第16話 倒れたマゴット
男たちが一瞬怯んだ隙に反撃しようとしたマゴットだったが、男たちが皆、更に後ろへと下がった為、マントの男の土魔法の壁に遮られてしまった。
すかさず、土壁を回り込み一閃を浴びせようとしたマゴットだったが、突然、身体が動かなくなってしまう。
「うっ!!」
(な、なにが……魔法? いや、マントの男は土魔法、そしてデイン大陸の男達は魔法は使っていない……デイン大陸の呪詛!)
そう閃くも、対抗策は無く成すすべがない。
マゴットの様子がおかしいことに気付いたリアは、マゴットに駆け寄って来た。
(くっ、リア様、来てはいけない!)
声も出せずに焦るマゴットの元に、リアが来てしまう。
「マゴットさん、大丈夫ですか?」
それを見たマントの男が声を荒げる。
「おい、お前達、何をもたもたやっているんだ! 早く今のうちにその銀髪の子供を捕えろ!」
そうして、マントの男は追い打ちをかけるように素早く呪文を詠唱すると、リアのすぐ傍にいるマゴットに向けて、鋭い土の槍を地面から発生させる。しかし、そこで奇妙な現象が起こる——。
——ズシャッ——
一定の距離まで近づいた土槍は、突然、方向転換し、マントの男の方に向かって行く。
「なに!? 何が起こったんだ?! おい、何かしたのか!」
それを見たリアは「そういえば、私の周りではそういうことが起きるんだったわ。もしかしたら、あの不思議な収納袋の緒お陰かしら……」と、薄々感じていたことを思い出す。
「マゴットさん、このまま私に引っ付いていてください」
そう言うと、リアは男たちを睨みつけたまま、マゴットを庇うように前に立った。
「くそっ、なんなんだ、これは!?」
茶色いマントの男ラーラル・ダハンは、そう吐き捨てるように言うと、打開策がないかと考えを巡らし始めた。
(聞いた所、孤児院の銀髪の娘は双子ということだった。目の色や身なりからするに、これがリアで間違いない……そして、魔法学校にいるのがトアだったな。肉親がいるのが分かったのはいいが、こっちも捕らえられないんじゃ意味がない。他に家族はいないと聞いている……ああ、家族か……)
そこまで考えたラーラルはニヤリと笑い、リアへその顔を向ける。
「君は多分、リアだね? 僕たちは、君に用があるんだよ。君だけ来てくれればいいんだ。しかし、来てくれないというのなら、あの孤児院の『家族』に来てもらうことになるけど、いいのかな?」
(リア様、そんな話に耳を貸さないでください!!)
マゴットはなんとか声を発しようとするが、身体は相変わらずピクリとも動かない。そんな間に、リアの視線は揺れ動いている。
「ああ、君が来てくれるなら、その女には手を出さないと約束しよう」
「…………絶対ですか? それから、孤児院の皆にも?」
「ああ、もちろんだ」
引っ掛かったとばかりに、ラーラルは特上の笑みをリアに向ける。
「では、行こうか」
差し出された手には触れずに、リアは歩き出した。
マゴットは動かない身体に「動け!! 動いてくれ!!!」と念じ続ける——結局、マゴットは、その後駆け付けた騎士団により保護されたが、話すことは愚かピクリと身体を動かすことも出来ない状態のままだった。
担ぎ込まれた白いマントのマゴットを見た、騎士団の医師ピオットの判断は早かった。ススリード王国の国王夫妻および王太子の命令に従う「影」の一員であるピオットは、火事の後、孤児院に叡智のメンバーが派遣されたことは知っており、マゴットについても把握していた。
すぐさま国王ダンデリアムに報告すると、王家から魔法連合へと即座に連絡された。
緊急連絡を受け取った叡智の統括ベージェル・シュピーレは、魔法学校経由でトアを呼んび、それからトアが来たのはすぐのことだった。
「じいちゃん! どうしたの?!」
緊急と聞いてベージェルの部屋へ直接転移してきたトアは、まずベージェルが変わりないことにほっとしつつ、そう尋ねる。
「トア、落ち着いて聞いてほしい。孤児院を警護しておったマゴットという者がいたんじゃが、何者かに倒された。そして、一緒にいたリアが連れ去られた……」
「マゴットさんはどこ?」
「ススリード王国の騎士団の医師ピオット殿が診てくれておる」
「分かった。まずマゴットさんの所に行って聞いてみる」
「儂も連れて行ってくれるか?」
「うん、じいちゃんも一緒に行こう」
そう言ってトアはベージェルと手を繋いだ。そのトアの手は冷たく、小刻みに震えている。
(以前と違って、周りに気を使い魔力を制御しておる……しかし、自分の姉が連れ去られたんじゃ、怖かろうに……)
そう感じたベージェルは、繋いだ手に力を込めた。
ピオットの部屋に転移したトアとベージェルは、そこにピオットの姿がなかったので廊下にいた騎士に聞いてピオットの元へ向かう。
——コンコン——
ドアを開けたピオットは、そこにトアとベージェルがいるのを見ると目を見開くが、すぐに二人を中に入れる。部屋のベッドの上には、赤い短髪の女性マゴットが横たわっていた。
「ピオット殿、マゴットが世話になっており、感謝する」
「いえ、特に何も出来ておらず、申し訳ありません」
「ピオット先生、マゴットさんはどんな具合?」
「恐らく、一瞬で身体が硬直して動かなくなったんだろう。瞼すらも閉じていないかったので、目の保護のためにこちらで閉じたんだ。しかし、脈はあるし息もできている」
「分かった。じゃあ、多分その黒い靄のせいだね」」
「黒い靄だって??!」
「もしや、呪いのことか?」
ベージェルは自身が呪いを掛けられた時のことを思い出しながらそう言った。
「うん、こういう禍々しい黒い靄は呪いなんだと思う。じいちゃんの時みたいに濃くはないけど……種類があるのかな……」
「それがトアには見えるのか?」
「うん、これまでも何回か掛けられた人に出会ったことがあるから。とりあえず浄化してみるね」
ピオットは久々にトアの規格外さに驚きを隠せなかったが「そうだった、この感覚だ」と懐かしくも感じていた。
ピオットとベージェルが見守る中、トアは浄化魔法を発動させ、マゴットに纏わりついた靄を取り払っていく。全ての靄を取り終えると「ふぅ」と短く息を吐き出し、注意深くマゴットの様子を観察する。少しすると、マゴットに反応が見られた。
「うっ…………ほ、ほぅわあっ!」
目を開けたマゴットは、目の前にある美しいガラス玉のようなオッドアイに銀髪の少女を見て、なんともいえない声を上げたのだった。




