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トア・リア物語~双子の妹は姉を助けるため無自覚に無双する~  作者: 河童紀心
第三章

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第8話 救世主

 

 ——バシュッ——


 交わし損ねた短刀がアンドールの肩を切り裂いた。たちまちアンドールの服が赤く染まって行く。


「アンドール!!」


 男達はそれ以上襲ってくることはなく、ニヤニヤしながら見ている。


「ほら、リアちゃ~ん! 騎士様倒れちゃいましたぁ。早く出てこないと、皆こうなっちゃうよ?」


 シスターマリーに窓に近づかないよう言われていて、外の様子は見えないが、会話から最悪の事態が想像できたリアは、マリーの静止を聞かずに孤児院から飛び出した。


「アンドール兄ちゃん! ごめん! ごめんね……」

「リアちゃん、出て来ちゃだめだ!」


 デニスが慌ててリアを制するが——。


「ごめんなさい、アンドール兄ちゃんをどうにか助けてください」


 そう言うと、リアはキッとするどい瞳を男達に向けた。


「私は、第三王子ダストン・ススリード様の婚約者です。レスト子爵家へ連れて行きなさい」

「ひゅ~っ、かっこいいね~でも、嘘言っちゃいけないよ。だって君、孤児だもん」

「ははははは、ちがいねぇ」


 事情を知らされていない男達はリアを取り囲み、手を掴んで無理やり連れて行こうとした。そこへシスターマリーが走って来る。


「レスト子爵家へ私も一緒に行きます」

「シスターマリー、ダメ、戻って!」

「いいえ、リア、あなた達は私が守るわ。私の家族なんだから」


 リアの頬を涙が伝う。

 しかし、そんな思いを下品な笑い声が踏みにじる。


「はいはい、感動だね~せっかく来てくれたんだから、マリーちゃんも俺達と遊ぼうね」


 そうして、男達が二人を連れて行こうとしていた時、突然すぐ側で声がした。


「お前達、私の同僚に手を出した覚悟はできているな?」


 その言葉を聞き終えた時、男達は急にバランスを崩し地面に倒れていた。何が起こったのか瞬時には分からなかったが、数秒して足に鋭い痛みを感じ、のたうち回る。


「ハッ、ハッ……ア……うぁああああ」


 男達は全員、足の腱を切られて血を流していた。

 お互い抱き合って地面に座り込むリアとシスターマリーの後ろから、落ち着いた声が響いた。


「シスター、それにリア嬢、大丈夫ですか?」

「は、はい。貴方は?」

「騎士団の医師ピオットです」


 驚いた表情のシスターマリーの後ろには、スラッと背が高いピオットが立っていた。


「ピオット医師! 来てくれたんですね!」

「デニス、アンドールの具合は?」

「急所は避けているようですが、出血量が多いです」

「そうか、急いで騎士団へ運ぼう」


 ピオットの後から遅れてやってきた騎士達に指示を出し、ゴロツキ達を縛り上げると、ピオットは乗って来た馬車にアンドールを乗せて去って行った。


 馬車の中のピオットの表情は暗い。


(まったく、どこまで馬鹿な連中だ……アンドールのこともじきにトアは気付くだろう……)


 ピオットの緑色の瞳は眼鏡の奥で増々険しさを増すのだった。


 一方、とりあえず落ち着きを取り戻した孤児院では、リアが子爵家へ戻ろうとしていた。


「リア、本当に行くの?」

「うん。またこんなことになったら……これ以上、後悔したくない。私なら、大丈夫だから。味方もいるんだよ! アンドール兄ちゃんに『ごめんなさい』って伝えておいて。それから、トアによろしくね」

「リア……」


 努めて明るくそう言うリアに、シスターマリーは掛ける言葉を失う。

 結局、それからすぐにリアは孤児院を出て行った。



 重い足取りで、レスト子爵家の門をくぐったリアは、待ち構えていたダーミー・レスト子爵と長女のミシェルの顔を見て、心臓が押しつぶされるような恐怖を感じる。

 ところが、予想に反して二人がリアを罵倒したり、手を上げたりすることはなかった。驚きつつも、リアが屋根裏部屋へ行こうと階段を上がり始めると、ダーミーが声を掛けた。


「おい、お前の部屋はこれから外だ」


 それだけ言うと、二人はニヤリと嫌な笑いをして去って行った。

 その後、執事に案内されてリアが向かった先は、庭の倉庫だった。


「本日から、こちらがリア様のお部屋になります」


 長年レスト子爵家に勤める執事は、表情も変えずにそれだけ言うと去って行く。

 倉庫の中には、屋根裏部屋で使っていたベッドなどの最低限の家具はある。


「場所が屋根裏から倉庫になっただけね……でも気温の影響は前より少し大きくなるかしら。でも、あの家から離れているのは、精神的にはいいかもしれない。チェリーには会いたいけれど……」


 そう独り言を言うと、リアは色々あって疲れた身体をベッドに投げ出した。これまでならこんな格好は淑女にあるまじきと自分を律する所だが、理想とは程遠い貴族の姿を見続けて来た今は、淑女教育や貴族の在り方など従うだけ意味のないものに感じる。

 そのまま深い眠りに陥ったリアは、その間起こっていた外の出来事には、一切気づくことはなかった。



**

 カミドの薬草専門店で、いつも通り治癒の魔道具作成を終えて寮に帰って来たトアは、早速遠視の魔法を使って、孤児院の様子を確認した。


「今日も皆仲良く食事しているな……あれっ、リアはどこに行ったんだろう? もしかして、ルルドの王様が手紙を書いたから、何かあったのかなぁ?」


 念のため、リアの学院の寮やレスト子爵家の屋根裏部屋を確認したトアだったが、リアの姿を確認できなかった。


「リア、どこにいるんだろう? アンドール兄ちゃんに確認してみるかなぁ」


 そう考えたトアは、アンドールの元へ転移した。


「あれっ、アンドール兄ちゃん部屋にいない……ピオット先生いるかな?」


 そう思って、ピオットの部屋へ向かった。


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