第23話 制裁
教師のガルマ・パルザンはサロンで、ある生徒を叱責していた。
先日の合同授業は途中で中止となってしまった。ガルマもあの非常事態に他の教師達と森に入り生徒達の誘導を行った。戻ってきてみると、合計三体の魔物が討伐されたとのことだったが、そのことは校長から箝口令が敷かれているようで、どのように討伐されたかは分からなかった。しかし、それはどうでもいい。問題は痛めつけるはずだったトアが、飄々とした様子で戻って来ており、なぜかその後やってきた魔法連合の調査団に呼ばれて行ったのだ。何が起こったのか説明を求めるため、トアと同じ班にしていたリーベンを呼びつけたが、なぜか説明が要領を得ない。
それがガルマの怒りを倍増させていた。
「リーベン、君はトアと一緒の班だっただろう! 重要な役目を与えたはずだ! なぜ何も分からないんだね? カミラは君があまり協力的でなかったと言っていたぞ? 魔物にやられたカミラと違い、君はトアと一緒に帰って来たんだろう?? 一体何をしていたんだ!?」
「……何も見ていません」
「そんな訳がないだろう? ずっと寝ていたのか? あの魔物だって使いようによっては好機だっただろう?」
「え、それは、どういう……」
「決まっているだろう。あのトアを魔物と対峙させれば傷を負わせるのは簡単だったということだ! そんなことも分からんのか!」
リーベンはガルマの言葉を信じられない思いで聞きながら、あの時動くことすら出来なかった自分の前で、スタスタと魔物の方へ歩いて行ったトアのことを思い出していた。
(ガルマ先生はいったい何を……普通だったら死んでいる。そうならなかったのはトアがいたからだ……助けてくれたのはトアで、先生じゃない。僕は今まで何を……)
ガルマはなおも怒鳴っていたが、最早リーベンは気にならなかった。それよりもトアのことを考えると胸がモヤモヤして、それをどうにかしなければと焦りが募るのだった。
翌日、学校に行くとリーベンは真っ先にトアのクラスへ行き謝った。
「トア、ごめん! 俺、色々ひどいことを言ったりしたりした。それなのに助けてくれて、本当にありがとう。自分が恥ずかしい」
真摯に自分の目を見て謝るリーベンにきょとんとしたトアだったが、ありがとうと言われるとにっこりする。
「大丈夫だよ! 別にそんなひどいことされてないと思うし?」
「え、でも、野営の見張りとか……」
「あ、あれは魔法で見張りもやっちゃったから、毎日熟睡出来てたし、全然平気だよ!」
一瞬、ぽかんとしたリーベンだったが、なんだかおかしくなってきて「ふふふ」と笑いだす。それにつられてトアも「あはは」と笑う。
「ねえトア、あの、よかったら友達になってくれないかな」
「もっちろん!」
そう言ってニシシと笑ったトアの笑顔が眩しくて、リーベンはこれからの未来が明るくなるのを感じた。
それからリーベンは、サロンには行かなくなった。行かなくなって思ったことがある。
(なんだかサロンはジメジメして狭い場所だったな)
そして、それからしばらくして、教師ガルマのサロン閉鎖の噂が生徒達の間に広がった——。
**
ガルマは自室で何度も呟いていた。
「なぜだ……なぜ……」
あの日、リーベンを叱責したガルマは、腹立たしい気持ちのまま三階の廊下を歩いていた。そして、中庭で談笑しているトアの姿を見つけたのだった。
(生徒に任せていては埒が明かない。孤児の生徒のことなど学校も特に気にしないだろう。それにしても私自らがやることになるとは……忌々しい。今どきの生徒は本当に実行力がない)
眼下の中庭にいるトアの足元に狙いを定めると、ガルマはポケットから小瓶を取り出す。小瓶には土を丸めて高温で焼いたガルマ特性の玉が入っている。それを一つ取り出すと、呪文を唱え魔力を流し土魔法を発動させようとした。しかし——。
「あっ」と思った瞬間、ガルマは胸倉をつかまれ身体が宙を舞う。そして、次の瞬間には廊下に叩きつけられた背中から全身に強烈な衝撃と痛みが駆け巡った。
「ごふっ……」
何が起こったのか理解できずに見上げるといつの間にか白い服に白いマントを羽織った者がいた。
「トア様に近づくな。次はない」
そう言うと白いマントの男は背を向ける。その背にある白い刺繍の紋章を見てガルマは廊下に寝たままの姿で一気に冷や汗が噴き出した。
「なぜ……なぜだ……」
ガルマは以前、一度だけ父から聞いたことがあった。この世界で敵に回してはいけないのは魔法連合である。どの国も魔法連合には盾突かない。それは魔法連合の「叡智」を恐れているからであると。ガルマは叡智とは形のない魔法連合の知恵をそう呼ぶのかと思ったが、父は半分は正解だと言った。実際には形あるものであると。そしてそれは組織として機能しているとも。その実態を知るものは各国でも一握りの上層部だけだが、この紋章だけは覚えておくように、そしてこの紋章に出会ったら決して逆らうなと。
父もたまたま得たというこの話について、当時のガルマは「少し胡散臭い話だな」と感じ、それ以降思い出すことはなかったのだ。
ヨロヨロと学校内の自室へ戻ったガルマは、急ぎススリード王国の妹カーラへ手紙を書いた。それには「トアの姉リアには近づかないように、何もしないこと。何かすれば命の危険がある」ことを書いたのだった。




