第26話 国王との謁見
王宮に到着したトア、リーニャ、ルミオンの三人は、係りの人に案内を受けて謁見の間に通じる控室の椅子に座った。他にも十名ほどが座っていた。すぐに国王と王妃が入場されたとアナウンスがあり、名前が呼ばれた順に謁見の間に入場する。
中央の赤いカーペットの両側には沢山の貴族が立ち並んでいて、それを見たルミオンの手がブルブルと震え出す。
名前を呼ばれたら、国王と王妃の御前に行き作法通り片足をついて、許可があるまで頭を垂れたまま待つのだが……。
「もっと近くに来るように」
最後に呼ばれた三人の時には、国王からこの言葉が数回あり、気が付けば本来の位置より十歩ほど前に出ていた。やっと許可が下りて三人が顔を上げると——。
「そうか、君達が……」
国王はそう言うと、王妃エリアーヌと顔を見合わせて微笑み合う。三人が疑問に思ったところで、国王から今回活躍したことの労いと報奨についての話があった。その後、他の参加者や貴族達にはパーティー会場へ移動するよう指示が出される。
「君たち三人は、少しこのまま残ってほしい」
他の貴族達が皆いなくなると、国王ミカルダスと王妃エリアーヌが、壇上の椅子から降りてきた。まず話しかけてきたのは、王妃エリアーヌだった。
「三人とも、よく顔を見せてちょうだい……。まぁ、本当に魔法学校の初等部の生徒さんなのね」
「こらこらエリアーヌ、三人が驚いているではないか。皆、すまぬな。今回のことは元より、あの治癒の箱がなければ、今も妻は寝たきりだっただろうから、本当に感謝しているのだ」
「皆さん、私を、そして国民を救ってくれて本当に有難う」
国王と王妃に目の前で感謝されて、三人は、恐れ多いのと恥ずかしいのでどぎまぎしてしまう。
「そうだ、トア。君に是非見せたいものがあるのだ。この手帳に書かれたメモ書きのようなものなのだが……」
そう言いながら国王が懐から取り出したのは、古そうな革表紙の手帳だった。
「これは、ルルド王家に伝わるもので、古の賢者ルーラル・アラキスが書いた物と言われている。どうも魔法に関するメモ書きのようなのだが……現在、王国の魔導士は誰一人としてこれらの魔法を使うことはできない。だが、治癒魔法が使える君ならもしかして、と思ったのだ。君への特別褒章として、このメモ書きを読んでみて欲しい」
「ありがとうございます! 読ませていただきます!」
それまで緊張していたトアだったが、古の賢者のメモ書きと聞いて心が躍る。これまで町の図書館や、リアが滞在しているレスト子爵家の蔵書なども読んでみたトアだったが、あまり自分の魔法の参考になるようなものはなかった。魔法学校の授業は、基本的に五大属性魔法の話ばかりだった。たまに、古の賢者ルーラル・アラキスについて触れることもあったが、大抵が「賢者は例外です」という説明で出てくるだけだった。ただ、トアの魔法はよく「規格外」と言われることから、なんとなく例外と言われている賢者に親しみを持っていた。それに「学校の名前にもなっている昔のすごい魔法使いのメモが読めるんだ」と素直に嬉しくなる。なまじその価値が分かる者なら、その手帳を捲る手が震えたかもしれない。
無言で手帳を捲り続けては、時々「これはどういう意味ですか?」と難しい言葉の意味を聞いてくるトアに、王妃エリアーヌがかみ砕いた言葉で教えている。しばらくするとミカルダスが声を掛けた。
「どうだろう、書いてあることは理解できそうか?」
「はい、例えばここに書いてある魔法ですが、多分このことかなと……」
そう言った途端、トアの身体がフワリと浮き上がり、一同が目を見開く。
「そ、それは浮遊…………なんということだ……実際にこの目で見られるなんて……こんなことが……」
ミカルダスは感動してそう言うと、妻エリアーヌと頷き合っていた。
その後、トアは自分が箱に込めた治癒魔法についても書いてある場所を発見して喜んでいた。その様子を見ながら、国王ミカルダスは心の中で呟いていた。
(トアは……恐らく、大陸中でも最も重要な存在なのかもしれない。そんな存在が妻の窮地を救ってくれた事は、感謝しかない。私の権力の及ぶ範囲で、トア達を守ろう。しかし……幼くしてこれほどの魔法の力を持っているのなら、ひけらかしたくもなるそうなものだが……)
「トア、君はなぜその魔法の力を隠しているのだ?」
「悪い貴族様に利用されたくないからです。姉のリアを、ススリード王国の第三王子や貴族の虐めから助けたいんです」
「ちょ、ちょっとトア」
「あ、ごめんなさい。貴族様のこと言い過ぎました」
