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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第三章

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第24話 叡智

 

 魔法連合の「叡智」は、創設当時にはルーラル・アラキスに忠誠を誓う集団であった。その後は代々、その子孫が叡智のメンバーとして存在している。古の賢者と今では呼ばれているルーラル・アラキスは、その特異な魔法を駆使して魔道具も多く制作し、今では魔法連合がそれらの大部分を管理していた。賢者亡き後、「叡智」の子孫は代々賢者の残した魔道具を使用できることを誇りとし、今ではその魔道具を管理している魔法連合に忠誠を誓っている。

 叡智のメンバーの一人であるビームス・トールは、久しぶりに旧友と会う約束をしており、喫茶店にいた。しばらくすると、金髪で長身の男が店内に入って来るのが見えた。


「フロイス、こっちだ」

「ビームス、久しぶりだな。ルルドに来ていたとは。仕事かい?」

「ああ、ちょっとな。お前の勤務先に用があって」

「学校絡みか。話す必要はないが、予想は簡単につくな。あんな魔物が合同授業で出るなんて学校としてだけでなく大問題だからな」


 フロイスとビームスは、魔法学校時代からの友人だ。同じバール帝国出身ということで仲が良かった。ビームスが卒業後に魔法連合に所属していることは知っていたが、叡智と言う組織や、代々そのメンバーであることは、フロイスも知らないことだった。叡智に関しては、古の賢者の作成した魔道具を扱うことからもそのメンバーは秘匿されており、叡智の存在自体、知るのは各国の上層部のみであった。なので、表向きには叡智のメンバーは魔法連合の職員となっており、各国から要請があれば、騎士団などと協力して地方の調査などを行っている。


「フロイス、お前のほうは大丈夫か? 相変わらず、国の状況は変わっていないからな……」

「ああ、ちょっと最近良いことがあったんだ。詳しくは話せないんだが、なんというか未来に希望が出てきた」

「ほう、希望か……」


 そういえば自分もそんな気持ちだな、と思いながらビームスは「良かったな」と答える。


 しばらく昔の話などをしていたが、そろそろ帰ろうかという時に、喫茶店のドアが勢いよく開いた。そして入ってきたのは、二人が最近見知った少女だった。


「あれっ、フロイスさんと、それに昨日の……」


 店に入ってきたトアは二人を見て驚いた顔をしたが、それは二人も同じだった。

 フロイスは咄嗟に「トア!」と表情が明るくなり、ビームスは「トア様」という言葉が出かかって止めた。


「あれ、ビームスはトアとも知り合い?」

「ああ、まあな」

「ああ、あれ絡みか!」


 咄嗟にフロイスが先日の魔物絡みと推測したことには驚いたが、詳しく話せないことであると察してくれたようで、フロイスは内心助かったと思う。トアも二人のやりとりを見て、それ以上は何も言わなかった。


「トアもお茶しに来たのかい?」

「うん、私と友達のリーニャは、よくここで魔道具について話すの」

「魔道具? ずいぶん勉強熱心だね」

「えへへ、勉強というよりお金稼ぎかな」

「売っているのかい? 私も客になろうかな。何か良い物ができたら買わせてほしい」


 興味本位でフロイスが聞くと、トアは今ちょうど試作品があると言って出してくれた。トアにとっては、フロイスもビームスも自分の能力のことを知っている人たちであり、またこれまでの経験から自分の作成する魔道具は、なぜか他の人には真似できないものであると分かってきたこともあって、二人に情報を開示しても大丈夫だろうと思う。なので、試作品のテストに協力してもらえれば、という条件で説明することにした。


「それは、一つは地図かい?」

「うん、これは世界地図。で、こっちのは地図とセットの機械。このペン型の機械の上の小さな受け皿に自分の血を1滴垂らすと、血族の場所が地図に示されるの。あんまり欲しい人はいないかもしれないんだけど、私の双子のお姉ちゃんの場所を知るために作ったの。他にも行方不明の人の捜索には役立つかな、って。でも、亡くなっていたら分からないんだけどね。それに、なんか調子悪い時もあって、売り物になるのはまだまだ先かも」

「……簡単に言っているけれど、これが実現できたらすごいことだね……」

「貴族なんか誘拐の危険も多いし、実現したらこぞって買うんじゃないか。逆に悪人からすると、見つかる危険が大きくなるから流通させたくないだろうな……」


 フロイスとビームは驚きに満ちた顔でそう言うと、顔を見合わせ深刻な表情になる。


「試しに、私の血を垂らしてみてもいいかい?」

「フロイスさんの? うん、色々実験したいと思っていたから、是非お願いします!」


 フロイスは機械に内蔵されている針をピッと指に当てると、血を1滴受け皿に落とす。

 指先の針の傷跡がすぐに消えることに驚く。ビームスも「傷が……」と言ったきり、それ以上は言葉をつぐんだ。

 因みにその針で刺すと、その対象に時間差で治癒魔法が発動するようになっており、針は自動洗浄される。

 トアの凄さをよく知り、そのことについて騒ぎ立ててはいけないことを心得ている二人だからこそ、その驚愕を飲み込めたと言える。


 皆が地図を見ていると、徐々に地図の様々な箇所に小さい点が染みのように現れた。それを見てトアが残念そうな声を上げる。


「あーあ、やっぱりまだダメかぁ。前に垂らした私の血がきれいに落ちていないのかなぁ?この前と同じ場所しか出てないし、まだ機能していないみたい。ごめんなさい!」

「ああ、いや大丈夫だよ」

「フロイス、この場所はバール帝国の城のある当たりだな」

「そうだな……」


 何か思案顔になった二人だったが、店にリーニャが来たことでトアが去っていくのを見届けた後、おもむろにビームスが口を開く。


「……前皇帝やお前の兄など、政変に立ち向かった側の貴族たちだが、城の地下牢にいると聞いている。ただ、もう何年も経っているし生存者がいるというのは絶望的な見方がほとんどだ。しかし、あの地図の染みがもし……」

「ああ、そうだな。そうだとしたら、希望の光だ……」


 二人ともトアについてお互いに秘匿事項が多いため、話せないことにもどかしさを感じてはいたが、そんな中でもお互いに暗黙の共通認識を持っていると確信できたのだった。


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