第20話 合同授業④
カミラは、突如草むらから現れた巨大トカゲの魔獣に、出会い頭、腕を噛まれて放り投げられた。身体を打ち付けられ、腕からは血が流れ、あまりのことに頭も身体もブルブル震えその場から動けない。
(死ぬ……?)
漠然とそう思うが、極限の恐怖で目の前に迫ったトカゲが動くのをただ見つめていた。
「助けて……」
絞り出すように涙とともにやっと出た声は、しかし、か細かった。
ガサガサと草むらが動き、トア達がやって来た。来たけれど、相変わらずカミラは絶望に支配されていた。どうやっても目の前のトカゲには勝てないし、そもそも少し距離があり、トカゲが自分に攻撃したら間に合わないと悟る。
いつの間にか、男子生徒二名は消えていた。
そして、トアがこちらに歩いて来るのが見えた。
(何でこっちに来ているの……)
カミラは薄っすらそんなことを考えたと思う。そこでカミラの意識は途絶えた——。
トカゲの方に歩き出したトアを見て、焦りが頂点に達したリーベンだったが、その直後、なんとか座位を保っていたカミラが地面へドサッと倒れるのを見て、残酷な未来を予測し恐怖と絶望が身体を駆け上がる。
リーベンはそれをスローモーションでも見るかのように、ただ見るしかなかった。
トカゲがカミラへ近づき大きな口を開く……沢山並ぶ鋭利な歯がカミラを噛もうと迫り——。
——迫らない——……なぜだ?
リーベンには、一瞬でトカゲが消えたように見えた。そして、ほぼ同時に右前方で「バァン」という音が響き、そちらに目をやると……大木の根元にトカゲが横たわっていた……。
トアはそのままスタスタと近づき、カミラに手を翳している。「よし、大丈夫」というのが聞こえた気がした。
何が起こったか分からなかったが、リーベンは「助かった」と思った。「今のうちにカミラも連れて逃げよう」とトアに提案しようとして、先ほどの大木の根元にトカゲがいないことに気付く。
(どこへ行った?!)
そう思った時には、もう遅かった。すぐ右側の茂みからガザガザッと音が鳴り、黒い靄を纏った巨体が姿を現す。そのスピードは速く、一気に目の前まで迫る。
(もうダメだ……!!)
そう思った時、この場にそぐわない陽気な声が聞こえた。
「わっ、意外と頑丈だね。そんなに動けるんだー。じゃあもう少し威力上げてもいいね」
トアはそう言うと、離れた地点から腕を「ブンッ」と振り下ろす動作をした——。
その途端、リーベンに迫っていたトカゲの口が止まり、「ズシャッ」と頭がこちらに倒れる。
「!!」
ギャッと叫びかけたリーベンは、その頭の後ろに時間差でトカゲの下半身が転がるのを見て、それが死んだことを理解した。
「ト……ア……?」
「ああ、やっぱりこれじゃ強すぎかぁ……難しいな。大丈夫だった、リーベン? 怪我してないよね?」
そう言ってニコっと笑ったトアは、いつの間にか尻餅をついていたリーベンに手を差し出す。
(ああ……助かった……のか? いや、助けられたのか…………)
リーベンは、今頃になり身体が小刻みに震え始めたが、トアのその笑顔を心底眩しく思いながら差し出された手を握る。その手は普通の女の子の柔らかい手で……リーベンは何とも言えない涙が込み上げてきて、嗚咽を押さえることができなかった。
リーベンがカミラを背負い、集合地点へ歩く道すがら、トアがリーベンに気まずそうに言う。
「あのね、リーベン、さっきのトカゲのことなんだけれど……その、私が倒したって言わないでほしいんだ」
その様子を見たリーベンがクスッと笑う。
「随分すごいことなのに?」
「あー、そうなのかな? でも、ロジャー先生にも目立つなって言われてるから……」
それを聞いてリーベンは「ロジャー先生はトアのことをご存知なんだな。これは隠そうとするだろうなぁ」と思った。リーベンも貴族なので、これが知られたら学校卒業後のトアの環境がガラリと変わることは想像できる。
「もちろん、秘密にするよ」
「ありがとう!」
キラキラ輝くトアのオッドアイを見て、素直に「綺麗だな」と思うリーベンだった。
戻る途中で、こちらに向かっていた先生方と会い、カミラを預けた。そのまま集合場所に戻ると、トアは真っ先にリーニャの姿を探す。
「あれ、リーニャがいない。まだ森の中なのかな?」
相変わらず今もまだ警報音は鳴り響いている。
トアは森の入り口の付近へ移動すると、誰もこっちを見ていないことを確認し、リーニャの気配を探索した。いつも一緒にいるリーニャの魔力は覚えている。すると、間もなくリーニャの魔力を発見したので、遠視を使って様子を見てみると——。
そこには、全身から血を流しながら、なんとか立っているリーニャの姿と、その前でリーニャを庇うように立つロジャーの姿が見えた。周りには他にも生徒達が横たわっており、前方には気持ち悪い鎌首をもたげた魔獣がいる。それを見た瞬間、トアは転移していた。




