、良い出会いとなるやもしれん」
「ふふ、ドリアムらしいですね。私も、実はそう思っていたのです」
「そうかそうか! しかし、儂もそのトアに会いたいのだ。医師の助手として儂の看病に当たってくれた礼を言いたい」
「そうですね……」
それから、フロイスは兄たちの救出に向けて動いていることを話した。
「今の帝国は、各国で様々な怪しい動きをしています。城の地下牢にいる前皇帝や貴族たちも限界でしょうし、いつ殺されてもおかしくありません。なので、一刻も早く皆を救出したいと考えています」
「そうだな。しかし、救出しても帝国から出られるとは思えん。それに、出られたとして、大勢の貴族を他国で保護するとなると、かなり大がかりな計画が必要になるな」
「はい、貴族の家族まで含めると、正直、我々だけでは難しいです」
「途中で見つかると、残された者のリスクが高まる。しかし、同時に皆を避難させるなど……」
「そうですね……まだまだ考えなければならない問題があります。私たちはハシルの宿で度々話し合いをしていますから、ドリアムも何か用事があれば、そちらへ来てください。学校に来るより近いでしょうから」
フロイスもハシルもトアの規格外の能力について話せないもどかしさを抱えたまま、この日はドリアムの元を後にした。
その翌日、学校にあるフロイスの部屋をリーニャが訪れていた。リーニャはトアと話した後、何度かフロイスの部屋を訪れたのだが、フロイスも多忙で部屋に居ないことが多く、やっと会うことができたのだった。そして現在、トアが行っていることをフロイスに告げたのだが……。
「な、なに??! 自ら捕まりに? 枷が効かない?? デイン大陸の者たち???」
「ええ、そうなんです」
「単独でそんな危ない橋を渡っているとは……」
「まあ、お食事を運ぶ事も近々再開すると言っていましたから、そのうち会えると思いますよ。それに魔法連合の統括ベージェル様もついているようですし」
「そうだね……じいちゃん……ね」
フロイスはそう言って遠い目になるのだった。
その後、フロイスはハシルにもそのことを伝えにハシルの宿に来たのだが——。
「おぅ、フロイス!」
「あれっ、ドリアム、来ていたのですか?」
「ああ、宿は昨日聞いていたからな。すっかり言い忘れていたんだが、昨日話題に上ったトアの姉リアが、今帝国に捕らわれていてな。そのリアを救出しがてら、少しトーマスたちの救出に力を貸せるだろうと思ったのだ」
そう言うと、ドリアムはニヤリと笑う。
「有難うございます。心強いです」
「なに、本来、親友を助けることに理由などいらんはずなのだが、国や貴族という建前は面倒だな。ところで、今、ハシルに尋ねていたのだが、何やら食事が用意してあるようだが、誰か訪ねてくるのか?」
それを聞いたフロイスは、「しまった、今は何時だ?!」と慌てて時計を見る。
トアはここ数日、食事の運搬に来ていなかったが、いつ来てもいいように毎日用意していた。そして、先ほどのリーニャの話から、もしかしたら、今日にでもトアが現われるのではないかとフロイスは焦ったのだ。そして、その予想は的中する——。




