第19話 デイン大陸の者たち
トアが空中を浮遊して付いて来ているとは夢にも思わず、首に黒い模様のある男たち四人は、長い廊下を歩きながらボソボソと話していた。
「それにしても、ケイリュウ、本当に子供に呪術を使うのか?」
「やりたくないさ、ジキ……しかし……」
「そうだよな……。牢に連れて行かれたあの銀髪の女の子、大丈夫かな……とても綺麗な子だった。それにあの赤髪の女性にも悪いことをしたよね……こんなことしてヌシ様は何て思うかな……」
「ヌシ様は、そんなことをするくらいなら死ぬ方が良いとおっしゃるだろう……しかし我らはヌシ様に生きてもらいたい」
「うん、俺もそうだよ。ここに来たのだってその為だし。でも、なんとか子供だけでも助けたい」
「そうだな……」
先頭の二人がそう話すのを後方の二人も黙って頷きながら聞いている。
(あれっ、なんかこの人たち、そんなに悪い人じゃないのかも?? 銀髪ってリアのことだよね……赤髪はマゴットさんかな……)
トアは少し不思議に思った。
その後、男たち四人は城から馬に乗り駆け出していく。
(多分、魔法学校の私の部屋に行くんだろうな……う~ん、どうしよう。でも、ちょうどリーニャたちも心配してるだろうから知らせたいと思ってたし、この人たちも気になるから、このまま観察しながら付いて行こうかな……)
そう決めると、トアは馬と並走しながら男たちに付いて行く。浮遊で付いて行きながらも、時々遠視でリアの様子を確認した。
途中、一度休憩した際に、男たちの会話からそれぞれ家族がいるのだということが分かった。家族を心配するような会話から、やはりそんなに悪人とは感じられず、トアの中で謎は深まるばかりだった。
(さっきは、いっそのこと私がどこかへ行ってくれていれば、傷つけずに済むとか言ってたし……)
魔法学校へと向かう道すがらも、男たちは「こんなことやりたくない」「やるべきじゃない」と葛藤していて、その様子を間近で見ていたトアは、魔法学校に着く頃には、すっかり男たちへの怒りはどこかへ行ってしまっていた。
(でも、困ったなぁ、悪い人なら何でもできたんだけど、良い人がイヤイヤ悪いことやってるのはどうやって止めればいいんだろう……う~ん、う~~ん……う~~あ~~~もう話してみるかな?! なんか色々考えても分からないし、とりあえず話してみよう。それから決めよう! うん!)
そう雑に結論づけると、トアは自分の部屋へ転移して、四人が来るのを待つことにした。
しばらく待っていると、部屋の鍵が静かにカチリと開錠され、そーっとドアが開かれた。その途端——。
「こんにちは、皆さん!」
「ぅおっ!」
「ぐわっ!」
最初に入ろうとした一人が驚き、後ろにのけ反ったせいで、背後の人の鼻にぶつかり、痛そうな声が響く。
「あっ、驚かせてごめんなさい、私がトアです。貴方は確か……ケイリュウさんですよね? それと……ジキさん! あとは、コクドさんとメイハクさん!」
トアが道中で覚えた全員の名前を言うと、戸口にいる大柄のケイリュウが驚く。
「な、なんで知っているん……え……貴女は……」
「どうしたんだ、ケイリュウ? なぜ俺達の名前を……え……オドアイ様……?」
「「!!」」
部屋に入って来た四人は、トアのことを見ると皆固まってしまった。
「オドアイ様? 誰それは? 私はトアだよ?」
「……俺たちの国では、古くからの伝承で目の色の違う者を『オドアイ様』と言うんです。これまで出会ったことはありませんでしたが、貴女はオドアイ様なのですね……ああ、私たちはなんてことを……」
そう言うと、四人とも跪き俯いてしまう。
トアは訳が分からず困惑しっぱなしだったが、四人に敵意は全くなく打ちひしがれている様子を見て、とりあえず質問をすることにした。
「ケイリュウさん、あの、まず初めに、何で私を攫おうとしてるのか教えてください」
「オドアイ様、どうか我らへの敬語は無しでお願いします」
「うん、わかったよ。じゃあ、ケイリュウさんたちも敬語止めてね。これでおあいこ」
「それは……」
「もう、話が進まないでしょ? 敬語無しの方が話しやすいから、お願い」
「……分かりまし……分かった」
「うん。それで、どうして?」
「申し訳ない。それは制約で話せないのだ」
「制約……その首の模様と関係あるの?」
「……」
「そっか。それも話せないんだ。う~ん、なんか難しくなってきたなぁ……そうだ! じいちゃんに聞こう! 皆、まだそのままで、ちょっと待ってて。大丈夫、捕まえるわけじゃないから」
そう言うと、トアは一応、用心してその場で転移は行わず、廊下に出てから転移を行った。
「じいちゃん!」
「「「うわぁ!」」」
まだあれからずっとススリード王国騎士団内の患者用ベッドのある部屋にいたベージェル、ピオット、マゴットの三人は、突然現れたトアに驚き、思わず叫んでしまった。
「トア、無事じゃったか!」
「うん、皆、心配しててくれたんだね、有難う! あのね、なんか難しいことになってて、相談があるの……」
そう言ってトアは、城の地下牢に転移してリアの無事を確認してからのことを話して聞かせたのだが、想像以上にトアが敵の本拠地内を歩き回っていることに、もう過ぎた事であるにもかかわらず、三人は目を白黒させ息をするのも忘れて聞いていた。
「だからね、マゴットさんごめんね。マゴットさんにひどいことした人たちなのに、本当は良い人たちなんじゃないかって思っちゃったの」
「尊い……」
「あー、トア、マゴットさんは、気にしてないって」
「そうなの? ピオット先生が言うならそうなのかな……うん、それでね、多分首の入れ墨が、その制約に関係してて、だから何も言えないみたいなの」
「そうか……もしかしたら、魔法連合の書庫に、その入れ墨について何か情報があるかもしれんのぅ」
「本当?」
「うむ。ちょっと魔連へ行って探ってみるかの」
「あ、ではベージェル様、私も一度、魔連へ戻ります」
「マゴットさん、もう身体は大丈夫ですか?」
「はい、ピオット先生、お世話になりました。トア様に転移魔法を掛けていただける、大変尊く貴重な機会ですから……ごほん、イエナンデモアリマセン」
「少しは自重を覚えたようですね……」
ピオットがにこやかに微笑むのを見て、トアは「私が離れていた間に、なんか二人とも仲良くなったのかな??」と思うのだった。
その後、ベージェルと興奮気味のマゴットを連れて魔連に転移したトアは、しばらくしたらまた来ると約束をして、今度はリーニャの部屋の前へと転移した。
——コンコン——
すぐにリーニャの侍女マルカがドアを開き、すぐに中へと通してくれた。
「トア!! どこに行ってたの?! しばらく姿が見えないし、カミドさんのお店へも来ないから心配したのよ!」
「ごめんね、リーニャ。ちょっと色々あってね」
「色々? トアが『色々』って言うなんて……大変だわ! マルカ、お茶の準備をお願い。これは、相当真剣に聞かないと!」
そうすぐに判断したリーニャはさすがであった。




