第13話 説明できない事象
その後フロイスは、義姉に似ているトアに親しみを感じたこともあり、たまに校内で会った時に話をするようになっていた。トアもフロイスは、秘密を共有する相手ということで信頼している。
実家の公爵家の救済については、フロイスは毎日のようにハシルと話し合っているものの、未だに解決策は見い出せていない。焦りは募るものの、事態を悪化させてはいけないこともあり慎重にならざるを得ないのだ。
今日も気分転換に校舎の裏庭を散歩していたフロイスは、そこでばったりトアに遭遇した。
日々増していく焦りが表情に出てしまっていたのだろうか、トアが不思議そうに話しかけてくる。
「フロイスさん、何かあったの?」
「ん? どうしてだい?」
「ここに、皺が寄ってるよ」
「ははは、いけないな。ついつい顔に出てしまっているようだ」
眉間の皺を指摘されたルロイスは、そう言いながら皺をほぐす。
ふと、トアならどう答えるだろうと、少しリラックスしたいという思いもあり、フロイスはトアに尋ねてみることにした。
「じゃあ、問題だ。もし、入ることができない家に沢山食料を運ばなくてはいけないとしたら、トアならどうする?」
少し悪戯っぽく言ってみると、トアは片眉をヒョイっと上げて言う。
「う~ん、そもそも入れない家があるかどうか分からない」
「門から先に入れないんだよ?」
「私は行けるから」
そう言うと、トアはえへへと笑う。
「どうやって?」
「地図とか間取りとかで位置が分かれば飛べるから」
「……」
フロイスは言われたことの意味が分からず、思わず無言になってしまった。
そんなフロイスを見て、トアが明るい声で言う。
「あ、じゃあフロイスさんの部屋から何か取ってくるから、部屋の位置と取って来る物を言って!」
思わず、そんなことあるわけないと思いながらも「まあ、何かの遊びかもしれない。こういうのに付き合うのもいいだろう」と思い、部屋から地図を取ってくることにした。
戻って、地図を見せながらトアに説明する。
「多分、僕の部屋がそのままなら、ドアの側に帽子が掛けてあるはずなんだ。それを取って来られるかな?」
遊びだと思ったフロイスが、ニヤッと口角を上げてそう言う。すると——。
「じゃあ、ちょっと待ってて!」
「……えっ……ぇえっ??」
突然トアが目の前から消えて目を瞬く。見回してみても見える範囲の裏庭のどこにも見えない。
「トアッ!!」
焦ったフロイスが大声でトアの名前を呼ぶと——。
「うわっ!」
いきなり目の前に現れたトアに驚く。更にフロイスを驚かせたのは、トアの手に懐かしいフロイス愛用の茶色い帽子が握られていたことだった。
「な、なぜ? どうやって?」
「転移魔法だよ」
屈託なくニコニコ笑うトアの言う意味が、なかなか理解できなかったが、しばらくして「転移魔法……?」と小さく呟いた——。
茫然自失のまま、その後何を話したか記憶にない状態で部屋へ戻ってきたフロイスは、独り言のように「転移魔法……」と口にしては考え込む。かつて古の賢者は使えたとされる転移魔法——。
(本当なのか? なぜトアが? 先日の治癒魔法の件といい、トアは一体……)
その異質性に背筋がぞくりとする。それらの魔法が使えるとしたら——。
(彼女は賢……)
そう思いつくと、手が小刻みに震え始めた。
(薄々……いや、最初から感じていたことだが、これは普通の秘密どころではない……世界のどこをひっくり返しても出てこないような世界が震撼する規模の秘密だ)
前アラキス帝国の皇帝の血筋には賢者の血が流れている。
(しかし、トアは皇帝の血族ではないし、ススリード王国の孤児だと聞いている……一体、どういうことなんだ?!)
冷静になるにつれ、答えの出ない思考に疲れてきたフロイスは「しかし」と考える。
「転移魔法があるなら可能性が色々と広がる……仮にトアが協力してくれたとしてだが……しかし、そうすると彼女を巻き込むことになってしまう……」
散々悩んだフロイスは、これ以上この巨大な秘密について一人で考えるのは無理と判断し、校長に相談してみることにした。
校長テリウスは、転移の話を聞くと目を輝かせて、何度もその時の状況を聞きたがったが、やっと落ち着くと「トアの意思を尊重するのが良いじゃろう」と言った。
その後、ハシルともその旨を共有してのだが、あまりのことに「なんとういうことでしょう……」と言ったきり言葉を失ってしまう。
(確かに、転移魔法はすごいし私達の希望だ……しかし、絶対に無理強いはしてはいけない。きちんと帝国の危険性を説明しなければ)
逸る気持ちを抑えながら、それから数日後、校長立ち合いの元、帝国の危険性も説明しトアの考えを聞くことになった。
結論はというと——。
「えっ、フロイスさんの家族食べ物がないの? それはなんとかしなくちゃ! うん、協力できるよ。ただ、私一人ならよくススリードに転移してるし慣れてるんだけれど、他の人を転移させたことはないから……ちょっと試してみないといけないかな?」
一同は『よくススリード転移している』という言葉を聞いて、ススリード王国が『よく行くお菓子屋』くらいに聞こえて来ることに驚愕していた。
校長テリウスは、髭を指先にクルクル巻き付けたまま止まっている。
「じゃあ、とりあえずハシルさんを宿に転移させてみようかな」
「わ、わたひが??!」
急に自分の名前が出てきて、ハシルは自分の名前も碌に言えない。
「ハシル……やってくれるか?」
「は、はい!」
「あ、わ、儂でも……」
「校長は、とりあえずここでクルクルしていてもらえますか?」
「はい……」
一瞬キラキラした校長の目がフロイスの言葉によってションボリする。一同が動揺を隠しきれない中、地図で宿の位置を確認していたトアが、ハシルの背に手を添えた。
「じゃあ、やるね」
「「「ちょ、ちょっと待っ……」」」
皆が言い終わる前に、ハシルは消えていた。




