第18話 魔力封じの枷
それからすぐに戻ってきたベージェルは、手にした枷を見せながら、トアに説明をする。
「これを腕に嵌めると、内側にある細い針が手首に刺さり、そこから体内に特殊な薬を流し込むんじゃ。その薬は体内の魔力回路を一周して、魔力を別の物質に変えてしまうのじゃよ。人体のその他の機能には無害な物質じゃが、魔力がなくなるので魔法は使えなくなるという仕組みじゃ」
「……それ、やってみたい」
「なんじゃと?!」
「トア、何を言っているんだ??」
「トア様、ダメですぅうう!」
驚きでベージェルのモコモコ頭がポワンポワン揺れる。
「う~ん、実際に体感してみないと、どれくらい危ないのか分からないなって思ったの。それに、魔法が使えなくなるだけで、その他は問題ないって聞いたし」
「しかし、針が刺さるんじゃぞ?」
「大丈夫、針なら、さっきの魔道具の実験でも沢山刺してるから」
「はぁ……儂は刺したくないのぅ」
「じゃあ、貸して、自分でやるよ」
「ダメだ……はぁ……仕方ない、せめて医者の私がやろう……」
止めても、今度はそのままリアの元へ行ってしまいそうな気がして、ピオットは仕方なく魔力封じをトアに着けることにした。
「じゃあ、つけるよ。チクッとするからね」
「うん」
トアの細い腕にも合わせられてしまう枷を内心「なんて残酷な道具だ」と思いながら、ピオットはカチッと嵌めた。
「大丈夫?」
「うん、それほど痛くもなかったよ。でも、これをずっとつけてたら、牢の人達はきついよね……あ、なんか身体の中に少し圧迫感がある感じがする。なんか嫌だなこの感覚……フンッ……フンッ! ちょっと楽になったかな……魔法は使えないんだったよね……一応、何かダメ元でやってみるね…………」
——シュンッ——
「「「ぇえええーーー??!」」」
思わず三人の声が揃ってしまった。しかし、それも仕方がない。トアは見事に消えていたのだ——。
そして、枷をつけたまま学校の寮の自分の部屋に転移したトアもまた、一人素っ頓狂な声を上げていた。
「ぇえーーっ? なんで?? あっ、もしかして、この枷が壊れてたってこと? ああ、きっとそうなんだろうなぁ……戻ろう……」
そうして、シュンッと戻って来たトアを、固まったままの三人が出迎える。
「じいちゃん、これ多分壊れてるんだよ」
「あっ、えっ……ああ、そういうことかの?? じゃあ、念のためじいちゃんも嵌めてみよう」
そうしてベージェルが枷を装着した。
「では、風を出すでの…………ん? …………出ぬ……」
「えっ、では私もやってみます、もうお陰様ですっかり元気ですから!」
そう言って、マゴットが枷を嵌めて着火剤でつけた火を操ろうとしたが、ふんふんと力むマゴットの鼻息で僅かに火が揺れただけだった。
「「「……」」」
この異常な事態を把握した三人は、一斉にトアの方を向く。
「なんで、私だけ魔法使えたの?」
「トア、それは俺達が聞きたい。まず、枷を嵌めた後、どうだった?」
「なんか、圧迫感を感じたよ。だから……あっ! フンッってやったらなんか楽になった!」
「「「それだ(じゃ)(です)」」」
また三人の息が合う。
「しかし、普通はその一瞬で薬液が体内を巡るから、その『フンッ』はできぬのじゃが……」
「私も、これまで魔法使用者で枷が効かない者など聞いたことがないですね」
「やっぱり、トア様は特別です~」
「何でかは分からないけど、でも、これでリアの所に行っても大丈夫だよね? この枷をつけられたら、効いてるフリをすればいいんでしょ? いらなくなったら風魔法か何かで枷を切って外すから! できるだけ敵が何をしようとしてるのか聞いてくるよ! すぐに報告するから、待ってて。じゃあ!」
三人は何かを言おうとしたが、何を言ったら止められるのかを探しているうちに、トアはシュンッと消えてしまった。
(((あー……)))
三人は顔を見合わせると、長く息を吐き出すのだった。
リアのいる地下牢の近くに転移したトアは、まずリアの無事を確認すると牢に結界を張った。
(リア寝てる……疲れたんだね。怖かったよね……もう少し待っててね……)
その後、透明化すると、城の内部の情報を先に探ることにした。
(本当に私が目的なのか、確かめよう……)
城の中はこれまで歩いていなかったので、冒険しているようで少し緊張しながら探索する。
(うわぁ~、地図では見ていたけれど、中はこんなに広いんだぁ! でも、同じようなドアばっかりで、これじゃよく分からないなぁ……)
そんなことを思いながら、階段を上ったりしているうちに、他よりも立派なドアを発見する。
(立派だから、偉い人の部屋かな……)
そう思い、ドアの前に立つと、中から大きな声が響いてきた。
「ラーラル、それにデインの者たちよ、よくやった! それで、その銀髪の娘はどんな様子だ?」
「生意気にも気丈に振舞っていますが、所詮子供です。すぐに泣き始めるでしょう。双子の片割れをどうやっておびき出しますか?」
「そうだな……魔法学校にいるのは厄介だ。なんとか忍び込んで手紙でも置いて来るのがいいだろう。『誰かに言ったら……』とでも書いておけば、子供なら簡単に動くだろう。学校の敷地から出たら攫って来い。魔法を使われて騒ぎが大きくなるといかん。お前たちの呪術で無力化して確実に連れて来い」
「……はい」
中からは複数の声がしていたが、部屋から出て来る流れを感じ、トアは慌てて浮遊で宙に避けた。
(やっぱり、じいちゃんが言ったみたいに私のことが目的だったんだ! だったら、私に直接言えばいいのに……リアを攫って、マゴットさんを傷つけて……)
怒りが増してくるトアだったが、中から出て来た複数の男たちのうち、四名の首に黒い模様があるのに気づき、注視する。その他に一名、模様のない男がおり、茶色いマントに黒い長髪姿であることから、マゴットやドリアムを襲った敵だろうと予想した。四人の男たちとマントの男は逆の方向に去って行く。
トアは迷ったが、四人の男たちの後を浮遊しながら追うことにした——。




