第20話 薬草専門店の危機
魔道具は出来たものの、その販路について解決策が見い出せないトアとリーニャだったが、とりあえずいつでも売れるようにどんどん商品を制作していた。そして、授業の合間やお昼休みにコソコソ二人で相談するのが日課となっていた。
「ルルドの町の商人にいきなり持って行くのはダメかな~?」
「学生だから詮索されるでしょうし、お互いに信用できるかも分からないから避けたいわね」
「……あっ、うちのクラスの平民の親でそういう商売やってる人いないかな?!」
「全然その線を考えていなかったわね! それとなく聞いてみましょう」
そうしてクラスメイトにそれとなく聞いてみた結果、同じクラスの男子学生ルミオンがルルド王国の薬草専門店の息子だということが分かった。しかし、ルミオンは家の都合でここ数日学校を休んでいるということだった。担任のロジャーに聞きに言った二人だったが、ルミオンがいつ学校に来るかや、休んでいる理由についてははぐらかされてしまう。
「なんか、先生があそこまで言わないって怪しいよね」
「ええ、すぐに治るような風邪とかが理由なら話してくれると思うのよね」
「う~ん、いつまで待っていればいいのかも分からないし……ルミオンの家の場所は聞いたから、直接行ってみようか?」
「そうね、クラスメイトを心配してっていう理由ならいきなり訪ねてもおかしくないわよね」
そうして早速その日の放課後にルミオンの家兼店舗を訪れた二人は、店の入り口を見て驚いてしまう。
「え、しばらく休業ってなってるよ!」
「それに、入り口のドアが壊れているわね……」
「うん、何かぶつかったような感じ……でもドアの穴からちょっと見える……あっ、人がいるよ!」
「え、トア、覗くのは……」
「すみませーん!」
「あっ、そんな大声で……」
リーニャが慌てて止めようとしたところで、ドアが開いた。
「君達、学生さんかい? その校章は……魔法学校の?」
「はい、私達ルミオンのクラスメイトで、私はトアって言います」
「私は……リーニャと言います。突然お伺いして申し訳ありません」
「そうかそうか、ルミオンのお友達か…………ちょっと散らかっているけれど、どうぞ入って」
ルミオンの父カミドは疲労が滲む表情だったが、二人を奥の応接室へ通し、お茶と菓子を出すとニコリと微笑んだ。
「息子を訪ねてきてくれて有難う。今、ルミオンを呼んで来るからね」
しばらくするとルミオンが部屋へ入って来たが、二人を見ると驚いた表情になる。
「リーニャとトア!」
「やっほールミオン!」
「いきなりで驚かせてごめんなさい」
「いやいや、来てくれて嬉しいよ」
そう言いながらも、少し複雑そうな顔になったルミオンは、父カミドの方を見た。そして、カミドが頷いたのを見ると、下を向いてぼそっと告げる。
「僕ね、学校辞めるんだ……」
「「え……」」
「色々あって……」
「ルミオン、その先は父さんが話そう」
そして父カミドは一か月ほど前に起きた出来事を話し始めた——。
聞き終えると、トアとリーニャの顔はかなり険しいものとなっていた。
「何その横暴な貴族は?! トビアーヌ子爵だっけ? おじさんのお店の薬草を買い占め続けたら、町の人が困るなんて私だって分かるよ!! 病気の時に薬がないのは辛いもん。だからおじさんは、町の人の分は残してほしいってお願いしたんでしょう? そしたら圧力をかけて薬草が仕入れられないようにするなんて……貴族様ってそんなに偉いの?? ……あ、リーニャごめん。リーニャみたいな良い貴族様もいるのに……」
「私のことはいいのよ……私だって怒っているんだから!」
「リーニャ様は貴族様でしたか……失礼しました」
「カミドさん、畏まらず普通にしてください。私はあくまで平等を重んじる魔法学校の生徒として来てますし、ルミオン君のクラスメイトですから」
「有難う。じゃあ、普通にさせてもらうね。二人がそう言ってくれて、少し明るい気持ちになれたよ。商売ができなくなり収入も無くなったから、ルミオンも学校に行かせられなくなってしまったけれど、最後に温かい気持ちになれた……ありがとう」
「待って、おじさん。多分、どうにか解決できるよ!」
そう言うとトアはリーニャと顔を見合せ頷き、ポケットから魔道具を取り出したのだった——。
「……という訳でね。えへへ、ごめんねルミオン! 実はここに来たのも元はそういう理由だったんだ。でも、もっと早く知れてたら良かったよ! そんな貴族様ぶっとば……」
「トア、もうっ、そんなこと出来ても言っちゃダメよ! 貴族の権力は恐ろしいんだから」
二人が少しおかしい調子で話しているのをルミオン親子はボーっと見つめていた。しばらくするとルミオンが口を開いた。
「父さん、なんか天使が来たみたいだね……」
「まさか……そんな魔道具が……」
その言葉を聞いたトアは、はっとカミドの方を見る。
「おじさん、どこか怪我している所とかある?」
「あ、ああ、ちょうどこの前店が襲撃された時の切り傷がここに……」
袖を捲ったカミドの腕には瘡蓋が出来てはいるもののまだ周りが赤いままの傷があった。
「じゃあ、この魔道具を実証するね。今回売る物より、これはもう少し効果が高いものなんだけれど、分かりやすいと思って特別に持って来たんだ……このままこの箱を握ってみて」
「こうかい?」
「うん、そう。そうすると……ほら見て、少しずつ良くなるから」
「お……ぉおお? 本当だ! 赤みが引いて……熱感もない……」
それからしばらくして傷は完全に何もなかったかのように綺麗に治った。
「まさか……そんなことが……」
「父さん……」
「それでお二人には最初に言ったことですが、製作方法に関しては秘密だけれどピロウの薬草が使われているようだという話で徹底してください」
リーニャが改めてそう言うと、カミドもルミオンも神妙な顔で頷く。
「勿論、分かっているよ」
「でも、本当に治癒魔法って存在したんだ……あれっ、なんかあまりのことに僕の感覚が麻痺してるのかもしれない。これってもっと大事だよね……だって治癒魔法の使い手なんて世界中探しても……」
「やだなぁルミオン、どこかにはいるよ! 私だけが使えるなんて、そんなことないって」
「いや、でも……」
「ルミオン、とにかく約束守ってね」
「うん、大丈夫だよ、リーニャ。恐ろしすぎて口に出せないよ」
三人がそんな話をしていると、少し何かを考えていたカミドが顔を上げた。
「いっそのこと、王家への献上品にしてはどうだろうか?」




