第28話 悪事の代償
いきなり放たれた魔法連合ベージェル・シュピーレの言葉に、国王ダンデリアムは言葉を失うが、それより顔色を悪くしている者がいた。
(な、なぜ……私が手を回したことを知られているというの? いえ、まだ決まったわけではないわ。叡智だか魔法連合だか知らないけれど、わざわざ小さな孤児院などに注目しているはずがないもの。それに、さっきからあの魔法連合の者の無礼な視線が嫌だわ……あら、何かあの娘リアに似てないかしら? 双子と聞いていたけれど、でも片割れの孤児がここにいるわけはないわね。ああ、嫌だわ、早く終わらないかしら。先ほども急に息苦しくなったし、何か体調がおかしいのかもしれないわ……)
側妃カーラがそんなことを考えていると、突然ベージェルの口から自分の名前が出された。
「そちらの、側妃カーラ殿が人を雇って孤児院を燃やしましたのじゃ」
「なに……」
「まぁ! なんてことを言うの? 魔法連合ごときが!」
「カーラ!! 口を慎め!!」
「え……」
いきなりダンデリアムに怒鳴られたカーラは驚きのあまり静かになる。
「ベージェル殿、側妃が大変失礼をしまして申し訳ありません。その放火のことですが、側妃がやったという証拠があるということでしょうか」
「そうじゃ。孤児院が燃える前から周りをうろついていたと言う男たちを捕えて吐かせておる。なんとも呑気に孤児院が燃えてからも、笑いながら見ておったようでの。捕らえるのも容易かったようじゃ。そやつらの親玉が側妃の侍女からの指示を受けたと言うことで、その侍女にも確認させてもらった。こちらの魔道具で鑑定したので虚言でないことも確認済みじゃよ。捕らえた者たちも連れてきておる故、後でそちらでも確認されると良い」
「…………面目次第もございません。こちらでも調査し、関わった者を処罰いたします」
国王ダンデリアムのショックは大きかったが、それはそれとして即座に思考を切り替える。
「ところで、今回魔法連合は元から孤児院を注視していたということでしょうか?」
「ふふふ、さすが国王は切り替えが早い。実は、孤児院はめんこいこの子の家なのじゃよ」
そう言うと、ベージェルはトアの方を向く。ダンデリアムは薄々思っていたが、やはりリアの双子の妹かと理解する。
(そういえば、ルルド国王から親書が来た時も、このトアが絡んでいた。魔法も使えるようだが、ただそれだけではないのだろう。我が国にいれば、貴族の養子になどできたが、魔法学校に魔法連合がついているとなると、難しいな……)
国王として、人をどう国益に結び付けるかを考えずにはいられないダンデリアムは、そう思うと少しがっかりした気持ちになるのだった。一方、王太子マルスミアは、心の中で「父上、申し訳ない。しかし、やはりトアはこの国くらいで収まるような者ではなかった」と、妙にほっとした気持ちになっていた。
「さて、それでは用事も済んだしのぅ。帰るとするか。ダンデリアム王、後はよろしく頼んだぞ」
「承知しております。この度は、誠に申し訳ございません」
そう言ってダンデリアムが深々と頭を下げると、皆も国王に倣って頭を下げたのだった。
魔法連合の一行が去ると、ダンデリアムの鋭い言葉が飛ぶ。
「側妃カーラを捕縛せよ!」
「な、なにをおっしゃって……ぎゃっ! 何をする! 離せ!」
「母上!! 父上、何をなさるのですか?! まさか、あの者が言ったことを信じたわけでは……」
「だまれ! いいか、カーラよ、一度だけ聞く。リア嬢の孤児院に火をつけさせたのか?」
「……わ、私が火をつけたわけでは……」
「もういい、連れて行け」
「な、なぜです! 大体、あの汚い子供が私の靴を汚したのが悪いのです! そ、それに、孤児院は燃えましたが、皆生きているというではありませんか! うわっ、やめなさい、無礼者! ダンデリアム様、国王……!」
最後は半ば引きずられるように側妃カーラが退場していくと、広間には沈黙が残った。
「さて、皆の者。分かったと思うが、今日ここに来られた方々は、一国家より上位の存在である。ここで起こった出来事は一切他言してはならぬ。見る者は見ている。そのことを肝に銘じ、職務にあたれ」
ダンデリアムがそう言うと参加した重鎮たちは「はっ」と声をそろえた。
自室に戻った第三王子ダストンは、何がなんだか訳が分からず混乱していた。
「何なんだ、何なんだ?! 母上が孤児院に火をつけた? 火をつけたのは大袈裟だったかもしれないが、でも、先に王族に粗相をしたのは孤児院の子供なのだろう? 孤児院側にも非はあるじゃないか! それがなんで、いきなりあんなことに…………あの人間、トアと言ったか? あれがリアの妹……あいつが何か言ったから、魔法連合が動いたのか? くそっ、なんなんだ! 父上も頭など下げて! 他の者は知らないが、少なくともあのトアは孤児だろう??! リアと同じ顔をして俺を睨みやがって! くそっ、ここに居ても父上まで腑抜けているし、どうしたら…………そうか!」
何かを思いついたダストンは、それからすぐに手紙を書くと、側仕えに渡したのだった。
それからしばらくして、ダストンが忽然と姿を消した。
そして、その後すぐに側妃カーラの調べが終わり、カーラは投獄された。
その頃、トアはよいしょよいしょと一心不乱に何かを作製していた。カミドが箱の材料を仕入れている材木店に、人間が入れるくらいの桶を作ってもらい、その底に治癒の魔法陣を描いて治癒魔法を込めた。更に桶に水を灌ぐとちょうど良い温度になるように発熱効果も付与する。最後にそれらが見えないよう隠蔽魔法を掛けた。
「完成!! 治癒魔法でもいいけれど、やっぱりあったかいお湯に浸かると癒されるからね~」
早速、それをじいちゃんこと叡智の統括ベージェル・シュピーレへ今回の礼として持って行くと、大袈裟なほどに喜ばれた。
「トア、こんなに素晴らしい魔道具を儂がもらっても良いのか??」
「当たり前だよ! 孤児院のことで怒ってくれて有難う! 私たちの言うことなんて普通ススリードの王様は聞いてくれないけど、じいちゃんが言ってくれたから真剣に聞いてくれたんだ。それに、私の家族に居場所も与えてくれたって聞いた。だから、すごく感謝してるんだ、えへへ」
「トア……じいちゃんもトアの力になれて嬉しいぞ」
そう言うと、ベージェルはごしごしと目を擦る。
「こんな歳になって、このような気持ちになれるとはのぅ」
最初はトアの特異な魔法の力に引きつけられたベージェルだったが、今ではそうではなく一人の子供としてトアを愛しむベージェルだった。
(こんな特別な子じゃ。これから色んな者たちが目をつけるじゃろう。そんな時こそ儂の知恵で守ってやらねば……)
そう改めて思うベージェルだった。
なお、この有難い魔道具は、叡智のメンバーが怪我をした時や、褒美などとしても活用されるようになり、メンバーの間では密かに『叡智の湯』と呼ばれるようになるのだった。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
これにて三章が終わりました。
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なぜか不思議と、筆の進みが遅い時などにそれらを見つけて、プラスエネルギーが爆誕するのです。
明日から四章に突入しますので、お読みいただければ幸いです(*^^*)




