第21話 とある献上品
『王家への献上品』という言葉にポカンとする三人に、カミドは説明を始めた。
「まず、トビアーヌ子爵家は、こんな強硬な手段で薬草の買い占めをしているのだから、このように素晴らしい治癒の力を発揮する魔道具が出てきたら、邪魔しに来ることは目に見えている。薬草でこれだったのだから、魔道具の利権の為なら何をするか分からない。でも、私は今回、お二人が学生という身分にも関わらず広く平民の生活を考えて、敢えて平民街でこの魔道具を売ろうとしてくれていることが嬉しかった。だからトビアーヌ子爵に邪魔されない道を考えてみたんだ」
そこで一呼吸置いたカミドは、三人が真剣に聞いてくれていることを見て続ける。
「ちょうど少し前からルルド王国の王妃の体調が良くなく、様々な回復方法を試されていると診療所の医師が言っていた。だから、この魔道具を献上して王家に認められれば、トビアーヌ子爵も表立って手は出せなくなるんじゃないかと思ったんだ」
トアとリーニャは、カミドが自分達の魔道具販売について理解し、深く考えてくれていることを嬉しく思う。
「トア、王家に献上するのは良いことだと私も思うわ。こんな素敵な魔道具すぐに広まって、トビアーヌ子爵みたいな貴族が群がってくるに違いないもの。王家の威光があれば少なくともこの国の貴族は口を出して来なくはずよ」
「うわ~、お貴族様が群がってくるのは勘弁! うん、献上しよう! ルミオンもそれでいい?」
「へっ、僕?」
「そうだよ、ルミオンもこの魔道具販売の一員なんだよ」
「そうよ、お父さんと一緒に販売してね」
「二人とも……ありがとう」
つい先ほどまで暗い顔をしていたのが一転、ルミオンとカミドの顔は希望とやる気に満ちた表情になったのだった。
その後、四人で考えた結果、王妃の体調の悪さがどれくらいかが分からない為、献上品はもう少し治癒の効果を上げた物にすることにした。
ルーラル・アラキス魔法学校は、どの国にも属さない独立した組織であるが、その所在地はルルド王国の首都に隣接しており、周りも全てルルド王国に囲まれている。その為、ルルド王国では、魔法学校の影響も大きく、以前より学校の理念である「自由と平等の精神」が国民の間に浸透していた。その為。ルルド王国では貴族と平民の垣根が他国より低く、百年ほど前までは下級貴族と平民との婚姻も多く行われていた。その為、今でも魔力を持って生まれる平民の割合が他国より多い。ただ、そのほとんどは少し魔力がある程度の為、そのまま日常生活を送るのだが、稀にルミオンのように魔力量が多く、学校に通う者もいた。
ほとんどの貴族が平民に対して温厚な接し方をするルルド王国で、今回ケイソン・トビアーヌのような貴族に目をつけられたことは不運だったとしか言いようがなかった。
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ルルド王国の王宮医師団長のタムーリー・カルは、今日も暗い面持ちで国王ミカルダス・ルルドの執務室を訪れていた。
「特に進展は無しか……」
「はい。申し訳ございません。他国も含め、薬や食品などありとあらゆる可能性を探っているのですが……」
「いや、お前達医師団の努力は分かっている。気持ちばかり焦ってしまってな……」
ルルド王国の王ミカルダス・ルルドは、今朝も最愛の王妃エリアーヌの部屋を訪れたが、相変わらず体調の悪そうな様子に心配と焦りを覚えていた。食事も二、三口しか食べられなくなっており、無理をして笑顔を作っているが、日に日に衰弱していくのが分かる。自分の前で無理をするのが忍びなくて、寝所も分けていた。
王妃の具合が良くないことは国中で知られており、今日も献上品として王妃の為にと、健康に良いという様々な食材などが届いており、王宮医師団がそこから選りすぐったものを王の間に並べることとなっていた。万が一の可能性に賭けて、毎日それを自分の目で確かめるのが国王ミカルダスの日課となっている。今日もミカルダスは、タムーリーと共にそれらを見分していたのだが、その中でひと際小さい掌に収まるような白い箱型のものが目に留まった。
「これは何だ? 食品ではないようだが?」
「はい、献上に訪れた町の薬草店の店主によれば、様々な傷や不調に効くお守りのようなものとのことです。確認しましたが、危険はありません」
献上品を受け取った医師団の一人がそう答える。
「誰か試してみたか?」
「いえ、王への献上品ですので。ただ、受け取った後に手を見ると、あったはずの切り傷が消えていました。しかし、私の勘違いかもしれません」
「そうか……。では、私が預かっておこう」
そう言うと、ミカルダスはその小さな白い箱をポケットに入れた。ただ、そういった触れ込みの物はこれまでも沢山届いており、どれも大した効果は出ていない為、特に期待はしていなかった。
国王ミカルダスは、ここのところ妻への心配から寝不足で身体が重く、午後になると眠気が襲ってくるようになっていた。しかし、その日は夜になっても身体も頭もすっきりしていた。
(今日はなんか身体が軽く感じるな……)
そう思いながら執務室の椅子から立ち上がると、ポケットから例の白い小さな箱が転がり落ちた。
(ポケットに入れていたのを忘れていたな……まさか、これの効果か……まさかな。いや、しかし、お守りでも何でも試してみよう。選択肢も時間もないのだから……)
医師団の説明では、箱の内部には治癒の薬草が塗ってあるということだったが、通常の薬草を用いた治癒の効果というのは、大量の薬草の煎じ薬を飲んで風邪が通常より一日か二日ほど早く治るくらいだ。だるさなどの漠然とした不調なら、煎じ薬を薄めたものを一か月飲み続けて少し楽になったと感じるくらいの物で、いずれも即効性はない。
王という権力があっても、妻の病状も改善してやれない自分は無力だと感じながら、その日の夜、お守り程度にと王妃の枕元に箱を置いたのだった——。




