第14話 じいちゃん、一緒に本を読もう!
とりあえず結界が有効なことが分かり、一安心したトアは、ウィズダブラに託された本を持って、魔法連合のベージェルの元を訪れていた。ベージェルはもうすっかり調子も戻り、肌や髪の毛に至っては、トアの治癒魔法が効き過ぎたせいか、ツヤツヤモコモコを極めていた。すっかりフォルムの変わってしまったベージェルだが、魔連の皆の評判は良い。中には「飼っている黒い羊にそっくりです~」などと言ってくる若い者もいる。
「じいちゃーん」
「おお、トア、よく来たよく来た」
「わぁ、すごいお菓子!」
「うむ、最近『エプロンがお似合いです!』などと、おだてられてのぅ。トアが来るから、ちょっと張り切ってみたんじゃ」
「えーっ、これ全部じいちゃんが作ったの? すごい!」
「ははは、照れるのぅ」
「じゃあ、いっただっきまーす! ……うわぁ、甘さ控えめですんっごく美味しいよ! 何か、ルルドの王宮で食べた上等なお菓子みたい!」
「そんなに喜んでくれるとはのぅ。儂の職業を変えるかのぅ……」
「い、いや、じいちゃんはここに居て! 皆が困っちゃうから」
トアはベージェルの呟きを聞くと、慌ててそう言った。
「そうそう、じいちゃんとね、一緒に読みたい本があって持って来たんだ」
「その手に持っているものかの?」
「うん、そう。実はね……」
トアが帝国の牢での話をすると、普段は温厚で穏やかな瞳がまん丸になる。
「な、なんと!! それが、賢者ルーラル・アラキス様の著書の可能性があると!?」
「うん、ルルドの王様に見せてもらった本の書き方と似てるし、多分筆跡も同じだと思う」
「見せてくれるかの?」
「うん」
「…………はぁ、残念じゃ。やはり儂には見えんわい」
「そうなんだ。じゃあ、私が読むから、じいちゃんは聞いてて」
ベージェルは急いでメモの用意をすると、一言一句聞き漏らさないよう神経を集中した。所々トアには難しい言葉は、トアが文字を書き写しベージェルが意味を丁寧に教えた。
魔法陣や魔法についての図柄は説明できないので端折ったが、文章は漏れなく読み終わり、トアが顔を上げると、ベージェルが固まったまま動かなくなっていた。
そこには、賢者ルーラル・アラキスに関する驚くべき事柄が書かれていた——。
「じいちゃん、じいちゃん!」
「……ハッ!……すまぬ、あまりの衝撃でな……」
そこには、賢者ルーラル・アラキスが異界からこの世界に来たことが記されていたのだ。
「うん、良くは理解できないけれど、ここの世界じゃない世界があって、そこから空間魔法で繋げてここに来たってことだよね?」
「そういうことじゃと思うのぅ。推測じゃが、恐らくトアが収納袋の中に広げておるのと同じような仕組みじゃろう」
「そっか……もしかしたら、私の空間もどこかと繋がるかもしれないってこと?」
「そうじゃな……ふぅ……他の世界とはな……考えもしなかったわい。トア、空間がどこに繋がるか分からん。じゃから、空間系の魔法は慎重に使うんじゃぞ」
「うん、そうだね、気を付ける」
「恐らくどこかの世界と偶然繋がる可能性は低いだろう」と思いながらも、ベージェルは念のためトアに注意したのだった。
「賢者さんは、その異界? 自分の故郷? を追われてこの世界に逃げて来たってことだよね?」
「そうじゃな。異界で皇族であったが、兄から命を狙われたとな」
「お兄さんなのに、ひどいね」
トアは自分のことと重ね合わせ「リアなんて絶対にそんなことしないのに!」とプンプン怒っている。
賢者の本には、異界で兄に殺されそうになり、この世界に逃げていたが、兄の勢力が追いかけて来るかもしれず、それに少しでも備えたいという思いもあり魔法連合を創設したと書かれていた。手記の中で度々「自分がこの世界に来たせいで、皆を危険に巻き込んでしまうかもしれない」という後悔と懺悔が書かれている。
最後は、自分の子孫たちの平穏を願う言葉と「いつかこの手記を読める者が現れたら、少しでも魔法の手助けになるようにこれを残す」と締め括られていた。
「じいちゃん、賢者さんって魔法がすごく好きだったんだね。魔法を発動する時のイメージや感覚まで丁寧に書いてあるよ! この物を変形させる魔法とか、すごく便利そう!」
目を輝かせながら、手記を読むトアを見ながら、ベージェルは自分が歴史的な瞬間に立ち会っているのだと、改めて気づかされる。
(代々、旧アラキス皇帝に受け継がれてきた賢者様の手記が……長い年月をかけてこの瞬間のために存在してきたのじゃな……しかし、もしこれが必然であるとすると…………)
ベージェルは、先日、自分を襲った攻撃のことも頭を掠め、得体のしれない不安に襲われそうになるのをトアに悟らせまいと、無理に口角を上げてみせるのだった。