「ははは、我が国の貴族ではないのだし気にすることはない。それに、今日この場で話した内容は秘匿する故、心配は無用だ」
そう言って笑うミカルダスは、心の中で「心配するべきはススリード王国の貴族達だろう」と思うのだった。
その後、トア達三人もパーティー会場へ移った。トアもルミオンも、これまで見たこともないような豪華な食事の数々に目を奪われ、緊張していたことも忘れて食事を頬張っていたのだが、そこでちょっとした問題が起こる。
それは、第三王子カイザス・ルルドが三人に話しかけてきた時のことだった。
「やあ、君達が魔法学校の生徒達だね」
「「「はい」」」
「僕はカイザス・ルルド。この国の第三王子だ」
「わぁ、王子様っぽい……です」
「こら、トア、思ったことをそのまま口にしない!」
「ごめんなさい」
「ははは、全然構わないよ。それに王子っぽく見えるのならこんな服を着ている甲斐もあるってものさ」
そう言ってカイザスは自分の袖口のレースをヒラヒラと振って笑う。トアはトアで——。
(あ、この王子様もススリード王国の第一王子様と一緒で、話しやすい人だな~)
などと呑気に思っていた。
「君達には、僕も感謝を伝えたくてね。今回、病の流行の地に部下達と行っていたんだ。正直、最初はすごい被害になりそうだと思っていたんだよ。でも、君達が作成してくれた箱が届いて状況が一変した。薬草が練りこんである箱で、お守り代わりに使うようにと、届けた医師からは聞いていたけれど、その箱が届いてから病が収束していったんだ。本当にすごいお守りだよ、有難う」
「「「いえいえ」」」
三人は揃って首をブンブン振る。その後も談笑は続いていたのだが、突如、後ろの方から騒めきが聞こえてきた。
甲高い令嬢の声がだんだん近づいてくる。それと共にカイザスがやれやれといった顔になった。
「カイザス殿下、お探ししましたのよ」
「これはこれは、トーラー公爵令嬢」
「嫌ですわ、殿下と私の仲ですのに。どうぞミレイヌとお呼びくださいませ」
「いえいえ、婚約者でないご令嬢を、名前で呼ぶわけにはいきません」
このやりとりを見ていたリーニャが「うわ~」という顔をする。トアは、何が起こっているのか分からずに、また、理解する気もなく「ほへ~」と遠くのご馳走を見ていた。しかし、そんなトア達へいきなり矛先が向けられる。
「殿下、そんな平民といらっしゃることはありませんわ。こちらでお話しましょう」
一瞬、トアと目が合ったトーラー公爵令嬢は、何故かギリリと頬を吊り上げそう言った。トアは怪訝な顔をするが、リーニャは「まあ、トアは可愛いからね~」とニンマリする。
「トーラー公爵令嬢、こちらは今回の件の功労者達だ。例え功労者でなかったとしても、私は時として民達の声を聴く必要のある立場だ。特に話がないのなら、邪魔をしないでもらいたい」
「な、何をおっしゃいますの? 私より平民の方を優先されるとい……きゃっ、なにを……」
しかし、言葉はこれ以上聞き取れなかった。年配のご婦人方に強引に手を引かれて連れて行かれたからだ。
「ふぅ、皆、悪かったね」
「王子様も大変ですね」
「こらっ、トア!」
「あっ!」
「あはははははは、君達は本当に面白いな」
こうして、ドキドキしていた謁見の日は無事に終わり、お目当ての報奨金ももらえて大満足で帰路に着いた三人だった。
当人達は舞い上がっていて気付いていなかったが、このパーティーで三人は注目を浴びており、特に財務大臣のケーニス・ココルト侯爵は、パーティー会場でも三人の近くにいてよく観察していた。
(王は三人に何を話したのだろう? 最近の国の支出にも載っていた薬草専門店が販売する箱に関係する者達だったか? しかし、確か値段も高くなく、お守りのような名目で購入されていたように思う。しかし……そうだ、王妃が回復された時も誰かが『箱』と言っていなかったか……何か関係があるのだろうか)
そんな考えがふっと過ったが、いやいやと打ち消す。
(何かあるのでは、とつい考えてしまうのは私の悪いクセだな)
意外にも、このケーニスの考えはひょんなことから繋がることになるのだった。
いつも読んでいただき有難うございます!
これにて二章が終わりです。明日から三章に突入します♪
ブックマークや評価をしていただく度に、毎回「ほわっ?!(゜〇゜*)」となっております。
そして、眺めては「有難いなぁ~」と呟く毎日です!
前作では無かったと思われる機能リアクションも、初めて付けていただきました!嬉しい~(^^)
皆様、本当に有難うございます!!(^0^)
これからもトア&リアにお付き合いいただければ幸いです♪




