第25話 自業自得な者達
「な、なんだ貴様、なぜ動かない……ぐぬぬぬぬぬぬ……」
トビアーヌ子爵の使いの男がカミドを引きずろうとしているのだが、カミドの身体はびくともしない。これまで心配そうに見ていた店内の客達の間からは、クスクスと笑いが漏れ始めた。
「くそっ! このやろう! 痛っ!!」
男はカミドに殴りかかったのだが、カミドはケロッとしており、殴りかかった男が拳を押さえて蹲ってしまう。
「トア、何したの?」
「カミドさんを硬化したの。あと、二人とお店には念のため結界魔法を掛けておくね」
「「う、うん、有難う」」
もう深くは考えないことにしたリーニャとルミオンは、とりあえずトアに礼を言った。
その後、使いの男は痛そうに拳をさすりながら戻って行ったが、また性懲りもなく、今度はケイソン自身が店に現れた。しかし——。
「ふんっ、この店か! ぐあっ!!」
店に入ろうとしてトアの張った結界に弾かれ負傷を負う。そして、駆け付けた騎士団員に捕縛されたのだった。
こうしてあっけなく捕まったケイソンについては、他の薬草専門店もケイソンの買い占め被害を受けていたこともあり、調査は徹底的に行われた。ケイソンは騎士団の尋問ですぐに音を上げ、洗いざらい話したことで、一連の事件は早期に解明されることとなる。ケイソンは投獄され貴族籍も剥奪されたが、ケイソンの妻はこの件について一切感知しておらず、捜査へも協力的だったことから、トビアーヌ家は男爵に格下げされたものの、妻が男爵家当主となることが認められたのだった。
獄中生活を送るケイソンの元には、妻も子供達も面会に来ない。
「何故、誰も来ないんだ! 俺は薬草を買っただけだぞ!! これは貴族への対応じゃないだろう、なんなんだこの固い食べ物は!? …………う、うわっ、うわぁ! 虫だ! 食べ物に虫がいる! 誰かいないのか! 誰でもいい、来てくれ!!」
それから三か月が経つ頃には、ケイソンの髪は真っ白になり「ルカッド……ああ、良かったルカッドの言う通りだ……」と意味の分からない言葉を繰り返すばかりとなったのだった。
このルカッドについては、その後調査されたものの、会う時には大抵ケイソンが一人で会っていたこともあり、情報も少なく足取りは掴めないままだった。
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ケイソンの捕縛から間もなくの頃、カミドの薬草専門店では、トアが素っ頓狂な声を上げていた。
「ぇえーっ!! 私が王様に会うの??! なんで?」
「なんでって、この治癒の箱の功労者だからでしょう? 今回、地方都市ミスタで起こった流行り病にこの箱が役立ったって誉めてもらえるのよ。光栄なことだわ」
「そりゃ、リーニャは貴族様だから慣れてるだろうけど」
「うんうん、僕だって二人が一緒に呼ばれているってことで、なんとか気持ちを落ち着かせているけど、すっごく緊張してるよ」
「大丈夫よ、二人とも。まだ私達は子供なんだから、多少のことは許されるわ」
「その多少が分からないんだよー!」
トアが頭を抱え、ルミオンもうんうん頷いている。
王家から今回の件での功労者を労いたいと、ご丁寧に手紙が来たのは今朝のことで、学校が終わっていつも通りカミドの店にやってきた三人は、カミドに淡々とそのことを告げられ、びっくりしたのだ。リーニャは貴族のため、驚きはしたものの落ち着いているのだが、他二人は落ち着く事は無理だった。しかし——。
「もし、報奨金が出たら、それで美味しい物が沢山買えるかもよ? それに、王宮でも美味しい料理が出るわよ?」
リーニャが放ったこの一言に、トアとルミオンは顔を見合わせ頷き合ったのだった。
それからしばらくして、王宮へ向かう日がやって来た。三人は話し合って学校の制服を着ていくことにした。魔法学校の制服は公式行事でも着用を許されているのだ。
リーニャの言葉が効いているのか、朝からトアは「報奨金♪ ご馳走♪」とルンルンだが、その言葉の効果が切れてしまったルミオンは青い顔をしていた。
「こら、ルミオン、しっかりしなさい。リーニャもトアもオドオドしていないだろう? 三人いれば大丈夫だ」
「はい、父さん……行ってきます」
「カミドさん、行ってきます」
「ルミオンはまかせて!」
その様子を見て、頼もしい子たちだとカミドは笑った。
王宮に向かう馬車の中で、リーニャは数日前、ルルド王国の隣ガルトア王国にある実家に戻った際の姉の様子を思い出していた。
「な、んで、お前がルルドの王宮なんかに呼ばれているの!?」
すでに実家にも連絡が来ていたようで、リーニャの顔を見るなり姉のシルビアはそう言って来たのだが……。随分苦しそうな様子で、階段をゼイゼイ言いながら降りてきたのだ。それもそのはず、リーニャの侍女マルカに呪いをかけたのは、恐らくシルビアで、トアがその呪いを解呪したものだから、その呪いが撥ね返ったのだ。侍女のマルカは以前、呪いで首の辺りを中心に痛がっていたが、今はシルビアが首を押さえ痛そうにしている。
(やはりお姉さまだったのね……)
「お姉様ごきげんよう。必要な物を取ったら、すぐに戻りますので失礼いたします」
「な、に生意気なこと、を! こっちに来な、さい」
しかし、リーニャはふわっと礼だけして立ち去った。姉の様子から、侍女も全て解雇してしまったのだろうと想像できた。寝間着のまま、髪はボサボサで、以前とは見る影もない。
(マルカは同じ呪いを受けた状態でも、気丈に振舞っていたわ)
人に当たり散らす性格を直さない限り、こういう状態になった今、誰も姉に寄り付こうとしないだろう。でも、それを指導するのは両親なのだ。姉に虐められている時に両親に庇ってもらった記憶はないが、せめて姉の面倒は見て欲しいと思うリーニャだった。




