第11話 祖国への思い
「おお、本当にハシルなんだな!」
待ち合わせの宿屋で、懐かしい執事の顔を見たフロイスが駆け寄る。
「フロイス様、お久しぶりにございます。こちらからお手紙も出せず、申し訳ありません」
「いや、伝え聞く情報で、帝国が依然厳しい状況というのは想像できていた。こちらこそ、力になれず申し訳ない」
「いえいえ、とんでもございません。奥様もフロイス様だけでも国外にいることで、心の負担が減っているとおっしゃっていました。それに、旦那様からも一切連絡のやりとりはしないようにと厳命されておりましたので」
「トーマス兄上は、その後どうしている?」
「はい……実は、旦那様はお城の地下牢に捕らわれています」
「何!? いつからだ?」
「最後にフロイス様にお手紙をお送りになられてから、すぐ後のことにございます」
「そんなに前から?! 義姉上は!?」
「フローリア奥様は、お屋敷に幽閉されております。ずっと監視の目が厳しく、やっと今回抜け出すことができました」
「なんということだ……」
「旦那様は、お城に連れて行かれる前、ご自分にもしもの事があれば、フロイス様を当主とするようにとおっしゃっていました。残念ながら、現在の旦那様のご様子は分かっていません。お屋敷では、残った者達でなんとか助け合って過ごしております。財産も没収され、必要物資にも事欠いておりまして、食料も乏しく……」
「そこまでひどい状況とは……」
ハシルから聞いた話が、想像していたよりもかなり過酷な状況で、フロイスは言葉を失う。これまで手紙や物資などを送ったこともあったが、ことごとく戻ってきており、フロイスは実家の状況を把握できていなかった。
「私に何かできることはあるだろうか……」
その後、ハシルと二人で物資の支援などについて考えを巡らせたものの、大量の物資は馬車を使わねばならず、屋敷の監視体制を考えると成功するとは思えなかった。
(支援が失敗すれば、余計に義姉上達の身を危険に晒すことになる。どうすれば良いのか……とりあえず最悪の場合、私の教員としての進退にも関わる。一応、校長には報告しておこう)
活路が見い出せず、フロイスは焦りばかりが募っていった。。
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魔法学校の教師ガルマ・バルザンは、サロンの貴族生徒達に、トアという少女に関して聞いてみようと、早速動き出していた。
魔法学校には、教員が開く様々なサロンがあり、永続的なものもあれば、何かを目的として期間を区切って集まるサロンも存在する。サロンへの入会は強制的なものではなく、退会も自由で教員と生徒の自由な活動で成り立っていた。
もちろん、学校の基本理念である「自由と平等の精神」の元に開かれるはずのサロンであるが、運営が自主性に任せられている故に、その理念からはみ出すサロンも存在していた。
ガルマのサロンはそういったはみ出したサロンの最たるものだ。サロンへはガルマの認めた生徒しか入会できず、その全ては生粋の貴族であった。
学校のサロン用に開放されている部屋の一つに集まった生徒達は、ガルマの用意した上質な菓子や飲み物を口にしながら、貴族同士の情報交換をしていた。
少しして、ガルマが部屋へ入ってくると皆が注目する。
「皆、寛いだまますごしてくれ。今日は、少し気になることがあって集まってもらったのだ。近頃、妙な噂が跋扈している。どうやら、孤児の娘が魔法学校に紛れて、在りもしないようなことが囁かれているようだ。何か知っている者はいるか? 名は、確か……トアとか言ったか」
ガルマがそう言うと、皆顔を見合わせ話し始めた。しばらくすると、何人かの生徒が手を挙げ発言する。
「私は、空を飛んでいたという突拍子もない話を聞いたことがあります」
「私が聞いたのは、ルルド王国の国王に呼ばれたという話です」
「編入試験の時に何か大きな音がしたので、すごい魔法を使ったんじゃないかという噂を聞きました」
「なるほど、どれも本当だとすれば凄いことだが、万に一つもそれはないだろう。そもそも、そんなにすごい魔法が使えるならば、とっくに出身であるススリード王国の貴族の養子になっているはずだろう?」
現に姉のリアは貴族の養子となり、甥の第三王子ダストンの婚約者になっていることを思い、ガルマはそう生徒達に言う。生徒達はそれもそうだと頷き合っている。
(姉のリアの魔力が多かったというから、編入試験でも少し威力の強い魔法でも放ったくらいだろう。王宮に呼ばれたというのも、たまに学校の生徒の王宮訪問なども開催されているから、大方そんなことだろう)
しかし、妹であるカーラからの手紙に「懲らしめてほしい」と書いてあったことを思い出し、何か良い手はないかと思案したガルマは、とあることを思いつくとほくそ笑んだ。
(今度行われる合同授業を使えばいい。トアはあの平民ロジャーのクラスであるし、貴族が上だということを分からせる為にも良い機会ではないか……)
ガルマの瞳は満足そうに、仄暗さを増した。




