第17話 連れ去られた先は……
「リ……いえ、トア様?!!」
いつの間にか意識を失っていたマゴットは、目を開いた途端、崇敬の念を抱くトアがいて驚く。
「マゴット、大丈夫かの?」
「…………ベージェル様……」
最近、フォルムの変わったベージェルにまだ慣れないマゴットは、一瞬「このモコモコ誰だっけ?」と思ったが、魔法連合トップの証である紫のマントを見て、ベージェルだと気付く。そして、何があったかを思い出すと、早口に報告を始めた。トアもそれを真剣な眼差しで聞いている。話が終わると、ベージェルがボソリと呟いた。
「首に黒い模様……」
「じいちゃん、知ってるの?」
「うむ、十数年前くらいから、デイン大陸の者たちにたまに見られるようになった物じゃ。魔法連合でも調べたことはあったんじゃが、まずその者たちになかなか接触ができなくてのぅ。稀に接触できたとしても、決してその模様のことは話さないということじゃった」
「なんか、すごく秘密みたいだね。マゴットさんの話だと、その黒い模様の男たちに命令してたのが、茶色いマントの男なんだよね?」
「はい、その男達とマントの男は、そこまで親しくもないようでした」
「リアは、怪我してなかったんだよね?」
「はい、連れて行かれる際も特に拘束などはされていませんでした。トア様、申し訳ありません!!」
そう言って起き上がろうとするマゴットを、トアは止める。
「マゴットさんのせいじゃないよ。リアのこと守って戦ってくれて有難う。リアの場所が分かればいいんだけれど…………あっ……」
「どうしたんじゃ?」
「まだ試してる所で調子悪い時もあるんだけど、ある魔道具があって、それがちゃんと動けばリアの位置が分かるかも! ちょっと持ってくるね」
そう言うが早いかトアは瞬時に消えた。
「トア様!??」
「ははは、そうだよね、叡智でも驚くよね……普通の反応が見られて良かったよ……」
そうピオットが言い終わった時には、もうトアは戻って来ていた。手には地図とペン型の機械を持っており、驚く三人を前に、さっそく説明しながらトアが実践する。
「このペン型の機械の受け皿に血を垂らして……するとね、血族の場所が地図に示されるはずなんだよね……ああ、まだダメかな……こんなに沢山表示されてる」
世界地図には主にバール帝国上に印が現われていた。
「トア、一応この印の場所を確認してみたらどうかの?」
トアの規格外さを良く理解しているベージェルがそう促すと「そうだね、やってみる」と言ってトアは遠視で確認を始めた。ただし、大まかにしか場所が分からない為、ピオットがバール帝国の詳細な地図を持って来て、印の周辺で目立つ建物がないかなどを確認していく。
「ここは……ウェスリッド公爵家の敷地がある辺りですね」
「ああ、前にウェスリッド家のフロイスさんの血を垂らしたからかも」
「なるほど。じゃあ、こっちのは……ああ、ここはバール帝国の城がある場所ですね」
「お城には地下牢があるんだよね。その地下牢には毎日行ってるから、割と中も分かるし遠視で確認してみるね……」
「毎日……地下牢……」
ピオットは「毎日行くのは学校では? あれ、俺の頭がおかしいのか?」と思ってしまい混乱する。
暫くぶつぶつ言いながら確認していたトアが「あっ、見つけた!!」と元気に叫んだ。
「リアがいたよ! 怪我もしてなさそう。でも、暗くて分からないからちょっと行って……」
「トア、待つのじゃ。リアがバール帝国の城の地下牢にいたということは、これは思ったより大掛かりな計画のようじゃ。バール帝国とデイン大陸が手を組んでおると想定しなければならん。デイン大陸の呪術は未知の部分の方が大きいのじゃ。トアの身が危険になってはならん」
「じいちゃん……そうだよね……ありがとう心配してくれて」
いつになく真剣な眼差しでそう言うベージェルに、トアは転移するのを思い留まる。
「そういえば、先ほど気になったんですが、トアの口からバール帝国のウェスリッド家の方の話題が出たような……」
「うん、ウェスリッド家のフロイスさんは魔法学校の理事? をしているの。家に食料とか無くて大変だから、運んだりしてたんだけど、お兄さんや前の皇帝もお城の地下牢に捕らわれているから、そこにも食事を運んでるんだよ」
「なるほど、それで毎日地下牢に……もしかしたら、ドリアム様の件も関係あるかもしれないな……」
「ドリアム様?」
「ああ、以前トアが治癒してくれた王弟殿下のドリアム様のことだよ。そのウェスリッド家のご当主や奥方とドリアム様は友達らしくて、そちらからの手紙を受け取ったみたいなんだけど、その直後に襲われて毒に侵されたらしいんだよ」
「あっ、マルスミア王子の叔父さんだった人だよね?」
「うん、トアが治してくれたあの方だよ。それで、その時戦った相手のことを、茶色いマントに黒い長髪だったとおっしゃっていたんだよね……」
「もし、それも同じ帝国の者の仕業だとすると、ウェスリッド家からの手紙を受け取ったから攻撃を受けたんじゃろうのぅ。敵が何かを計画しているのは確かで、リアを狙ったのは十中八九トアが狙いじゃろう……」
「そうですね……」
「え、何で私なの? 地下牢に食事を運んだのがバレたのかな? ミラスを助けたことかな……」
トアはゴニョゴニョと言いながら首を捻っている。
「トアの存在が、敵の計画に邪魔ということだのぅ」
「私、何か邪魔したっけ??」
トアは口を突き出してうんうん唸っているが、ベージェルとピオットは内心「もしかしたら、敵の計画のほとんどを知らない間に邪魔しているのかも……」と考えていた。
「しかし、トアが狙いだとすると余計にトアを行かせるのは危険ではないでしょうか」
「そうだのぅ……」
「ううん、違うよ、だから私が行くの。そしたら、敵が安心するでしょ? このままだったら、もっと沢山の人が攫われるかもしれないし、皆がどこに行ったか分からなくなったら、私嫌だもん! それより、敵の近くに行って探って、それで計画を邪魔する方がいいよ! 私、うまく探るから。学校もちょうど休みに入ってるし!」
「でも、トア様に魔力封じの枷などつけられて、万が一、お身体に傷でもついたら!!」
そんなことは耐えられないとばかりにマゴットが必死に訴える。
「魔力封じ? そんな物があるの? もしかして、牢にいる人たちがつけられてるのもそれ??」
「そうじゃな、どんなものか知っておいた方がよかろう。儂の机にあるから、トア、一緒に行ってくれるかの?」
「うん、じいちゃんの部屋ね!」
シュッと二人が転移で消えると、部屋には静寂が残る。そこで、ピオットは先ほどから気になっていたことをマゴットに聞いてみた。
「ところで、トアはベージェル様のことを『じいちゃん』と呼んでいたように思いますが、空耳でしょうか?」
「いいえ、ベージェル様はトア様のじいちゃん様ですから、うふふふふ」
「そうですか……」
マゴットの返事を聞いたピオットは「あ、この人もこちら側の人間ではなかったのか」と悟るのだった。




