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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第三章

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第10話 お伝えしなければ……

 

 古の賢者ルーラル・アラキスが初代皇帝として建国したアラキス帝国は、代々その血脈が続いてきたが、十年ほど前に当時の侯爵家当主だったダルーガ・バールが、政変を起こしてバール帝国を建国したことで終焉を迎えた。 


 ダルーガは、元々魔法が得意でなく身体能力の高さで軍部のトップにいたが、より強い帝国を掲げて政変を起こしたのだった。当時、軍内部も皇帝派と反皇帝側に分かれたが、当時の皇帝の弟の養女で、魔力量が多いカッシーナ・アラキスが反皇帝側に加わったことで、反皇帝側が勝利した。その後、カッシーナは、皇帝となったダルーガの正妃を側妃へと追いやり、自分が正妃の座に収まったのだった。


 前皇帝ウィズダブラ・アラキスの娘で、ウェスリッド公爵家に嫁いだフローリア・ウェスリッドは、政変以降、屋敷に軟禁状態であった。前皇帝を担ぐ一派を恐れて、現皇帝ダルーガ・バールが監視に兵を常駐させている。社交界はおろか外出も一切許されていない状態だった。

 ダルーガの現皇帝としての地位が安定するにつれ、フローリアの待遇は、より一層悪くなっていった。今は公爵家とは名ばかりで、屋敷も手入れされず名実ともに落ちぶれている。

 公爵家当主でありフローリアの夫であるトーマス・ウェスリッドは、政変以降、その他の前皇帝派の貴族達と一緒に城の地下牢に投獄されていた。


 トーマスには、優秀な弟フロイス・ウェスリッドがいるが、魔法学校卒業を目前に控え国で政変が起こったことから、そのまま魔法学校の教師となり、今では理事に就任している。フロイスは、本当は国に帰りたかったのだが、兄のトーマスの命令で魔法学校に残ったのだった。



**

 ウェスリッド公爵家の執事ハシルは、やっと少し緩くなった監視をかいくぐり、屋敷の者達が少しずつ出してくれた金で、魔法学校にいるフロイスに会いに行こうとしていた。ウェスリッド家の財産は没収され、毎月僅かな額が支給される状況で、食料調達すらままならない。「このままでは、フローリア奥様は死んでしまう」そう思ったハシルの決死の行動であった。


「ハシル様、どうかご無事で」

「トマリ、どうか奥様のこと、頼みましたよ」


 フローリアの侍女として長年仕えているトマリは、目に涙を溜めてハシルを見送った。ウェスリッド家がここのところ静かに過ごしていたことで、見張りの兵の目も緩くなっていたことが幸いし、ハシルは無事に屋敷を抜け出すことが出来た。


 夜の闇に紛れて魔法学校を目指す初老のハシルは、二年ほど前のことを思い出していた。


(結局、ススリード王国のドリアム様からの返事は無かった。手紙は渡らなかったのだろうか……)


 二年ほど前に、トーマスやフローリアの魔法学校時代の学友であり、ススリード国王の王弟で騎士団長のドリアム・ススリード宛に、屋敷の者が手紙を運んだが、結局、何も返事は来なかった。

 実際にはドリアムへ手紙は渡ったのだが、その直後ドリアムもその屋敷の者も何者かの毒に倒れたのだ。しかし、外界の情報もほぼ遮断されているハシル達は、その事を知る由もなかった。


 ハシルは馬車を乗り継ぎ、ようやく無事に魔法学校に到着することが出来た。

 魔法学校は今日から新学期が始まるとのことで、学内には沢山の生徒達の声で溢れている。


 早速、事務所でフロイスの場所を訪ねると、すぐにフロイスに連絡をしてくれた。フロイスから宿に行くと返答があったとのことで、ハシルは指定された宿に行くことにした。

 廊下に響く生徒達の笑い声に、平和な雰囲気を感じてハシルの心も少し落ち着いてくる。政変後、当主が捕らわれ、奥様も幽閉され、毎日恐恐としながら残った屋敷の者達で助け合って生きて来た。そんなハシルが、久しぶりに外の普通の世界を実感できた瞬間だった。


 前方から女子生徒二人が楽しそうに歩いてくる。微笑ましく見ていたハシルだったが、近づいてきた生徒達の片方に目が釘付けとなった。


(奥様に大変よく似ている……)


 一瞬驚いたハシルだったが、魔法学校は様々な国から生徒が集まるので「そんなこともあるか」と思うのだった。



**

 魔法学校の教師であるススリード王国出身のガルマ・バルザンは、ススリード王国側妃カーラ・ススリードの実家であるバルザン侯爵家当主であり、カーラの兄である。

 この日は、久しぶりにカーラから手紙が届き読んでいたのだが——。

 手紙には、ガルマの甥であり第三王子のダストンが、婚約者のリアを正妃でなく側妃にする事にしたこと。その際に魔法学校に在籍しているリアの妹がどうやってか、ルルド国王経由で文句を言ってきたことが書かれていた。


(何だと、そのリアやトアという娘は孤児院出身と書いてあるではないか。そのような下賤の者が、王族や由緒あるこの魔法学校に名を連ねるなど、許されないことだ)


 そう考えたガルマは、自分が対処するので安心するよう、カーラへ返事を書いた。


(しかし、ルルド国王がそんな小娘の話を聞く機会などないだろう。大方、慈善家気どりの貴族の誰かが、教師から聞いた話を王に吹き込んだに違いない。とりあえず、サロンの学生達に話を聞いてみることにするか)


 この時の自身の浅はかな考えが、いずれ強大な権力を呼び起こすことになるとは、ガルマは知る由もなかった。



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