第3話 カーラへの差し入れ
ダストン王子がいなくなってから、エイミーはしばらく静かだったのに、今日はマゴットを見て何を勘違いしたのか話しかけてきた。
「デアーズ子爵令嬢、こちらの方は私の護衛などではありません。失礼な言い方はやめてください」
リアがそう言うと、エイミーの顔が引きつる。
「護衛でしょう? 寮の入り口まで付いてくるのを見てたもの」
リアは、もう自分が何を言っても無駄だと感じマゴットに謝る。
「マゴットさん、ごめんなさいこんなことに巻き込んでしまって。もう帰っていただいて大丈夫ですから」
すると、マゴットは目を輝かせ始めた。
「いえいえ、こんな時こそお役に立てるのです。リア様、少しお待ちくださいね」
そう言うと、マゴットはエイミーの方へ行き何かをボソボソと言う。すると、途端にエイミーの顔が青ざめ、走り去ってしまった。
「マゴットさん、何を言ったのですか?」
「うふふ、こういう時のために、王太子に許可を取っておいた文言を使わせてもらったのです」
「そう……ですか。本当に有難うございます」
「いえいえ、リア様のお役に立てて何よりです。また何か羽虫が寄ってきたら言ってくださいね」
そう言うとマゴットは帰って行った。
その頃、エイミーはブルブルと震えながら自室に戻って来ていた。
「なんなの……あの白いマントは護衛じゃないの? なんでそんな権限が……リアにはなんであんな人がついているのよ!!?」
エイミーに近づいたマゴットはただ短く「マルスミア殿下より、これ以上リア様の邪魔をすれば、貴女には平民に戻ってもらうとのことです」と言っただけだった。
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牢屋にいる元側妃カーラの元に兄ガルマからの返事が届いたのは、手紙を出してから半月ほどしてからだった。また例によってルカッドが牢屋番を眠らせ手紙を運んで来たのだが、届けたのは手紙だけではなかった。
「カーラ様、こちらはダストン殿下とガルマ様からです」
「まぁ! 今、私が一番欲しい物ばかり! お兄様の元にダストンもいるのね?」
「はい、ダストン殿下はダンデリアム国王にカーラ様の処遇をお考え直しいただくよう言ったものの、聞き入れてもらえずガルマ様を頼られたようです」
「ダストンが……」
「はい。それでは、ガルマ様とも話したことをお伝えします」
そう言うと、ガルマは自分がバール帝国皇帝の命令で動いていることや、ガルマやダストンが今のススリード王国の現状を変えるべく動き出していることを伝えた。
「ダストンもそのように立派に国の行く末を考えられるようになっていたとは……それに比べてダンデリアム様は本当に弱くなってしまわれた」
「私達、バール帝国としましては、元々、ルーラル・アラキス魔法学校の存在が良くないと考えていました」
「ああ、あの自由とか平等とかうたっている学校ね。お兄様もいつも愚痴をこぼしていたわ」
「はい。各国から魔法に秀でている生徒が集まる魔法学校の影響は侮れません。なので、大陸の国々に秩序をもたらすためにも、魔法学校の改革が必要だと思っているのです。ただ、ご存知のように魔法学校はどの国も干渉しない領域になっています。学校を囲むルルド王国も、その考えに追随しています。なので、バール帝国としては、まずルルド王国をどうにかしたいと思っていました。そして、ここでダストン殿下の存在が大変重要になってくるのです。バール帝国の成り立ちをお考えいただくと分かるかと思うのですが……」
「政変……」
「その通りでございます。まず、ススリードも同じように政変を起こし、ダストン殿下が国王となられるよう動きます。その後、バール帝国と協力してルルド王国を落とせば、さすがに魔法学校も周りを囲まれて従わざるを得ないでしょう。その後、我々の傘下に置けば良いのです」
「なんと、それほどのことを……」
「はい。帝国は、ずっと機会を窺ってきました。これまでも小さな計画はあったのですが、なかなか上手く行かなかったのが事実です。しかし、ススリード王国と一緒にであれば、もっと大きな計画を動かせます」
「今回、このようなことになって、私も思い知りました。魔法連合のような得体のしれない組織に国が従うというのは愚の骨頂です」
「正に、おっしゃる通りです。魔法学校も魔法連合のように、古の魔道具を所蔵しています。学校を傘下におけば、そういった魔道具も正しく使うことができ、いずれは魔法連合にも対抗できるようになるでしょう」
「うふふふふ、素晴らしい計画だわ。バール帝国皇帝陛下がそのように先見の明があるお考えとは、恐れ入りました。是非、その計画に協力いたしますとお伝えください」
「ご理解いただけて、誠に有難うございます。それでは、急ぎその旨を伝え、計画を練ることといたします。また報告や物資を届けに参りますので」
そう言うとルカッドは去って行った。
カーラは薄暗い牢屋の中で、力強い味方を得たことを喜び、自分をこんな目に遭わせた者達にいずれ報いを受けさせるのだと、目をギラつかせていた。
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魔法連合の建物は巨大な五角錐の形をしており、その中心には上下に動く移動用装置が組み込まれていた。
叡智のメンバーであるビームス・トールは、ここ最近起こった出来事の報告をしに、最上階にあるベージェル・シュピーレの部屋へと向かっていた。
一階から移動用装置「楽々」に乗ると、身分証を読み取り機に翳して最上階のボタンを押す。この楽々はルーラル・アラキスが魔法連合を創設した時に作製したもので、魔法連合が所蔵する中でも一番大型の部類に属する魔道具だった。身分証には個々の魔力が込められており、それによって行ける階層が決められている。
最上階に着くと、楽々の全方向の壁が開く。この最上階は特殊な透明素材でできており、内側からは外の景色が見えるが、外からは全く見えない。ここには、ベージェルの部屋と、貴重な魔道具を管理する部屋があるだけだった。
——コンコン——
「ビームスか。報告じゃな?」
「はい。一点、きな臭い件がございます。例のススリード王国にて投獄された元側妃のカーラですが、牢にて何者かと連絡を取った形跡がございます。牢屋番は何も覚えておらず、恐らく眠らされたようです。カーラ側妃の牢に差し入れられた物資があり発覚いたしました」
「一度見ただけじゃが、カーラはさほど頭の回る者にも見えんかった。裏で動いている者がいるということじゃな?」
「はい、恐らくは。カーラの関係筋としては、第三王子ダストン・ススリードが消息を絶っています。今、探らせていますが、頼るとするとカーラの兄であるガルマかと思われます。ガルマ・バルザンは魔法学校にいますので、今探らせているところです」
「そうか。魔法学校だとすると、トアに近い。一度話しておこうかのぅ」
「ベージェル様、もしかしてトア様に会いたいだけでは……」
「ビームスよ、お主も儂くらいになれば分かろうぞ……『じいちゃん』と呼ばれる嬉しさがの」
きな臭い話が一転、楽しそうな顔になったベージェルを、微笑ましい気持ちで見るビームスであった。




