第15話 温かい食事
翌朝、ウェスリッド家では、香辛料の効いたスープの匂いがしてきたことに驚いた屋敷の使用人達が台所を覗き、そこに豊富な食材があるのを確認すると驚愕していた。皆、軟禁状態で乏しい食料の中、夢を見ているのではないかと思ったが、夢でないことが分かると涙して喜んだ。詳細は知らされなかったが、執事のハシルがフロイスの元へ無事に辿り着き、そのお陰であると伝えられた。そして、これは外部には絶対に知られてはならないと使用人全員で確認し合った。元々、代々公爵家に仕えている忠義に厚い使用人しか残っておらず、皆の団結力は堅かった。
体力の衰えから、ベッド上での生活をしていた当主の妻フローリア・ウェスリッドは、運ばれてきた温かいスープやふかふかのパンに驚き、侍女のトマリから渡された手紙を読み始めると涙を流した。そこには、義弟フロイスの字で、定期的に物資を届けることや、フローリアを労わる内容が書かれていた。
「フロイスが…………。トマリ、私もしっかりしないとダメね。こうして危険な中助けてくれる人達がいるのだもの」
「そうですよ、奥様。それに、旦那様だって耐えていらっしゃるのです。戻られた時に、しっかりお迎えできるように、どうか元気になられてください」
この日を境に、食事で栄養面も改善され希望を見出したフローリアは、目に見えて元気を取り戻していった。
一方、ハシルが滞在する宿を訪れた帝国の調査人は、ちょっとした違和感を持っていた。念のためと思い調べた宿に、当人はおらず、数日しても帰ってくる気配がない。また、それを伝えたという少女に話を聞きたかったが、何故かその少女は宿から消えてしまっていた。裏の扉から出て行ったのかと、目撃者はいないか聞いてみるも、確実な情報は得られていない。そして、いつの間にか宿を引き払ったということを聞かされたのだった。
実はトアがこっそり転移しては様子を確認し、同じ男が宿を見張っていることに気づいていたので、薬草専門店の息子でクラスメイトのルミオンに協力してもらい、宿を引き払ってもらったのだ。ハシルの荷物は元々少なく、転移魔法と収納袋を使用してこっそり引き取った。
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ルルド王国の調査に行っていた者からの報告を受けていた、バール帝国の筆頭魔導士ラーラル・ダハンは思案していた。
「ルルド王国で少し気になるバール帝国出身の者がいると……。あの者の勘はよく当たる……しかし、ルルド王国に隣接する魔法学校にはウェスリッド家の者がいたか。帝国に戻る気配もないようだったし、特に気に留めていなかったが、念のためウェスリッド家を調査してみるか」
翌日、普段はウェスリッド家の前に立って見張りをしている帝国騎士達が、ウェスリッド家の中へ調査に入ろうとしていた。
「執事の名はハシルだったか? あの者はどうした?」
「ハシルは今、病床の奥様の看病をしておりまして……」
(ま、まずいハシル様がいないのがバレると、奥様の身も危なくなってしまう!!)
玄関で急な騎士達の訪問に慌てる使用人達は、必死に時間を稼いでいた。
「もういい、これは筆頭魔導士ラーラル・ダハン様のご命令だ。このまま全部屋を調べる」
「お、お待ちください、もうじき執事が参りますので!」
「どけっ、どかないなら切り殺すぞ!」
「きゃっ……」
その時、ホールに声が響いた。
「騎士様方、お待たせしまして申し訳ございません。執事のハシルでございます」
「ハ、ハシル様……!」
驚く使用人達の前に、静かに階段を下りてきたハシルは、騎士達を案内するため各部屋を回り始める。
「台所ってまずいんじゃ……」
「あの食料が知られたら……」
青くなる使用人達だったが、台所から出てきた騎士達は特に変わらない様子だった。
不思議に思った使用人達が台所に入ってみると、なんと豊富に運び込まれていた食料は全て無くなっていた。
全ての部屋を調べ終えた騎士達は、特に何も言わずにウェスリッド家を出て行った。
「それにしても、ハシル様すごくタイミングが良かったですね。もうダメかと思いました」
「危ないところでしたが、間一髪間に合って良かったです。皆さん、よく耐えてくれました」
そう言いながら、ハシルはつい先刻のことを思い出していた。
突然、転移魔法でハシルの前に現れたトアが言ったのだ。
「ハシルさん、いきなりごめんなさい! ウェスリッド家に騎士達が来たみたい。食堂に転移するから、この袋に食料を詰めこんで!」
これまで屋敷の中に入ることはしなかった見張りの騎士達が来ているということで、緊急性を察したハシルは、素早く頷いたのだった。
(それにしても、トアさんにはいつも驚かされる。この屋敷の様子もどうやってか知らないが見守っていてくれたとは……お陰で助かった。万が一食料が見つかっていたら、奥様も危なかった)
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騎士達からウェスリッド家についての報告を受けたラーラルは「気のせいだったか」と呟いていた。
「久々にあいつの様子でも見に行ってみるか」
酷薄な笑みを浮かべてそう言うと、ラーラルは城の地下牢へと向かって行った。




