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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第三章

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第22話 調査団来訪

 

 魔法学校の合同授業で起こった魔物襲来については、即座に魔法連合から調査団が派遣されることとなった。魔法連合、通称『魔連』は、魔法に関する様々な課題について調査するとともに、解決に向け国家の枠組みを超えて協力する組織で、古の賢者ルーラル・アラキスの呼びかけによって設立された組織である。


 通常レベル4以上の魔物は、各国の騎士団員や魔連の魔導士が招集されて対処にあたる。ただ、その魔導士たちも少なくとも三人以上でパーティーを組んで討伐に当たることとなっていた。レベル5ともなると、最低五人は必要だ。今回はそんな魔物が三体も現れたという。一体は教師が数人で倒したということだった。それは大型犬のようなレベル4の魔獣で、現場を確認した魔導士達は、すばしっこい犬型魔獣に、苦労したとみられる様々な魔法の連打の跡を確認した。

 また、人間の血痕も沢山あり、戦いの激しさを物語っていた。戦闘に特化した魔導士でもそう大差ない戦いを強いられただろうと推測された。


 問題は他の二体の戦闘についてだった。これは異常としか言えず、一体は戦闘発生場所と思われる現場で見つかったレベル4のトカゲの魔物の死骸だが、見た所、するどい一撃で頑丈な皮膚や骨を切り裂いて首を落としていた。その見事な斬撃は、首の断面が鏡面のようにつるっと見えるほどで、魔導士達は近づいて興味深く観察していた。


「打撃跡もありますが、致命傷は言わずもがな、この斬首ですね……わずかに魔法の痕跡はありますが、かなり鋭利な剣による斬撃と考えるのが妥当でしょうか。万が一魔法によるものだとすると、凄まじい威力の……風魔法ですかね。しかし、こんな威力の風魔法……まあ、現実的ではないでしょう」


 魔力を検知する魔連の特性装置を見ながら、魔連の魔導士ビームス・トールがそう呟くと、周りの魔導士達も頷く。


 もう一体に関しては、更に異常だった。レベル5の巨大なムカデへの致命傷は、頭への斬撃の一発で、その破壊力は地面に刻まれた深い溝が物語っている。


「これも、さきほどのトカゲと同じような斬撃だ。しかし、このムカデが地を這っていたならともかく、上体を起こしていたとすると、かなり上方からの斬撃になるな。木の上からの斬撃か? 魔法の痕跡が地面にまでくっきりと残っている……しかし、こんな威力の魔法を打てる者はそうはいない。いれば、魔法連合でもトップクラスの魔導士並みだぞ……」

「この戦闘では、教師が参戦していたというので、その教師の実力でしょうか。一度話を聞いてみては?」


 ビームスの呟きを聞いた魔導士がそう言った。



 合同授業から数日経つが、ロジャーはまだ頭の整理がつかないままだった。トアの戦闘は異常としか言えなかった——。


(攻撃した魔法については、風魔法だということは察しがつくが……自分の傷を治した魔法は……あれは一体……)


 そんなことを考えているうちに、魔法連合の調査団からの聞き取りの時間がくる。ロジャーは聞かれたことに正直に答えることにしたが、傷を治した件については、まだ半信半疑だったこともあり、質問されなければ特に言及しない事にした。


 学校の応接室には、魔連の魔導士たち五名が集まっていたが、質問に答えていくロジャーの言葉を聞くうちに、魔導士たちの目は見開かれていく。質問が後半に差し掛かると、あまりの内容に疑いの眼差しで見る者も出てくる。


「ということは……つまり、あのレベル5のムカデは、そのトアという初等部の生徒が単独で、あの致命傷を負わせたと?」

「はい、その通りです」

「……」


 ロジャーが正直にそう答えると、一同は沈黙した。魔導士の一人がしばらくして口を開く。


「それは、ありえないのでは?」

「しかし、ロジャー先生が嘘をつくメリットもないだろう」

「とりあえず会ってみては? そのトアという少女に」


 魔導士達の間でそういうやりとりがあり、結局トア本人に聞いてみるということになった。


 トアが応接室に入るとまず最初に、杖をついている頭髪も髭も無い紫のマントを着た老人の姿が目に入る。そして、その老人を中心にして並ぶ五名の青色マントの魔導士達が、一斉にトアに視線を向けたが、途端に皆少し驚いた顔をした。銀髪に緑と青のオッドアイを持つトアの美しさに、初対面の人間はいつも吸い込まれるような魅力を感じる。しかし、トアはというと、複数の視線の的になったまま疑問符を並べていた。


