第4話 準備と思惑
「……というわけでのう、トアには十分注意してもらいたいんじゃよ」
魔法学校のトアの部屋を訪ねて来たベージェルは、カーラを巡る件についてトアに話して聞かせた。
「うわっ、あの王子が魔法学校にいるかもしれないんだ……そのガルマって先生も要注意だね。有難うじいちゃん、教えてくれて! あっ、このこと仲良しの友達たちに話してもいい? 魔道具も役に立つかもしれないから、皆で作っておきたいの!」
「ああ、例の薬草専門店に集まってる仲間じゃな? うむ、良い考えじゃ。皆の力を借りると良い」
「有難う! いいのができたら、じいちゃんにも持って行くからね!」
そう元気に言うトアをニコニコと見つめると、別れを告げてベージェルは部屋を出て行った。
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翌日、放課後いつものように薬草専門店に集まったリーニャ、ルミオン、ミードル、そして店主のカミドは、トアがいつになく重要な話があるというので、皆、色々と予想しドキドキしていた。
(まさか、トア、ススリード王家をドカンとやるとか……)
(まさか、トア、ルルド王家にお菓子食べに行きたいとか言うんじゃ……)
(まさか、トア、僕以外のひっつき虫が現れたんじゃ……)
(新しい魔道具の相談かねぇ……)
一番、正解に近かったのはカミドだった。さすが大人である。
因みに、ミードルは別にトアのストーカーではないし、恋愛感情もないのだが、なぜか「ひっつき虫」という言葉が気に入ってしまっていた。自分が「ひっつき虫みたい」とトアに言われた時、実は妙に嬉しくて、以来、自分以外のひっつき虫は現れてほしくないと密かに思っているのである。
トアが話し出すと、始めリーニャ、ルミオン、ミードルは、自分たちの予想が外れたことにほっとした。しかし、すぐにその恐ろしい内容に、皆の表情が強張っていく。聞き終えると、リーニャが真っ先に声を上げた。
「ススリード王国の側妃様って、そんな非道な人だったの?!」
「うん、頭にきたから思わずまた魔力出しちゃったよ」
「えぇっ! 他の方々は大丈夫だった?」
「うん、皆には結界を張っておいたから」
「皆に結界??!」
今度はミードルが驚いた声を上げたが、リーニャに「そのことはまた後で聞いて」と言われ静かになる。
「じゃあ、僕たちも学校でそれとなく、ガルマ先生やダストン王子がいないか気を付けよう」
「そうね、それからトアが言ったように、魔道具を色々準備したいわね。ミードル先輩、何か良い魔道具の案はあるかしら?」
「とりあえず、治癒の魔道具は役に立つだろうから、このまま作り続けよう。それから、さっきトアが言った結界とかはどうかな? あっ、僕が興味があるからってわけじゃないよ! 興味あるけど……ゴホンッ! とにかく、結界があれば魔法や物理のダメージを与えられる場面で大活躍すると思うんだ」
「結界の魔道具ね! 面白そう! うん、結界魔法込めてみるよ! カチッと押したら結界が張れるって感じかなぁ? ついでに反射も付与してみよう。カミドさん、材料またお願いできますか?」
「それはいい考えだね。手に握ってボタンを押すと発動するとか、そういう物なら、材木屋に加工をお願いしてみるよ」
「一応、魔道具って分かるように、何かしら模様とかを表面に描こうか?」
「いい考えね、ルミオン。私もそれならお手伝いできるわ」
「じゃあ、僕は……」
「先輩は、実験台でお願いします」
「リーニャ、最近僕の扱いが雑だよね?」
「なになに、ミードル先輩、リーニャのひっつき虫なのー?」
「ふ、ふふっふふふ……ひっつき虫……」
「もう、トアが変なこと言うから、ミードル先輩の変なツボに入っちゃったじゃない!」
(この子達の元気にかかれば、国家の危機でも案外乗り越えられるのかもしれない)
カミドは内心そう思い、唯一の大人メンバーとして支えて行こうと思うのだった。
それから数日、結界の魔道具の作製は難航していた。結界の魔道具に描く魔法陣は、トアが魔法連合所蔵の魔道具を見せてもらって書き写してきた。ただ、その魔道具は常時発動型だったので、ボタンを押したら魔法陣が完成して発動するようにした。難しいのは、治癒の魔道具の時と同じで魔法の強さの加減だった。結界に反射を付与したのだが——。
「あいたっ!」
「ごめん、ルミオン!」
「大丈夫、先輩のせいじゃないから」
結界内にいるミードルに向かって、ルミオンが木片を投げてみたのだが、反射が強すぎて木片がルミオンの腕に直撃してしまう。そこへトアがやってきた。
「ごめんね、ルミオン! なんか多分、反射魔法込めた時にあのダストン王子を思い浮かべちゃったから、強くなったんだと思う。難しいなぁ」
「それは、怒りも増すよね。大丈夫だよ、大したことないし、常に治癒の魔道具持っているから」
ルミオンはそう言って、数日前にトアが渡してくれた少し強めの治癒魔法が込められた箱を見せる。
「それくらいの強さの治癒の箱も、あった方がいいかもしれないよね。作っておこうかな」
「じゃあ、箱の色を変えて分かり易くしておく?」
「うん、いい考えだね!」
そうして、強めの治癒の箱も暇な時間で作製していくことにした。
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一方、その頃、ガルマと第三王子ダストンはルカッドが提供した一軒家で生活していた。ルカッドからは「この先の計画で万が一邪魔が入るといけないので」と言われている。学校はちょうど休暇シーズンに入る所だったので、ガルマはその少し前から休暇申請を出したのだった。ガルマは最早、この大きな計画を前にして、学校の教師など辞めても良かったのだが、ルカッドから「魔法学校を傘下に置く際にはガルマ様に、学校に居ていただいたほうがいいので」と言われたのだ。
今日はルカッドが来ており、いよいよ第一の計画が説明された。
「ススリード王国での政変を成功させる為にも、まずはススリードを助ける可能性のあるルルドを混乱させることが重要だとバール皇帝は考えています。前回は、とあるルルドの貴族が役目を真っ当できず失敗に終わりましたが、今回はその教訓を生かして大規模な計画を練り直しました」
ガルマとダストンは興味深々といった様子で、前のめりの姿勢でルカッドの話を聞いている。
「同時多発的に疫病を流行らせるのです。今回は、ルルドの貴族ではなく、デイン大陸の者達が実行するので、大丈夫でしょう」
「デイン大陸?!」
「ええ、交流はありますか、ガルマ様?」
「いや、話には聞いている。ここ十数年は呪術に特化した研究が盛んだと聞いているが……」
「ええ、正にその通りです。呪術は素晴らしいものです!!」
「そうなのか……」
ルカッドの恍惚とした表情に、少し違和感を覚えたガルマだったが今回の計画に集中する。
「では、私と伯父上はススリード王国内で待機して、待てば良いのですね?」
計画の内容をきいたダストンがそう聞く。
「はい。ススリード王国にも、デイン大陸の者を行かせます。彼らの呪術により、王国の主要人物は数日で弱るでしょう。そうしたら、何の苦労もなく正当な方法で実権を握れば良いのです」
「なるほど! 呪術とは便利な物ですね!」
「そうなのです! お分かりいただけて嬉しいですよ、ダストン王子!」
呪術について魅入られたように語るルカッドの瞳は怪しげに爛々と輝いていた。




