第22話 王宮への呼び出し
次の日の朝、珍しく王妃の侍女が、急ぎ王の部屋へ取り次ぎを願っていると連絡が入った。これから朝の様子見に、妻の部屋を訪れようと思った矢先の連絡に心臓が早鐘を打つ。
「まさか……妻は……」
嫌な想像に呼吸が乱れながらも侍女を迎えた。
「国王様、朝早くから申し訳ございません。一刻も早くお伝えしたく参りました。王妃様が朝食を完食なさいました!」
「なにっ……!」
「朝のお仕度に伺いましたら、既にベッド上で身体を起こしていらっしゃいまして、お腹が空いたとおっしゃられて……お顔に笑みまで……」
「ま、ことか……」
その後の言葉は続かず、ミカルダスは侍女と共に愛する妻エリアーヌの元へと急いだ。
部屋に入るなり、妻の姿が目に入り思わずはっと息を飲む。
「あなた……」
「エリアーヌ! ああ、本当に……」
「ご心配をおかけしました。今日起きたら、身体に活力が湧いていたのです。朝からお腹が空いてしまって……」
ベッドに近づいたミカルダスはエリアーヌを優しく抱きしめた。
「本当に良かった……こんなに嬉しいことがあるとは……」
そうして微笑むミカルダスの目に、昨夜枕元に置いた箱が目に入り、それを手に取る。
「まさか、この箱が……」
「起きたらあったので、気になっていましたの。その可愛らしい箱は何です?」
衰弱している王妃の身体を気遣いながら、昨日持って来られたその献上品について話して聞かせた。
「まぁ、そんなことが……しかし、その受け取った者の切り傷も本当にこの箱の効果だったのかも……」
「そうだな、いつもと違う事は、この箱を置いたことくらいだからあり得る。近くこれを献上した者を城に呼び寄せようと思う」
「ええ、そうしてくださいませ。私も是非その方に会ってみたいですわ」
「ふふ、もう復帰するつもりか? まだ静養した方が……」
「それまでに完全回復いたしますわ。それに、もう寝飽きてしまいましたの」
減った体重はそのままだが、快活に話す口調や表情は以前の姿が戻っていて、ミカルダスの心はじんわりと温かくなった。
それから日に日に王妃は元気になり、一週間ほどで庭を歩き回れるまでになったのだった。
献上品を王家に届けてからしばらくして、カミドは王宮へ呼び出された。献上品は、実際に販売を考えている物より治癒の効果を高くしていたこともあり、呼び出されることも想定内ではあったが、思ったより早かったことに驚く。
皆で話し合い、色々と聞かれたら、とりあえず国王には正直に話したほうがいいだろうということになった。ルルド王国の国王と王妃は、民に寄り添う治世を行っており評判が良いことや、王妃を治した物の正体についてきちんと知らせておいた方がいいだろうという結論に達したからだ。
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謁見の間という通常庶民では上がる機会は滅多にない場所に通され、カミドの心臓はバクバク音を立てていたが、店で待機しているトアやリーニャや息子のことを考え、しっかりしなければと足を奮い立たせた。
間もなく謁見の間に王と王妃が現れ、面を上げるよう指示された。王も王妃も温かな表情をカミドに向けていて少しほっとした。
「薬草専門店の店主カミドよ、この箱はそなたが献上したもので間違いないな?」
「はい、間違いありません」
「そうか…………皆、少しの間下がっていてくれ」
突然、人払いがされたのでカミドは少し驚いた。
「カミドよ、まずはこの箱を持ってきてくれたことに礼を言う。この通り王妃の体調が回復したのはこの箱の効果によるものだと思っている。最初は半信半疑だったが、様々な検証を重ねて今では効果を確信している……なんとも不思議なことだ。そこでなのだが、この箱についてどのように製作してのか教えてくれぬか? 王宮でも医師や魔導士達が解明しようとしたのだが分からぬのだ。もちろん無理強いは出来ないのだが、このようなものは初めてでな、個人的にも興味があるのだ」
「はい。ですが恐れながら、その箱についてお話するにあたり、お約束していただきたいことがございます。ご無礼を承知でどうかお聞き届けください」
真剣な表情でカミドがそう言い切ったことに、国王ミカルダスは少し驚いた。
(初めての謁見で緊張もあるだろうに……よっぽどの事情があるのだろうか)
「申してみよ」
「有難うございます。実は、その箱の製作者は私ではありません。そして、その者達の権利を守りたく、その者達や作製方法に関しては秘匿していただきたいのです。そして、その箱を庶民へ販売する許可をいただきたく、何卒、お願い申し上げます」
「分かった。製作者および作製方法に関して秘匿しよう。しかし、市民への販売は許可さえ取れば自由に行えるはずだが? 王家の保護が必要ということか?」
「はい、実は現在、私の薬草専門店は営業できない状況にあります……」
そうしてカミドが語ったトビアーヌ子爵の横暴な振る舞いは、王および王妃の逆鱗に触れることとなった。
「まさか、そのような事を行う者がいたとは……貴族としての在り方を全く理解していないようだ。この件はきちんと調査をさせて然るべき処置を行うこととする。そのようなことがあれば、そなたが用心するのも頷ける。しかも、これほどの効果のある物の製作者となると危険が及ぶことは想像できる……。因みに売るのはこれと同等の効果のものか?」
「いえ、もう少し効果を押さえたものにしようと考えています。あまりに効果がありますと、様々な問題があるかと思いまして」
「そこまで考えているのなら大丈夫だろう。医療に携わる者達の職や知恵が失われることになるのも良くないのでな」
「はい、風邪などの治りが少し早まったりする程度のものを考えております。価格も庶民でも買える位にする予定です」
「良く分かった。王家の保護による独占販売の許可を与えよう。さすれば、有象無象の貴族への牽制となるであろう」
「有難うございます」
「して、その製作者というのは?」
「はい、実は製作者はルーラル・アラキス魔法学校の生徒でございます」
「まさか、学生が!?」
王と王妃の驚いた顔に共感しつつ、カミドはこれまでの経緯を語った。
「そのような者がいるとは……」
「はい、私も未だに驚いております。本人はそれほど大したことには感じていないようなので、周りの私達で守ろうと考えております」
「そうか……とても興味深い。民達にとっても、この魔道具は大変価値のある物になる。そなた達が、どこぞの貴族のように私利私欲に溺れず、真っ当に販売しようとしてくれていることに王としても感謝する。是非、民達の生活向上のため、魔道具を行き渡らせてほしい」
「はい、尽力いたします」
その後、王妃エリアーヌからも感謝され、カミドは王宮を後にした。後日、王家の承認付きの販売許可証が届き、材料として木材やピロウの薬草は記載されているが、作製方法の欄は秘匿の印が押されており、トア達も胸を撫で下ろしたのだった。
実際、治癒魔法の存在は、国王ミカルダスにとってもとんでもない事態という認識だったのだが、製作者がルーラル・アラキス魔法学校に在籍しており、学校はどの国も不可侵の領域であることや、カミドの店のこれまでの運営実績に問題もなく、王妃を助けてくれた礼も兼ねて秘匿することとしたのだった。
カミドの王宮訪問後、すぐにトビアーヌ子爵の屋敷には調査隊が派遣されたのだが、肝心のトビアーヌ子爵の行方が知れず、調査は難航することとなった。