(私、何かまずいことしたっけ?? なんかロジャー先生、元気ない顔してるなぁ)


 トアの目がキョロキョロと動いてるのに気づいた魔導士のビームス・トールが慌てて口を開いた。


「トアさん、君はあのトカゲとムカデの魔物を倒したかい?」


 その質問が単純だったので、安堵したトアは元気よく答える。


「あ、そのことですか! はい、倒しました!」


 にっこり笑って答えたトアに、一同はゴクリと唾を飲み込む。


「因みに、どうやって?」

「うーん、最初のトカゲは飛ばしたけれど起き上って来たので首を切って、ムカデは頭を叩き割りました」

「……」


 トアの答えにビームス始め一同は黙ってしまう。

 その様子を見たトアは焦って続ける。


「あっ、地面を抉ってしまってすみませんでした!」


「このことか!」と思ったトアは、謝ったもの勝ちとばかりに勢いよく頭を下げる。

 すると魔導士達五人の真ん中にいて、これまで沈黙していた老人が口を開いた。


「トアさん、話してくれて有難う。でも、地面のことは問題ないから気にしないでおくれ。ムカデについてじゃが、恐らく頭を叩く時に飛んだと思うんじゃが、やってみてくれんかの?」

「あ、はい、こんな感じです……」


 そう言うと、トアの体はふわっと浮き上がり空中で止まる。


「「「「「「!!」」」」」」


 一同は凍り付いたように動かない。

 トアが下りてくると、老人が近づいてきた。そして、トアの手を取ると跪き、その手を自らの額に当てる。周りの魔導士たちも「はっ」として全員が片膝をついた——。

 トアもロジャーも何が起こっているか分からず、目の前の光景をただただ見つめる。


 通常、風魔法の熟練魔導士であれば、魔力量に応じて数秒程度だが浮遊することができる者はいる。ただし、風魔法による浮遊は一定ではなく空中で体が上下するのだ。魔力制御の達人であっても多少の上下はする。しかし、トアの浮遊は空中でぴたりと身体が静止していた。魔導士達は魔法のプロ集団であり、それが風魔法によるものでないことは、一目瞭然だった。そして、それが意味するところは、その事象が五大属性魔法の外にあるものであり、魔法連合の創始者でもあり魔法学校にもその名を冠している、古の賢者ルーラル・アラキスを想起させるものであったのだ。

 トアが他にどのような魔法を使えるのかは分からない。しかし、調査団長のベージェル・シュピーレは、雷に打たれたようなショックと、高揚する気持ちに襲われ、気が付いたら片膝をついていたのだった。


 トアは驚いたが、その後は和やかに話が進み、打ち解けたベージェルがトアの学校での話など、他愛もないことを聞いてくるので、楽しくなって世間話をした。出身のことを聞かれ、孤児院や姉のリアのことを話しているうちに、あの第三王子のことを思い出して、思わずその怒りも吐き出してしまったが、ベージェルは神妙な面持ちでトアの話を聞いてくれた。


 しばらく話した後「名残惜しいが、また会えるじゃろう」とベージェルが言い、立ち上がると——。


「あ、ちょっと待って! 足が悪いでしょ? そのままじゃ不便だと思うから」


 そう言ったトアはベージェルの右足に手を翳す。ベージェルはすぐに足がほんのりと温かくなるのを感じ目を見開く。そして——。


「な、んじゃと……」


 ベージェルはいきなり杖を床に転がすと、そのままスタスタと部屋を歩き回り、ニコニコしながらついにジャンプまで始めた。理解が追いつかない魔導士達は「うえっ?」と変な声を出したまま固まっている。


「こんな愉快な気分になったのは久しぶりじゃ! 身体が軽い! 若い頃より身軽じゃて」

「良かったね、じいちゃ……じゃなかった」

「よいよい、じいちゃんで良いぞ! 有難う、トア」


 ベージェルはそう言うと、トアの頭を優しく撫でた。

 両手で撫でられた頭を押さえて「えへへ」と照れるトアを見て、ベージェルは「めんこいのぅ」と目尻の皺を深くする。


 魔導士一同は、改めてトアに深々と礼をすると去って行った。

 廊下に出ると、調査団団長であるベージェルは、まるで独り言のように呟いた。


「トアの警護をせよ。悪意を持って害そうとする者は排除せよ」



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