第23話 火急の知らせ
ルルド王国の第三王子カイザス・ルルドは、王都から馬車で一日ほどの地方都市ミスタへ視察に赴いていた。ミスタは東西に長い都市で、その端は隣国とも接している為、昔から交易が盛んで視察も頻繁に行われていた。今回も他国の文化を取り入れ独自に発展したこの都市特有の美味しい料理を堪能できると密かに楽しみにしながら、カイザスはミスタへ入った。しかし、都市に入ってしばらくすると、いつもなら賑わっている町に活気がないことに気付いた。
「キール、どこか町の様子が違うようだが?」
「はい、何故か閉まっている店が所々に見受けられますね」
カイザスの側近であるキール・パノンも不思議そうにそう答え、すぐに数人に聞き込みをするよう指示を出す。
その後、一日目の宿に到着した王子一行は聞き込み部隊から話を聞いた。
「……すると、その村から流行性の病が広がってきたということか……」
部隊の報告によると、ここからそう遠くない村で病が流行し、それがどんどん広がっているという。最初は風邪のように思えたその症状は発疹も起こり、熱が下がらずに衰弱死する者も出ているという。急速に広がったことや薬草の不足も相まって、未だに町の医者も流行性の風邪という者もいれば、新種の病だという者もいて混乱しているという。
「急速に広まった混乱により、王都まで報告が来ていなかったのか」
「そのようですね。しかし、薬草がかなり不足しているようで、対処療法もできていないというのは……」
「そうだな、そこは普段の薬草の管理状況を確認しないといけないな。しかし、まずは至急王都に連絡だ」
「は、すぐに手配いたします」
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執務室で第三王子カイザスからの視察報告を読む国王ミカルダスの表情は険しかった。すぐに王宮医師団長であるタムーリー・カルが呼ばれ、対応が話し合われる。
「カイザスによるとほんの数日で一気に広まったとある」
「そうですね、交易都市で人の交流が盛んだということを考えますと、さらに爆発的に国内に広がることも考えられます」
「一刻も早く封じ込めなくてはならないが、薬草も乏しく病の特定もきちんと行われていないようだ。何より現地の医者達は患者への対応で手一杯とある。しかし、今から王宮医師団を派遣して特定を急いでも、この爆発的感染は防げないかもしれない」
「……陛下、あの箱は量産できるのでしょうか……」
ミカルダスは、タムーリーがそう聞いてきたことに少し驚く。自身の頭の中でもチラチラとあの魔道具の箱については考えていたのだが、王宮医師団長であるタムーリーは、あれが治癒魔法の込められた物だとは知らず、不思議なお守りのようなものと思っているはずだった。だからこそ、そういう箱を国王が頼ろうとすれば、医師であるタムーリーへの礼に失すると思い、それを持ち出すのは最後にしようと思っていたのだ。
「陛下、私は陛下が何より民の生活を大切に国造りをされていることを知っております。どうぞ私達への配慮などなされませんようお願い申し上げます。長年医者をやってきまして、衰弱していく王妃様に有効な手段を取れない自分が情けなく、そんな自分に憤りを覚える毎日でした。しかし、あの小さな箱が、その全ての状況を変えたのです。大丈夫です。なんとなくですが、想像はついています。勿論、私個人の勝手な想像ですし口外することもございません。それを踏まえた上で、医師としましてもこの状況に於いて、あの箱の力を借りることが可能ならば、それが最善と考えます。とりあえず箱の力を借りて、その間に原因の究明や薬草不足への対応を進めるのが良いと思うのです」
そう言い切ったタムーリーの力強い瞳を見て、ミカルダスも頷いた。
「分かった。諸々の理解感謝する。これからあの箱の量産について進める。王宮医師団から調査団を追加派遣するとカイゼルにも伝えておこう」
「承知いたしました。調査団として王宮医師数名の人選を至急行います」
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王宮に呼び出されて数日しか経っていないにも関わらず、また王宮への呼び出しを受けたカミドは内心「先日と同じ服装だが大丈夫だろうか……」などと、どうでも良い心配をしながら謁見の間にいた。
国王は謁見の間に入って来るなり、王座に座らずツカツカとカミドの方に近づいてきた為、カミドは顔を伏せたまま緊張で口を引き結ぶ。
「カミドよ、緊張することはない。今回は折り入って相談がある。かなり無理な要望だとは思うのだが、例の箱を千個ほど数日で作成することはできまいか」
治癒の魔道具ということもあり、王宮内での噂などにも配慮して国王は小声でそうカミドに問いかけた。
カミドの方はというと内心ほっとしていた。というのも——。
「国王陛下、可能でございます。お急ぎのようですから、今日中にもお納めできます」
「なにっ……!」
これには国王も思わず大きな声を出してしまう。
「それは大変助かる……しかし、あれから数日しか経っておらぬが、もうそんなにできたのか? 製作者は一人であっただろう?」
「はい。主要な部分は一人ですが、周りの部材等に関しては複数人で作成しておりますので大量にできております」
「そうか……本当に驚かされるな……。ああ、そうであった。販売価格を聞いていなかったので教えてもらえぬか」
「一個あたり千ルルドとなります」
「そんなに安いのか?!」
国王が驚くのも無理はなかった。何しろこの国のパン一つが五十ルルドほどなのだ。薬草などは一種類五百ルルドほどで売られている。
「平民に広く普及させることが目的ですので。それと、献上した物よりは効果を押さえておりますし、材料費も工夫しておりますのでさほどコストはかかっておりません。ですので、それくらいが妥当な値段だという結論に至りました」
「そうか……民のことを考えると確かにそれくらいだな」
(こんな物を手にすれば、金儲けのことしか考えられなくなる者も多いだろうが……このような善良な者達によって販売されることになって本当に良かった)
こうして、千個の箱はその日のうちに王宮へ納められた。なお、その貴重さから王の信頼の厚い近衛兵が数名派遣され、カミドの店までそれらの魔道具を取りに来たのだった。




