第1話 翻弄される周囲
トアがリアに話し始めた内容は、貴族社会を経験したリアだからこそ分かるとんでもない事態で、王弟ドリアムやマルスミア王太子の名前がさらりと出てきたり、魔法学校での編入試験の様子や、ルルド国王に財務大臣、果ては魔法連合の統括ベージェルを『じいちゃんがね……』と話す頃になると、リアは感情が一周りも二周りもして、とても穏やかな顔になっていた。
長い話を終えたトアが最後に締めくくる。
「……というわけでね、捕まえてもらいに来たの。とりあえずダルーガ皇帝はすごく嫌いだから、ボカンとやりたかったんだけど、そうするとケイリュウさんたちの首の模様のこととかが探れなくなる可能性があるでしょ?」
「トア……」
「うん?」
「一言いい?」
「うん」
「何やってるの!!!」
「え……」
「何かあったらどうするの? 今、魔力封じも付けられてるんだよ?! 魔法だって使えないんだから!」
「あ、言い忘れてた。これね、なんか自分の魔力をフンッってやったら、無効化できたの」
「え、なんで?!」
「リアは枷はめたら、魔法使えない? あれっ、というか、なんで枷ついてるの? 結界で悪意や暴力は跳ね返すようにしてたのに?」
「うん、ちゃんとその結界働いてたよ。でも、孤児院に手を出すって言われたから、自分でつけたの。じゃあ、トアは枷の影響ないんだね。もう色々びっくり過ぎるよ……でも、良かった」
「うん、だから魔法使えるから大丈夫。ほら!」
「ああっ、ダメダメ、見つかったらどうするの?! そんな規格外な火魔法!!」
「え、こんなの小さい炎だよ?」
「あのね、普通は王族でも火は操れるけれど、火そのものは作り出せないの! だから、着火剤で火を起こしてから使うんだよ!」
「うん、なんか私の火魔法は少し違うみたいなんだよね」
「少しどころじゃないよ! これまでも言われたことない?」
「うん、だからアンドール兄ちゃんやマルスミア王子とかが心配して、魔法学校に行くように勧めてくれた」
「マルスミア王太子殿下かぁ……あ……」
リアは以前、マルスミアが自分に魔法の属性を聞いてきたことを思い出した。
(あの時、既にマルスミア殿下はトアの可能性に気付いていたのね……ムムム、私より先に知ってたなんて……)
なぜかリアはマルスミアに嫉妬心を燃やすのだった。
**
その頃、マルスミアは緊急の用事でピオットの元を訪れていたのだが、急に悪寒がして、くしゅんとくしゃみをした。
「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、なんか急に寒気がした。それで、魔連からの連絡の件なんだが、リアが帝国に誘拐され、トアが自ら捕まりにいったと……え、その目つき、お前このこと知ってたのか?!」
「はい。叡智が動かれていましたので……」
「そうか、叡智が動いているとなるとお前も無暗に言えないか……父上に報告して変に動かれて国家の一大事になるといけないしな……」
「はい」
「それで、トアはどんな様子だった? 強がってはいてもまだ子供だから心配だ……」
「私は、トアの周囲を心配しています」
「え?」
「むしろ、被害が出るのは周囲ではないかと」
「しかし、捕まるということは、最悪、魔力封じの枷をつけられる可能性もあるんだぞ? 魔法が使えなければ、トアは非力な子供だ……」
「使えます」
「え?」
「魔力封じなど、トアの前では何の役にも立ちません」
「え……」
「むしろ、枷が凶器になる可能性の方が高いです」
「は?」
「魔力封じなど、『フンッ』なのですよ」
「フンッ?? フンッとは何だ??」
「分かりません!」
「だ、大丈夫か、ピオット!?」
「いいえ、私は疲れました。後のことはじいちゃん様……間違えました……ベージェル様にお任せしようと思います」
「お、おお、そうか…………とりあえず、よく寝たほうが良いな」
ピオットが要領を得ないことを話すなどこれまでになく、心配したマルスミアは、早々に騎士団を後にしたのだった。
城へ戻ったマルスミアを待ち構えていたのは、逆立つ鮮やかな赤い髪が印象的な叔父のドリアム・ススリードだった。毒に倒れていたドリアムはトアの治癒魔法で回復した後、騎士団長として復帰していた。しかし、復帰してしばらくすると、自分が回復した時の様子をマルスミアやピオッドに聞くようになっていた。しかも知りたいのはトアのことらしく「あの時の助手の少女はどこだ?」としつこく聞いて来る。マルスミアもピオッドも「助手はもう来ていません」「最近見かけません」などと返しているのだが、諦める素振りはない。
「マルスミア、やっと帰ってきたか! ははは、そんな表情をするな」
「叔父上は、意外と表情を読むのが上手いですよね……」
「ふはははは。幼い頃から見ておる故な。ところで、あの少女のことだが、ダストンの婚約者であったというリアの妹なのだろう? 兄上と話していてリアの話になった際に、銀髪の少女だと言うので聞いてみたら双子で妹がいると言っていた。平民で銀髪などそうそういないからな」
マルスミアは心の中で「はぁ、父上には口止めできないし仕方ない……」とため息を吐くのだった。




