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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第三章

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第9話 暴風に注意!

 

 ——トントン——


「ピオット先生、いるー?」

「トア?」

「あ、先生いたいた! うん、アンドール兄ちゃんどこか知ってる? 聞きたいことがあるんだけど」

「トア、そのことで話がある。落ち着いて聞いてほしい。アンドールが怪我をした。幸い命に関わるようなことじゃないが……」

「どこ? 案内して!!」


 ピオットはすぐさまアンドールが寝ている部屋へ案内した。


「傷のせいで熱が出ているんだ」

「包帯、真っ赤じゃない! 何があったの?!」


 そう言いながらトアはアンドールの肩に手に手を翳す。

 治癒魔法により傷が塞がると、アンドールの呼吸も穏やかになった。


「実は……」


 ピオットは何度もトアに「落ち着いて」と繰り返しながら、デニスからの報告と合わせて状況をトアに説明した。


「ひどいね。誰の仕業?」


 そう短く言ったトアの顔を見てピオットは「まずい」と瞬時に悟る。

 トアの綺麗なオッドアイが、まるで森の奥深くの湖面のように凪いでいる。


「トア、魔法は恐ろしいものだ。人を簡単に傷つけられる。だから……」

「でも、魔法じゃなくても簡単に人は傷つけられるでしょう? アンドール兄ちゃんみたいに」

「……そうだね。でも、アンドールを傷つけたのは悪い奴らだ。トアはそんな奴らと同類になっちゃいけない。アンドールだって、自分の為にトアがそんなことをするのは望まないさ」

「アンドール兄ちゃんは優しいからね」

「トア、傷つけるより、守ることを今は考えよう。リアはレスト子爵家にいるはずだ。リアが貴族様の家ででも快適に暮らせるように魔法を使ってみてはどうかな?」

「……うん。王様が手紙を書いたから、多分リアは連れ戻されたんだと思う。私が王様にお願いしたせいだ……。分かった。リアの生活のために何ができるか考えてみる」


 ほっと一安心したピオットは、トアの背中をヨシヨシと撫でて送り出した。



**

 疲れ切って寝ていたリアが目覚めたのは、日付が変わる少し前だった。


(そういえば、食事は今後どうなるのかしら? あれっ、なんかいい匂い……)


 リアが倉庫の中を見回すと、机の上にスープやパンに肉料理が置かれていた。


「えっ、すごいご馳走! 何か罠だったりして……」


 怪しみながらも、あまりに美味しそうな食事に、思わず一口スープを啜る。


「美味し~い!」


 あまりの美味しさに食べる手が止まらない。二口、三口と食べ進めていたが、食事の脇に手紙が置いてあった。


「防犯撃退センサー??」


 手紙の説明には、リアが今いる倉庫に防犯撃退センサーを掛けたと書いてあった。


「悪意のある人が近づくと吹き飛びます?? 本当だとしたら、かなりすごい効果だけれど……多分、お湯にする箱や透明の収納袋を送ってくれた方と同じ人よね……すごく心強い。でも、なんで気に掛けてくれるんだろう?? それにこんな価値の高いものばかり……お礼も言えていないわ」


 不思議に思いながらも、強い味方の存在に、これからの倉庫生活でもやって行けそうな気がして明るい気持ちになるリアだった。


 一方、部屋で謹慎を命じられ、食事も抜かれていたチェリーの元にも美味しい食事が届けられていた。食事には「リアの友人チェリー様へ」という言葉が添えられていた。



**

 リアが起きる少し前、レスト家の長女ミシェルは、リアの様子を見にこっそり倉庫に来ていた。


(ふふ、今頃泣いている頃かしら。お父様に言って食事抜きにしてもらったし……)


 こっそり覗いてやろうとやって来たミシェルだったが、倉庫の扉に手を掛けた瞬間、凄まじい威力の爆風が吹き、後方へ吹き飛ばされた。



「ギャァアアアア!」


 貴族の令嬢にあるまじき声が出た。後方が草むらだったから、ゴロゴロ転げた末に止まることができたが、木の幹があったら骨折していたかもしれない。

 結局、ミシェルはあまりの恐ろしさと切り傷の痛みで、ヨロヨロと屋敷へ戻ったのだった。



**

 またここにも一人、リアの境遇をほくそ笑む者がいた。学院でリアと同級生のエイミー・デアーズある。エイミーは、リアが正妃としての婚約者でなくなったことをいい気味だと、この所上機嫌であった。


(第三王子の正妃の座は未だ決まっていないわ。学院の生徒で、側妃様のお茶会に招かれたという子は聞いたことがないし、私だけじゃないかしら? もしかしたら、側妃様は私に期待していらっしゃるのかも……)


 学院が休暇にはいっていることもあり、ここ最近エイミーはそんな妄想ばかりしていた。


(リアは悲しんでいるかしら? うふふ、成績がいいからって生意気な態度だったから罰が下ったのね。ああ、学院が休暇でなければ、リアの様子が見られるのに……そうだわ、同級生ですもの、リアを訪ねてみてもいいかも……側妃様から誘いがあった時に様子を聞かれるかもしれないし)


 リアが悔しがる様を見て、優越感に浸りたいエイミーはその欲求を抑えられなくなっていた。

 早速、レスト家に手紙を書くと、本人やチェリーからではなく、レスト家の長女から返事が来た。


 レスト家を訪問すると、早速執事に案内されたのだが、屋敷の中ではなく外の倉庫の前に着き、エイミーは驚く。


「驚かれるでしょう。しかし、レスト家では側妃になられるリア様へ只今、厳しい躾を行っておりますので」


 そうにこやかに告げた執事の言葉に、エイミーも笑みを返す。


「とても良く理解できますわ」


 その返事に満足そうな様子で執事は去って行った。


(ふふふ、まさかレスト家でこんな扱いを受けているとはね……ダストン様やカーラ側妃様が知ったら、とても満足なされるでしょうね)


 そうして倉庫の扉を開こうとしたのだが——。


 ——ブォッ——


 その音が風の音だったか、エイミーの喉から発せられたものだったか定かではないが、瞬間的に直撃した爆風で、エイミーは後方へ吹き飛んでいた。先日のミシェルの着地点とほぼ同じ位置で、エイミーは尻が上に向いた状態になっていた。


「だ、だでか、だずげ……で……」


 と、恐怖のあまりそのままの恰好でなんとか喉から声を絞り出したものの、無論、そこには静寂が広がるのみだった。

 しばらくして、コロンと横に倒れ、ゼイゼイ息をし始めたエイミーは、涙と鼻水と草でぐちゃぐちゃの顔のまま、ヨロヨロとレスト家の門から出て行ったのであった。


 その時、倉庫の中のリアは、先日また謎の人物から届けられたフワフワの羽毛布団にくるまって、至福の昼寝時間を堪能していた。


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