第25話 側妃自ら
ススリード王国では第三王子の母で側妃のカーラ・ススリードが、読んだ手紙を破っているところだった。
「お、お茶をお持ちしました」
「そこに勝手に置いておけばいいでしょう!」
「は、はい、失礼しました」
お茶を運んできた侍女は、カーラの剣幕に脱兎のごとく部屋を出て行った。
「まったく、お兄様も全然当てにならない! 孤児一人もどうにかできないなんて! おまけにあの孤児たちに関わるなですって? 何を弱気になっているのかしら!?」
(こうなったら……私が締め上げてあげましょう)
冷酷な笑みでそう結論を出したカーラは、ベルを鳴らすと、おっかなびっくりやって来た先ほどの侍女に「今すぐリアを呼びつけなさい」と命じたのだった。
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リアは相変わらず倉庫にいたが、はっきり言って、屋敷より快適な毎日を送っていた。倉庫に付与された防犯撃退センサーのお陰で、あらゆる悪意は跳ね返されていたし、秘密裏に送られた快適な寝具で居心地の良い空間になっていた。
最近はほとんど誰も訪れない倉庫だが、珍しく倉庫の扉がノックされた。
——トントン——
(誰かしら? 珍しいわね……)
「どうぞ」
「リア様でしょうか? すみません、奥様からこのお手紙を渡すようにとのことで……」
リアが見たことのない新人らしいメイドは、そう言うとリアに手紙を渡す。手紙の後ろの封蝋を見たリアは嫌な予感がする。
(これは側妃カーラ様のものだわ……)
手紙の内容に目を通したリアは、「ふう」とため息をつく。
それはカーラからの茶会の招待状だった。
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むせ返るような強い香水に花の香りも消される残念な庭園で、側妃カーラと一対一のお茶会に臨んでいるリアは、来る前から倉庫に帰る時の自分を想像して自身を鼓舞していた。
「あら、リア、ちょっと見ない間に肉付きが良くなったんじゃなくて?」
「そうでしょうか」
「ふん、残飯の量でも増えたのかしら?」
「まあ、そうですね」
日々、届く温かい食事を思い浮かべ心の中で「あんな食事が残飯なわけはないのだけれど」と思うと、ついつい頬が緩んでしまう。
「何を笑っているのかしら、気持ち悪い。その笑みをやめなさい!」
人払いをしているのをいいことに、カーラはそう言いながら、リアに熱い茶をかけようとした。しかし……。
「ぎゃっ! 熱っ……!!」
なぜかその熱い茶を被ったのはカーラ自身だった。
「あなた、何かやったわね? そうに違いないわ! ここには私とあなたしかいないのだから!! 誰か! 今すぐリアを捕まえなさい!」
「え、私なにも……」
「黙りなさい!」
リアは何がなんだか分からないまま、その場で拘束されそうになっていた。
しかし、ここで問題が起こる——。
拘束しようと兵士が近づくと、一定までは近づけるのだが、それ以上進むと吹き飛ばされてしまうのだ。
しばらくすると、次々に挑んでは吹き飛ばされる兵士が山積みになってしまう。
そこへ、騒ぎを聞きつけた第一王子マルスミアおよび第三王子ダストンがやって来た。
「カーラ様、これは一体……」
「母上、大丈夫ですか!? リア……お前が母上に危害を加えたのか……おのれ!」
「あ、ダストン様、来てはダメです!」
リアが言うのも聞かずに突進した第三王子ダストンは、他の兵士と同様に吹き飛ばされ、「ごふっ」と音がしたと思ったら動かなくなってしまった。兵士の山に加わった弟の姿を見た第一王子マルスミアは、やれやれと顔に手をやる。
「ダストン!! おのれリア、よくも私の可愛い子を! マルスミア王子、見たでしょう?これは全部リアの仕業です! もうこの女を殺してくださいまし!」
「いや、少し整理したいのですが……。そもそも先ほどから、リアは魔法発動のそぶりはないですよね? むしろダストンには近づかないように注意していましたよ?」
「で、でも、リアは私に茶をかけたのです!」
「でも、リアの茶はカップに残っていますが?」
「それは、私の茶を……」
「席についた状態で、カーラ様の茶まで手を伸ばすのは無理があるのでは?」
「それは……か、風魔法を使ったのよ!」
「……とおっしゃっているが、お前はどう思う?」
マルスミアがそう言うと、どこから現れたのか、マルスミアの側近が答える。
「風魔法であれば、カップも飛ばされて地面に落ちていると思いますが、カップはテーブルの上にあります。側にある菓子なども動いていないようですし、風魔法は使われていないかと」
「……ということですが、どうでしょう?」
マルスミアの側近は陛下によって選定された精鋭で、おいそれと否定もできないカーラは、悔しそうに口を歪める。
「ど、どうやら、私の勘違いだったようですわね」
悔しそうにそう言って立ち去るカーラだが、心の中で吐き捨てる。
(忌々しい。今に見ていなさい。身の程をわきまえない孤児ごときが!)
そうしてふと思った。
(そうか、元凶は孤児院なのだわ)
そう思いついたカーラの顔は、かつてないほど狂喜をはらんだ笑みを湛えていた。




